首相官邸HPより
……9月8日という運命の日
明日の話だ。石破茂という男の政治生命が、自民党総裁選挙管理委員会の一室で決まる。
昨日テレビで石破氏の会見を見たが、目が泳いでいた。「総裁選は党が決めること」なんて他人事みたいに言っているが、当の本人が一番分かっているはずだ──自分がどれだけ嫌われているかを。
結論から言おう。石破首相に勝ち目はない。
追い詰められた男の5つの選択肢
選択肢1:総裁選実施が否決される
これが唯一の「延命」シナリオだが、まあ無理だろう。わざわざリコール規定まで持ち出して石破降ろしを画策している連中が、今更手を緩めるわけがない。せいぜい数日の猶予をもらえる程度。傷口にバンドエイドを貼っているようなものだ。
選択肢2:総裁選で堂々と戦う
冗談だろう。過半数の議員が「やめろ」と言っている状況で出馬? 政治的な公開処刑に等しい。2002年にリコール規定ができて以来、初の発動となれば歴史に名は残るが、それは「恥ずかしい記録」としてだ。
選択肢3:解散で総裁選を回避
これが笑える。解散したって、衆議院議員は議員じゃなくなるが党員のままなんだから、総裁選のハードルはむしろ下がる。342人の過半数(172人)から147人の過半数(74人)へ。倒閣派からすれば「やったー!」だろう。自分で自分の首を絞めている。
今回は何て呼ぶ? 「逃亡解散」? 「自爆解散」?
選択肢4:両院議員総会で解任
これが一番現実的なシナリオかもしれない。約98人の署名で総会開催は必須、約148人で解任決議。特に解散なんてやった日には「権力の私物化」の完璧な証拠になる。もう言い逃れできない。
選択肢5:なりふり構わぬ抵抗
最悪のケースだが、「野良総理」の誕生もあり得る。総理大臣なのに党の支援ゼロ。閣議すらまともにできない。想像するだけで背筋が寒い。
解散権を阻止する制度的メカニズム
<法務大臣という最後の砦>
基本的な仕組み
- 解散には全閣僚の署名が必要
- 首相は閣僚を「任意に」罷免可能
- つまり反対派を罷免すれば「一人内閣」でも解散できる
憲法上は問題ないが、政治的には完全にアウトな手法だ。
法務大臣ができること
- 法的異議の表明:政府の法律顧問として解散の憲法的正当性に疑義を提起
- 内閣法制局との連携:解散詔書の事前審査で法的問題を指摘
- 政治的牽制:法務大臣からの異議は世論に大きな影響
完全に阻止はできないが、政治的コストを大幅に引き上げる効果がある。
<天皇陛下という最後の関門>
憲法的ジレンマ
- 天皇は「内閣の助言と承認」に基づいてのみ行動
- 内閣が分裂している場合、真の「助言と承認」が成立しているか疑問
- 天皇が政治的判断を行うことは憲法違反
閣僚の大半が反対している状況で「内閣の総意」と言えるのか? 天皇陛下が解散詔書を拒否する可能性は極めて低いが、憲法学上は重要な問題だ。
<内閣法制局という憲法の番人>
審査内容
- 憲法や現行法制との関係性
- 解散の憲法的根拠と手続きの適法性
- 詔書の文言の法的正確性
内閣法制局が解散の法的正当性に疑問を呈した場合、政治的に極めて大きな影響を与える。
国会閉会中の解散には臨時国会の召集が必要で、7-10日はかかる。
この間に何が起こるか? 反対勢力の組織化、メディアの批判、世論の悪化。時間が経てば経つほど、石破氏にとって不利になる。
永田町で聞いた話だが、もう水面下で動きは始まっているらしい。悪夢のようなタイムテーブル:
- 9月8日 総裁選実施決定
- 9月9日 緊急両院議員総会の署名集めが本格化
- 9月10日夜 解任決議可決
- 9月11日 「野良総理」の誕生
最終手段:物理的阻止
制度的チェック機能も政治的圧力も効かない場合、最終手段として残るのは物理的な阻止しかない。
自民党本部にバリケードを築いて石破総理を総裁室から出さない──情けないが、これが民主主義の最後の砦となるかもしれない。
冗談で書いているんじゃない。本気でそんなことになるかもしれない。民主主義の最後の砦が「実力行使」って、何の茶番だ。
要するに、これって単なる権力闘争でしょ? 「憲政史上の意義」だの「制度的チェック機能」だの、学者は立派なことを言うが、現実は泥臭い派閥争いだ。
でも、これが日本の政治の現実なんだろう。
解散権という「伝家の宝刀」も、使いどころを間違えれば自分の首を斬る結果になる。石破氏が解散に踏み切れば、「政治の私物化」「独裁者」との批判は避けられない。選挙戦だって、自民党内で統一的な戦略なんて組めるわけがない。
結局、何も変わらないのかもしれない。でも、これが民主主義なんだろうな。完璧じゃないし、時にはみっともないけれど、それでも独裁よりはマシだ。
結論.混乱期の象徴として
9月8日まであと1日。この国の政治がどこまで醜態を晒すのか、見ていて恥ずかしい。
でも、これも歴史の1ページになるのだろう。「混乱期の象徴」として。未来の政治学者が「あの時代は酷かった」と振り返る材料として。
石破首相のような党内基盤が脆弱な状況では、これらの制度的抵抗が政治的に決定的な意味を持つ可能性が高い。それが民主主義の最後の砦なのかもしれない。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
■
22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)