東京都はなぜエジプト移民政策を強行するのか?小池都知事がひた隠す移民大臣と利権団体との会合

都民不在で進む不透明な合意

2025年8月19日、東京都はエジプト・日本経済委員会(JEBC)と「エジプト人労働者の日本での雇用に有益な研修及び情報提供に関する協力に係る合意書」を締結した。

合意の報を受け、都民・国民からは移民政策ではないか―――と不安・不信感が高まり、反対の声が広がっている。

たしかに合意書にはエジプト人労働者が日本国内で仕事を確保するため、情報提供や研修プログラムの開発支援などが盛り込まれており、移民促進策といって間違いない。

それにしても、あまりに唐突な合意発表だ。

それもそのはず、都の広報に確認したところ、合意前に都民への説明も議会への通知も事前広報も一切行なっていないという。

移民増加に直結する外国人労働者の受入推進策は、都民・国民から批判が来ることが容易に予見され、また、特定国の労働者を都が支援する合理性は全くない。

それにもかかわらず、なぜ東京都はエジプト側と合意を強行したのか。誰が主導したのか。

結論からいえば、小池百合子都知事の“単独犯”である。

そう断言できるのは、合意に至るまでの小池都知事のエジプト移民利害関係者との暗躍が明らかだからだ。

この背景には、2024年の都知事選を揺るがした小池百合子知事の学歴詐称疑惑に対する「エジプト外務・移民省からの助け舟」と、その後の「貸し借りの返済外交」がある。

エジプト国家情報局の発表や現地報道をもとに、小池都知事の“水面下の動き”を時系列で追っていく。

学歴詐称疑惑の火消し、選挙直前に届いた「カイロ大学声明」

2024年6月8日、都知事選の告示直前。

駐日エジプト大使館は公式Facebookに「カイロ大学声明」を掲載し、小池氏が同大学を卒業したと保証した。

重要なのは、この声明を主導したのが大学そのものではなく、外務・移民省の所管にある在日エジプト大使館だった点だ。

エジプトのメディア「エル・バラド」(2020年6月11日付)は、声明に関する取材に対し「カイロ大学は、駐日エジプト大使館がエジプト共和国の公式代表であるとして、コメントを拒否した」と報じている。

つまり、この声明は大学判断ではなく、エジプト外務・移民省の政治的介入だったのだ。

しかも、同省を率いるのは、後に小池氏と複数回接触するバドル・アブドゥル・アアティ外務・移民大臣である。声明のタイミングは選挙直前。極めて異例であり、再選に向けて「助け舟」を与えたと言える。

7月7日、小池知事、3期目当選。その直後から、エジプト側は「貸し」の回収に着手する。

都知事に”恩返し”を求めるエジプト高圧外交

8月2日、駐日エジプト大使が都庁を訪れ、3期目当選を祝福したとエジプト国家情報総局傘下の新聞「アル・アハラーム」が報じている。

祝福に対し、小池都知事は「両国間協力において具体的な進展を達成したい」と抱負を述べた。

小池都知事とアブ・バクル駐日エジプト大使
(駐日エジプト大使館facebook)

記事ではTICAD9の閣僚会合に向けた調整も行われたとあり、以下の移民大臣との会合への事前すり合わせとみてとれる。

8月24日、アーティ外務・移民・在外エジプト人担当大臣がTICAD9閣僚会合のため来日。小池知事を3選を祝福する、イフタール(断食明けの食事)会談を開催している。

小池都知事とアーティ外務・移民大臣とアブ・バクル駐日エジプト大使
(エジプト国家情報局)

会談の記録はエジプト外務・移民省報道官アハマド・アブ・ザイド氏の名で公表されており、移民大臣の小池都知事への言及・要請は次の通りである。

  • 都知事が進めるエジプトとの協力関係深化、首都カイロ開催のCOP27出席を称賛
  • 「ラムセス2世の黄金の宝物」展への都支援に謝辞、エジプトへの日本人観光客増加への期待表明
  • 東京都とエジプト教育省間の学生交換プログラム継続を要望
  • 都主催イベントにエジプト企業の招待を希望
  • 日本のゴミリサイクル、環境保全、グリーン・トランスフォーメーション(GX)などのエジプト各県における活用促進

