理解に苦しむ新浪剛史サントリー会長の違法サプリ疑惑

新浪剛史サントリー会長が違法サプリ疑惑で同社会長職を辞任しました。「理解に苦しむ」というのが私の率直な第一印象です。この場合の「理解に苦しむ」とは新浪氏がなぜそのような薬物を入手/摂取したかが理解できないという意味です。ただ、真実がまだ闇の中、一部世論が先に「判決」に走ってしまったことに「ちょっと行き過ぎではないか」とも感じています。

新浪剛史社長 アメリカ大使館動画より

事の成り行きから見てみましょう。一部報道では知人の米国の女性から「違法薬物とは知らず購入した」と報じられています。実態としては有力な売人が警察に捕まり、その販売リストに新浪氏の名前があったというもの。売人と新浪氏の米国知人との関係はわかりません。

警察は8月22日に新浪氏の自宅に家宅捜査に入りますが、CBD(カンナビジオール)が見つかります。ただし、CBD自体は違法性がありません。ただ、問題になるのがCBDに違法なTHC(テトラヒドロカンナビノール)が混入することがあり、その場合は違法薬物ということになります。

もし新浪氏がCBDだといわれ、それを購入し、仮にそれにTHCが意図的にしろ意図せずにせよ、混入していた場合、それをもてば違法かという疑問があります。なぜなら新浪氏は違法ではないとの言葉を信じて購入したもので新浪氏に違法薬物入手の意図はなかったと考えられるからであります。また新浪氏個人の立場からすればそこにTHCが入っているかどうかの判断や成分分析は容易にはできないでしょう。

疑問点は警察が大物に踏み込む時は絶対確証がないと難しいのです。警察のかなり上の幹部まで本件は踏み込むべきか検討したはずですし、官房長官には情報が漏れていたと思います。当然、「大丈夫か?」という警察内部の声があったはずですが、現場が何らかの理由を持って確信を持っていたと思われます。ところが家宅捜査ではCBDしか出てこず、空振りだった可能性はあります。押収されたCBDを分析してそこにTHCが入っていたとしてもそれをもって新浪氏を有罪とするのは難しいかもしれません。

あくまでも限られた情報の中での話なので公開されていない情報があればそれは別問題になります。

一方のサントリー側は鳥井社長が新浪氏と2度、面談、その後、8月28日に新浪氏を除く役員会議で「解任ではなく辞任を促す」という判断を行い、1日に辞任発表したものです。また経済同友会の会長をしていますが、こちらも企業の会長という職を辞した以上、会長に留まるのは難しい気がします。ただ、朝日新聞は「(新浪氏は)『今のところ辞める考えはない』とし、続投の意向を示した」と報じています。政府の経済財政諮問会議の民間議員もしていますが、こちらの行方も注目されます。

サントリー社の判断は会社の保身が理由で、これはやむを得ないものがあります。特に同社がサプリも扱っていることから新浪氏が同社製ではない違法疑惑のあるサプリを所有/摂取したことで企業イメージを大幅に遺棄するとされればそれは従わざるを得ません。また株主が黙ってはいないでしょう。新浪氏もそれに強く反発する十分な理由はなかったと思われます。氏の所有していたCBDが違法性がなく、正当にそれを持っていたと万人に理解を求めるプロセスは長く厳しいものになるわけで会社はそれに付き合っていられないということです。

では最大の疑問は新浪氏ほどの人物がなぜリスクを冒してまで知人からそれを入手しようとしたのか、ここが私には理解できません。私が思いつく理由は2つ。1つは新浪氏が抱える様々な業務上の案件でストレスを抱え、気持ちを整えたいがために日本にはない「よく効く」サプリだと聞いてそれを購入したか、2つ目はそれを勧めた知人女性と絶対の信頼関係が構築されていたのか、であります。ふと思ったのは新浪氏が離婚3回結婚4回という事実が意味することがその背景にあるのかであります。ここは全くの想像の世界で何の根拠もありません。

今後の展開を見守るしかないのですが、新浪氏は経営者としての手腕は日本を代表する剛腕だと言い切って良いと思います。特に私の印象ではローソンでの貢献、そしてサントリーに移ってから同社に新たなる切り口を与え、アメリカのビームを買収し、買収後、サントリーと一体感を作るプロセスにおいて並々ならぬ努力をして海外企業買収で成功に導いた代表的ケースとなったことは特筆すべき功績であります。また国際感覚豊かで経営に甘えを許さなかった点も高く評価されてきました。故に個人資格で入る経済同友会の代表幹事や政府諮問機関の民間議員を通じて政界財界そして世界に発信し続けてきたわけです。何もなければ将来、確実に褒章を授賞される候補でした。

年齢は66歳かと思いますが、経営者としてのゴールがそこに見えていたのです。同じ経営者として私は「惜しい」という言葉しか出ません。日経の滝田編集委員が「主張内容が高邁であるほど、李下に冠を正さずを徹底する必要があるはず」と述べています。まだ全体像が見えていない中ではそこまで言い切るにはちょっと早い気がしますが、日本の代表的現役経営者がこういう形で陥落したことはショックを隠せません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月3日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。