オーストリアのゲルハルト・カーナー内相は4日、記者会見で銃規制法の強化案を発表した。同法案は同日、議会内務委員会に提出され、2週間の審査が承認された。同法案は国民議会で審議し、10月の連邦議会の決定を受け、同法案の最初の部分は直ちに施行される予定だ。

記者会見で銃規制法の強化法案を発表するカーナー内相(中央)、オーストリア内務省公式サイトから、2025年9月4日
銃規制法強化案によると、銃器のカテゴリーB(拳銃、連発散弾銃、半自動小銃)の購入年齢の最低年齢は従来の21歳から25歳に、カテゴリーC(ライフル銃または滑腔銃)は18歳から21歳にそれぞれ引き上げられる。ちなみに、カテゴリーAは禁止武器および軍需品で、一般国民は購入できない。銃器は今後、登録販売業者からのみ購入可能となり、個人からの購入はできない。狩猟者やスポーツ射撃者は対象外だ。「同法案は、安全性が強化される一方で、銃器を責任を持って扱わなければならない人々に不必要な制限が課されることはない」という。
また、銃器当局が登録手続き中に精神疾患に関する情報を入手できるようにすると共に、銃器購入後配達までのクーリング・オフ期間は3日から4週間に延長される。
同国が銃規制法の強化に乗り出すことになった直接の契機は、オーストリア南部シュタイアーマルク州の州都グラーツの高校で6月10日に発生した銃乱射事件だ。同学校の元生徒が突然、2丁の武器、拳銃と散弾銃を持って教室に乱入して乱射し、先生1人と生徒9人が死去し、十数人が重軽傷を負った。容疑者(当時21歳)は犯行後、校内のトイレで自殺した。
警察当局によると、犯行は単独で、容疑者は前科はなく、武器も合法的に犯行直前に購入していた。オーストリアでは18歳以上になれば、武器を購入し、所持できる。容疑者は武器許可証を持っていた。武器法によると、武器は3分類され、容疑者が所有していた武器はカテゴリーBに入り、購入前には精神的診察を受けていた。ちなみに、同国内務省によると、オーストリアでは今年4月現在、約37万人が約150万丁の武器を所有している。
オーストリアの戦後で最悪の銃乱射事件(犠牲者10人と容疑者1人、計11人が死去)を受け、ストッカー政権は「国の悲劇だ」と述べ、銃規制法の強化に乗り出すことになったわけだ。
一部のメディアでは、オーストリアは欧州でも銃所有がかなり自由で、銃社会だと報じていたが、銃の購入と銃携帯には厳格な武器法が施行されている。ただ、バルカン半島のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の影響などもあって、かなりの武器がオーストリア国内に不法に流れ込んでいる。
なお、政府の銃規制法の改正案について、野党第1党の極右政党「自由党」は4日、プレスリリースを通じ、「同改正案は国民の自由と市民権への不相応な干渉に当たる。また、改正法案は単なる場当たり的な立法だ」と指摘し、反対を表明している。それ以外の政党は同改正法案を支持している。
オーストリア心理学者協会(BOP)はプレスリリースで、銃規制強化計画を歓迎する旨を表明した。特に、カテゴリーCの銃器にも臨床心理学的評価を義務付ける提案と、5年ごとの心理的フォローアップ検査の実施、年齢制限の引き上げと定期的な見直し等々も歓迎している。
ちなみに、心理的適性検査の場合、遡及適用も可能となる。今年6月以降、カテゴリーBの武器の新規申請はすべて、適性検査を実施する必要がある。カテゴリーCについては、遡及適用は2年間まで適用される。
カーナー内相は記者会見で、グラーツの学校で発生した銃乱射事件を想起し、「オーストリアの歴史における悲劇的な節目であった。社会と政治家にとって、現状維持では済まされないことは明らかだった」と述べている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






