「東京暮らし」の損切りライン

黒坂岳央です。

「自由で便利な生活を送りたい」という思いから東京へ移り住む人は非常に多い。筆者もその一人で、若い頃からずっと東京へのあこがれが強く、正社員で働いていた時期もあった。

確かに東京で生活をすると大変な魅力が多い。遊びはもちろん、特に仕事については東京にしかない企業、仕事は数多くあるので「どんな人でも東京に来れば便利で楽しい生活が待っている」という感覚がある。

だが時代は変わった。もはや東京暮らしがあまりにも高コストになり、明確な損益分岐点が存在すると思っている。これを知らずに住んでしまうと、生活の利便性を求めて来たはずが、逆に貧しくて不便な暮らしに陥る。

chachamal/iStock

東京の魅力と落とし穴

東京には「世界水準の都市プレミアム」がある。最先端のビジネス機会、圧倒的な文化資本、深夜でも移動できる交通網、医療や教育の選択肢の豊富さなど、地方都市ではなかなか得られない恩恵だ。

だがその裏側には、家賃の高さ、狭い居住空間、慢性的な通勤ラッシュといったコストも伴う。

最近では円安とインフレによるダブルパンチで、よほど経済的に余裕がなければ、郊外からの長時間通勤を余儀なくされるか、都心の極端に狭い住居でストレスを抱えながら生活することになる。

これでは「自由で便利」を求めて来た意味がない。エンタメ要素や人との出会いを除けば、同じ金額を出せば生活レベルは地方の方がよほど豊かだからだ。

損益分岐点を決める要素

東京に住むかどうかを判断する際には、次のような要素を損益計算に組み込むべきである。

まずは何と言っても収入水準だ。これは過去記事でも述べたことがあるが、40代で年収400万円未満であれば、東京に住む経済合理性は薄い。家賃比率が手取り収入の3割を超えるようなら、生活の質を著しく下げるリスクが高い。

しかもこれは山手線の外側に住む場合に過ぎず、最近では山手線の内側で家族持ちの場合だと、年収1000万円でも心もとない水準となってしまう。

筆者は子どもが生まれた後、脱サラして地方移住をした。家はとにかく広く、家の中で短距離走ができ、庭に池を作ったりサッカーやドッジボールができるほど広い家に住むことができた。筆者の周囲には同じくらい広い家に住んでいる人はいくらでもいるのだが、同じ生活を東京圏で実現できる人はほぼいないだろう。そのくらい地方は圧倒的に家が広く、しかも安い。

2つ目は時間価値だ。通勤時間は「隠れたコスト」である。手取り時給に通勤時間を掛け算すれば、年間数十万円規模の実質コストになる。満員電車のストレスや睡眠不足も加味すれば、その負担はさらに重い。あまりに遠距離通勤になるなら、東京オフィスへの通勤は合理的でなくなる。

3つ目は居住環境だ。山手線内側の便利さは魅力的だが、ワンルーム6畳で月10万円超という現実がある。広さ、日当たり、静けさなどを犠牲にしてまで都心に住む意味があるかを見極めなければならない。

そして最後は仕事内容だ。メディア、スタートアップ、クリエイティブ業界など、東京ならではの仕事であれば東京で働く合理性は担保できる。問題はそうではない付加価値の高くない仕事だ。

たとえば派遣スタッフで単純な事務作業であれば、生活費と多少高い程度の時給は割に合わない。その場合、名古屋や博多など地方の都心で働く方が合理的になる。実家から通える人ならなおさら東京で働くと経済的マイナスは大きくなる。

東京の収入で地方暮らしが最適解

これらの要素を考慮すると、最も合理的に思えるのは「東京の収入で地方に暮らす」である。

手前味噌のようで恐縮だが、筆者はそれを実践している。現在は田舎に住んでいるのだが、仕事は東京にオフィスや本社のあるものばかりだ。講演やテレビ番組への出演、インタビューなど出張を伴う場合も、東京に行くことがほとんどである。

この場合、もちろん収入や専門性など仕事内容は東京プレミアムが乗せられたものとなるが、物理的な場所は地方にいるので経済的合理性の差は最大化される。昨今は地方でもインフレが進行しているが、特に住居については地方は圧倒的に安い。

地方では500平米の土地に150平米の戸建てが数百万円から買えてしまう。もちろん、家自体はかなり古いのだが、東京で1億円を出して極狭マンションを無理して買うくらいなら、地方の家に投資する方がQOLの面で遥かに合理的と言える。

筆者は近々、より都会(東京ではない)へ引っ越し予定なのだが、引っ越し先では東京から移住してきたエンジニア、医師、経営者もいた。彼らは「東京の半額以下でハイグレードタワマンに住める」といっていた(戸建ての売り主たちであり、内覧時の会話から)。

東京生活の是非は、単に「住みたいかどうか」ではなく、家計・時間・健康の三つを軸に計算して判断すべきである。少なくとも40代で年収400万円未満なら、東京以外の都市を検討した方が経済合理性は高いだろう。筆者も地方で快適な生活の味を知ったので、東京に暮らすことは当面なさそうである。

 

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著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。