ウクライナで現在、関係者が追及しなければならない「和平」は、「公正な和平」ではなく、「受け入れられる和平」の実現だろう。ウクライナのゼレンスキー大統領が「公正な和平」に固守するならば、戦争は終わらないし、多くの犠牲がさらに出てくることは必至だ。「公正」に拘れば、相手側の「他の公正」と衝突するからだ。そこで「受け入れられる和平」を求めて交渉することが現時点ではベストな選択となるわけだ。
ズッピ枢機卿、ドイツのカトリック通信9月1日から
バチカンのウクライナ問題担当の教皇特使マッテオ・ズッピ枢機卿は「ウクライナ紛争において、人々が現在、目指すべきは『公正な平和』よりも『受け入れられる平和』だ。平和と正義は、生き残るために互いを必要とするシャム双生児のようなものだが、必ずしも同じ速度で成長するわけではない」と述べる一方、トランプ米大統領のウクライナ和平イニシアチブに言及し、その努力を称賛している。
(ズッピ枢機卿(69)は2015年からボローニャ大司教、2022年からイタリア司教協議会会長を務める。過去3年間にわたり、ロシアとウクライナの対話に関するローマ教皇の特使を繰り返し務めてきた)
同枢機卿は「今こそ外交が再び介入すべき時だ。トランプ大統領の和平イニシアチブは大きな変化をもたらした。トランプ大統領の介入は、ロシアとウクライナとの対話再開に不可欠だった。外交は今、再び選択肢を模索し、相手側が何を望んでいるのか、そしてどのような安全保障が必要なのかを理解することができる。そして我々は、平和には少なくとも三人の当事者が必要だということが分かった。二人の反対者同士では十分ではないのだ」と説明している。
ボローニャ大司教の同枢機卿は、ウクライナの和平実現のために国連の更なる関与を求めた。「超国家的な組織が存在しなければ、最も強い者の論理が優勢になり、それは常により危険なものとなる。しかし、真の力は、平和を可能にする法と手段だ。永続的な平和を築くには、粘り強さが必要だ。交渉の余地を見つけ、説得力を持つことが重要だ」と強調。同時に、「私は夢想家ではない。状況がどれほど複雑であるかは理解している。しかし、長期的に暴力を終わらせるには対話しかない。まずは、全員が停戦に向けて努力しなければならない」と述べている。
ドイツのカトリック通信が1日報じたところによると、ローマ教皇レオ14世は、セペ枢機卿を特使としてウクライナのリヴィウに派遣する。同枢機卿は9月6日、リヴィウ大司教区創設650周年記念式典に参加することになっている。
ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談は現時点ではまだ多くのハードルを越えない限り、非現実的だ。プーチン氏はウクライナのドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)を完全に併合し、へルソン州とサボリーシャ州は現状の国境線で戦闘を凍結。そしてウクライナの北大西洋条約機構(NATO)の加盟を拒否する一方、ウクライナ側が主張している国境線の安全保障については、欧米諸国の関与を容認するほか、ロシア語の公用語化、ウクライナのロシア正教の活動の承認を求めている。一方、ゼレンスキー氏は領土の分割・譲歩については「我が国の憲法がそれを許さない」として強く拒否している。両者の間では依然、大きな相違、対立点が存在するわけだ。和平交渉をスタートすること自体は容易ではない。
そこで包括的な和平交渉を開始する前に、停戦を実現することが急務となるが、プーチン氏はロシア軍に既に9月攻勢を命令したという情報が流れている。現時点では停戦に応じる考えはないだろう。「受け入れられる和平」のための選択枠も次第に狭められてきている。
ゼレンスキー大統領 ウクライナ大統領府公式サイトから
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。