これは単なる表敬訪問ではなく、東京都の事業への干渉に近い高圧的要求だ。都民の利益とも何の関係もない。

「さらに、移民大臣は小池都知事に対し、今後、重視するのは経済協力で、これはエジプトにとって最優先事項だと位置づけ、会談を締めくくった。」

移民大臣が最優先事項とする経済協力こそ、今回、合意したエジプト労働者の日本受け入れ政策ということが追って判明していく。

一連の要求に対し、小池都知事はどう答えたのか。エジプト政府はこう公式発表している。

「小池都知事は会談で言及されたこれらの協力分野を検討することに前向きな姿勢を示した」

「さらに、今後、強化し、発展させていける多岐にわたる協力分野が存在することを明確にした」

まるで都知事がエジプト移民大臣の下僕のような返答だ。もはや都外交の域を完全に逸脱した主従関係がみてとれる。

さらに問題は、東京都政に重大な影響を与えうる会談にも関わらず、東京都側は一切公表していない。

なぜか。知事と外国要人の会談調整・記録を司る都政策企画局外務部に電話で確認した。

「知事はいろいろな方とお会いになるので……エジプトの移民大臣と会ったかどうかもなんともいえない。ご意見として受けまわります」とはぐらかす。

しかし、これは私の意見ではない。都知事と移民大臣の会談とその詳細の情報源は、国家情報総局というエジプト政府機関の公式発表である。

真相は二つに一つだ。

  • 知事が秘密裡に会った
  • あるいは会ったことを公表しないよう事務方に指示した

いずれにせよ、透明性を欠き、都民・都議会に対して説明責任を果たせない内容なのは明らかだ。

小池都知事、エジプト移民大臣と2度目の会合

11月7日、小池知事がカイロを訪問。世界都市フォーラムに参加時、東京での表敬のお返しに、再びアティ外務・移民大臣と会談する。

小池都知事とアーティー外務・移民大臣
(東京都庁ホームページ)

エジプト国家情報局の発表によれば、大臣はあらためて「都知事の3選を祝福」「都知事に経済分野での協力への期待」を表明した。

短期間で2度にわたり、同じ大臣が都知事の再選を祝福し、公式記録に残すのは奇妙に聞こえるだろう。これは、「再選できたのは我々のおかげ」という“恩”を繰り返し印象づけるエジプト的外交話法にほかならない。

逆にいえば、知事はエジプトへの”恩”に対し、移民大臣側の要求・期待に応えきれていない状況とも解釈できる。

そこで迎えるのが移民大臣会談の翌日に設定された会合である。

11月8日、小池知事はEJBC(エジプト・日本経済委員会)との会合に出席する。EJBCは日本からのODAなど援助や経済協力の受け皿となるエジプト政府公認の利権団体だ。メンバーはエジプトを代表するゼネコン・通信・家電・セラミック・農業分野の企業役員が名を連ねている。

会合の結果を報じた「エル・バラド」11月10日付の記事がこちら(下記画像)。「エジプト・日本経済委員会、日本市場に労働者を送り込むための共同訓練センター設立を協議」という見出しだ。

本文では、日本での労働市場に参入するためのエジプト人労働者を訓練するための共同訓練センターを日本側と設立することを小池都知事に提案した、と明記してある。

エジプトの財界を代表するJEBC会長イブラヒム・エル=アラビー氏は「今回の小池都知事との会合は両国間の協力関係をさらに深める重要な機会である」と冒頭にあいさつしている(「エル・バラド」11月10日付)。

都知事へあからさまなプレッシャーである。

続けて会長は、「東京は日本の国内総生産(GDP)の20%を占める経済的・政治的地位を持ち、そのテクノロジーやイノーベーションを支援する専門ファンドを多数所管している」と指摘。

東京都からお金をむしりとろうという魂胆がみえみえだ。

この会合でJEBCから小池知事に提示されたのは次の要求である。

  • 日本市場向けエジプト労働者訓練センターの共同設立
  • 東京とエジプト工業都市の連携協定
  • エジプト日本投資会議の開催
  • エジプト日本インキュベーター機関の設立
  • 大エジプト博物館開館への訪問強化

筆頭にある「日本市場向けエジプト労働者訓練センター」こそ、今回の合意内容に結実する要請だ。他も含め、エジプトにとって虫のいい話ばかりだが、これが移民大臣が初回会合で言及していた最重要事項である経済協力である。

東京都知事とエジプト・日本間の協力機会について議論した後、会合の最後にJEBC側はこう述べている。

「小池氏との会談を高く評価し、両国政府と民間セクターに向けた日本の力強い支援と真摯な努力に感謝の意を表明した」

分かりやすくいえば、エジプト側の要求を知事が(全部か一部か)飲んだということだ。

一方、都庁側の同じ11月8日の会合に関する公式発表では「両国の更なる関係発展に向けた連携について経済団体と意見交換」と具体的なことに何一つ触れられていない。JEBCという組織名さえ記さない隠蔽ぶりだ。

(続く)


編集部より:この記事は、浅川芳裕氏のnote 2025年9月9日の記事を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は浅川芳裕氏のnoteをご覧ください。