習近平国家主席の12年後の「中国の夢」:中露朝の結束をアピール

中国で3日、「抗日・反ファシズム戦争勝利80周年」を記念する軍事パレードと記念式典が北京市の天安門広場一帯で行われた。同式典には世界から26カ国の国家元首、政府首脳たちが参加した。西側からは、欧州連合(EU)から加盟国のスロバキアのフィツォ首相、バルカン半島からセルビアのブチッチ大統領が参加しただけだ。1万人以上の兵士、数百台の車両、航空機が式典に動員された。

テレビで「史上最大規模の盛大な軍事パレード」を観ている時、「最近は、軍事パレードが多い」という感慨を抱いた。ロシアのプーチン大統領は5月9日、モスクワのクレムリン広場で対独戦勝80年記念軍事パレードを行ったばかりだ。イランでもイスラエル軍の「12日間戦争」後、自国の復興を宣布する軍事パレードを挙行した。また、トランプ米政権は6月14日、首都ワシントンで軍事パレードを行っている。陸軍創設250年の記念日を祝うためだ。湾岸戦争直後の1991年以来34年ぶりだった。

中露両国会談 ロシア大統領府公式サイトから 2025年9月2日

一連の軍事パレードを考えると、「世界の指導者たちは競って軍事力の強化、新しい先端兵器の開発に腐心している。世界は軍縮から軍拡に走り出してきた」という印象を強くする。実際、ローマ・カトリック教会のローマ教皇レオ14世は先月31日のアンジェラスの祈りを捧げた後、「世界は今、”武器のパンデミック”の中にいる」と警告を発していた。

話を中国の軍事パレードに戻す。 今回の軍事パレードでのハイライトは、プーチン大統領、金正恩総書記、習近平国家主席が揃って天安門楼上で並んだことだ。3カ国の結束をアピールする形となった。ホスト国の習近平国家主席を挟んで右にプーチン大統領、左側に金正恩総書記が並んだ。

習近平主席は、5万人以上の聴衆の前で、「世界は今、平和と戦争、対話と衝突の分岐点に対峙している。中国は歴史の正しい側にしっかりと立ち、平和的発展の道を歩み、他の民族と運命共同体を築いていく」と述べた。その内容は、米国ファーストを標榜し、独自の関税政策で他国を混乱に陥れているトランプ米大統領の政策を意識したものであることは間違いないだろう。

当方が気になったことは、今回、初めて多国間の指導者が結集する中国の軍事パレートに参加した金正恩総書記の反応だ。中国の先端武器を観てどのように感じただろうか。「わが国も中国のそれに負けない軍事力を構築する」という危険な願望を抱いただろうか。

金正恩総書記は2024年6月、ロシアのプーチン大統領と会談し、安全保障・防衛分野などを網羅した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結する一方、約12000人の兵士をロシア軍支援のためウクライナに派遣するなど、露朝両国は軍事同盟の関係を深めている。その一方、盟友中国との関係が疎遠になってきた。そこで金正恩総書記は中国との関係を再び「血で結ばれた同盟」まで引き上げるために、今回の北京訪問を決めたのではないか。

習近平国家主席は人民大会堂でプーチン大統領と会談し、その後、私邸でプーチン大統領を歓迎している。クレムリンによると、プーチン大統領は露中関係が「かつてないほど高いレベルにある」という。国営新華社通信によると、「習近平国家主席は『両国関係は国際的な変化の試練を乗り越え、今後も拡大できる』と述べた」という。報道によると、両国はエネルギー、航空、人工知能、農業などの分野を含む20以上の協力協定に署名した。

調印された合意の中には、中国への新たな巨大パイプラインの建設も含まれている。国営ガスプロムは「シベリアの力2」を通じて、今後30年間で500億立方メートル以上のガスを供給する予定だという。

なお、ドイツ民間放送ニュース専門局nTVでケルン大学の政治学者トーマス・イェーガー教授は北京の軍事パレートと習近平主席の演説を聞き、「習近平国家主席の夢であり、世界だ」と述べていた。

ちなみに、新国家主席に就任した当時の習近平氏は2013年3月17日、全人代閉幕式の演説で「中国の夢」という表現を初めて使い、「中国型の社会主義路線を堅持し、5000年余りの民族の夢を実現する」と述べた。あれから12年以上が経過した。1万人の兵士が織りなす盛大な軍事パレートを観ながら、習近平主席は「自分の夢が実現した」と満足しているだろうか、それとも「台湾再統一」という宿願が実現されるまで、夢はまだ終わりを迎えていない、と決意を新たにしただろうか。

中国共産党HPより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。