逆回転する世界の潮流「グローバル・Uターン」の時代

何もかも回れ右で逆戻り

米国の国際的指導力が衰退し、米政治学者のイアン・ブレマー氏が著書「Gゼロ後の世界=主導国なき時代」を2012年に執筆しました。この場合の「G」は覇権国ないし主導国の意味です。国際政治論では同氏の「Gゼロ」論に言及されることが多く、世界は「G」なき時代になったのかと、その時は思いました。

どうもその「Gゼロ」論の寿命は10年余だったようです。トランプ氏の独裁的な外交姿勢、世界観の反作用から、中国の習近平国家主席がトランプ政権に反発する新興・途上国「グローバルサウス」を引き寄せ、新しい国際秩序の形成に向っています。日本の米国に対する過剰な依存から抜け出し、アジアや豪州との連携を強化しようとしています。新たな主軸国(G)ないし新たなグループの誕生でしょうか。

私は米国のトランプ氏、露のプーチン氏、中国の習氏、及びのその同盟国、周辺国の政策、外交をみていると、「逆回転する世界の潮流=グローバル・Uターンの時代」に入ったような気がしてなりません。戦後80年、米欧主導で形成されてきた国際秩序の流れが多くの分野、次元で「地球的な逆回転」「世界的規模のUターン」が始まっているようです。

このブログを書き始めましたら、米トランプ大統領が国防総省を「戦争省」の改称するとのニュースが飛び込んできました。米国は1947年の国家安全保障法で陸、海、空軍を統括することになり、1949年にそれまでの「戦争省」を国防総省に改称しました。それを「戦争省」に戻す。まさに7、80年前にUターンです。

中国の軍部は中国人民解放軍、ロシアはロシア連邦軍、フランスはフランス軍、ドイツはドイツ連邦軍です。米国がなぜ「戦争軍」としたのか。国を守る「国防」でなく、「戦争」を仕掛けることも想定しているとの意味でしょうか。ウクライナ戦争を仕掛けているロシアは、軍事力で領土拡張を狙う帝国主義に傾斜しています。それへのけん制か、備えかもしれません。

ChatGTPに聞いてみると、「英語には『Grobal Uturn」』という定着した専門用語はないけれども、ニュアンスとしては十分に通じる。2、30年まえに「Grobal Uturn」というタイトルの本が出版され、読んだような記憶があるので、この表現を使いました。もっともChatGPTによると「このタイトルの本は検索では見当たらない」そうです。

とにかく、政治構造、経済構造、社会構造、地球環境政策、情報社会のあり方、民主主義の姿、人々の価値観など、目につく多くの次元で、Uターン現象が起きているような気がします。ChatGPTは「De- Grobalization(脱グローバル化」、「Reverse globalization(逆グローバル化)」という表現も使えるといっており、あらゆる次元に変化をもたらしてきた米欧主導のグローバル化が行き詰まった。真っ先に行き詰まったのがその米国です。そこで「逆回転」に転じるということなのでしょう。

政治の次元では、最大の民主主義国家の米国が独裁国家となり、民主主義は凋落しています。経済は国家主導型資本主義となり、自由貿易主義は高率関税政策によって保護貿易主義に変わりました。国家主導型資本主義は中国が先行し、米国も後追いしなければ、中国に追い上げられるとの考えでしょうか。金融、マネー市場がものをいう自由主義経済によって所得、資産格差は広がり、富は一部の富裕層に集中しています。

司法、行政、立法の三権分立は強引な人事により、名目だけになりつつあり、中央銀行(FRB)もトランプ氏によって、政治からの中立性を奪われかけています。地球環境政策もUターンが加速し、地球の持続的可能性が怪しくなってきました。そう数えていくと、Uターン現象はあちこちにあり、現実の政治の前に、これまでも政治論も経済理論も名を残すだけになっていくのでしょうか。なんだ、米国も中国やロシアと変わらない国になっていくのかと思うと残念で仕方がありません。

プーチン大統領、習国家主席、金総書記 クレムリンHPより


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。