対岸の火事ではないフランス政治混乱:不安定な日本の政治との共通点

フランスで内閣不信任案を突き付けられたバイル政権。その投票が8日にあり、事前予想通り、可決し、内閣は崩壊しました。24年1月にボルヌ政権からアタル政権に、24年9月にバルニエ政権に、24年12月にバイル政権なりましたが、9か月しか持ちませんでした。

マクロン大統領インスタグラムより

何が起きているか、究極の一言は緊縮財政に野党も国民も賛同しない、ということです。

フランスはGDPに対する財政赤字率が5.4%(26年見込み)で財政赤字は悪化の一途を辿っており、その点で優等生であるドイツと雲泥の差となっています。マクロン氏は財政再建のために社会保障費や年金支給のルール変更を試みましたが、国民の猛反発にあい、水と油の状態にあると言ってよいでしょう。今回崩壊したバイル政権もGDP比で4.6%の赤字を目指し、約7.6兆円規模の緊縮財政を目指していました。

マクロン大統領は次の首相を指名することになります。問題は、同じことをこの1年9か月で3度やっており、今回が4度目になるのです。野党からは議会解散の声が強く出ていますが、マクロン氏は頑なに拒否しています。大局的な見方としてはマクロン氏が誰を指名しても大したことにはならないだろう、とか、これ以上同じことを繰り返してもムダといった諦めムードが漂っています。

マクロン氏の弾劾という選択肢もありますが、それも弾劾要件と議会の構成比率からは難しく、いわゆるデッドロックであります。

財政問題は一度緩めると次に引き締めるのが非常に難しくなる、とも言えるし、緊縮財政政策は国民に最も嫌われるとも言えます。とはいえ、嫌われたくないから大盤振る舞いすればどうなるか、フランスの場合はEUの要件である一般財政赤字のGDP比3%も政府債務残高のGDP比60%も満たしていないわけでこれが継続的になればその加盟の是非、更にはフランス国債の下落と負のサイクルに入るのであります。

そもそもEUの盟主の一か国であるフランスがその規範を示せないのであればEUの規律など絵に描いた餅になりかねないわけでマクロン氏のEU内での発言力低下のみならず、EUの基盤が揺れることにもつながりかねないのです。

私はこの報道を読みながらフランスを日本に、バイル政権を石破政権に読み替えてみたらそんなにおかしな文章にならないと思ったのです。石破政権も財政規律派の森山氏を抱えていましたからそのあたりが経済対策で小出しと揶揄され、2万円しかくれないのか、といった不平不満の温床になった可能性はあるでしょう。

その上、少数与党で衆議院は過半数に13席、参議院は過半数に2席足りないわけです。更に先々の安定感という点でとらえると自民党もさることながら公明党のその存在意義が世代交代も含め薄れてくる中で、現与党勢力の減退は避けて通れないのであります。

自民党はどちらかといえば財政規律派が多いのですが、石破氏の辞任を受けて株価がボンと上がったのは総裁有力候補の一人、高石氏が財政出動派であること、小泉氏も改革派なので現状の凝り固まった財務省の岩盤政策に風穴を開けるのではないか、という期待感があったわけです。

つまり自民党が国民の信頼を勝ち取れるかどうかは財政政策にかかっていると言ってもよく、再び「宮澤節」が跋扈すれば暗雲が垂れこみ、嫌な雰囲気が出てくるのであります。

お前はどう思うのか、と言われると私は財政規律派ですが、同じ規律でも「出と入り」を見直すべきだと思っています。つまり財務省に限らず各省庁管理の隠し資産があるなどもっと有効活用すればよいのに財務省と各省庁の一種の確執や信頼関係の欠如で「一度握った権利は死んでも放さない」といった姿勢が見えるわけです。よって財務省は自己コントロールできる範囲である一般企業でいう損益計算書ベースの予算と唯一、貸借対照表にヒットする国債でしか対応できないわけです。私は(隠れた)資産欄があるだろうと以前から言っているのです。

またインフレ傾向が続く昨今の状況は財政にはプラスのはずです。給与が上がれば所得税収入が増える、企業の売り上げが伸びれば法人税も増えやすい、固定資産税や相続税だって当然増えます。国と企業と民は三位一体であり、多少の取り分の違いはあれど好景気は全体を押し上げるのです。私が現在の日本経済はさほど悪くないと申し上げたところ、反論もありました。個別で語れば皆さんそれぞれ立ち位置が違うので様々な意見が出るのは確かです。ですが、マクロでみると30年も死んでいた日経平均が高値を更新し、金利も日銀が更に引き上げる気満々なのは全体的には財政の歳入には良いと言えるのではないでしょうか?

多分、日本の政治を安定化させるためには財政政策に対して今までにない知恵を出す必要があると思います。歳出も本当に必要なのか、という項目も散見されますし、縦割り行政の弊害とも言えるところもあり、各省庁が予算取りに必死になっています。歳出もメリハリをつけ、出すところに出しても、削るところは大きく削り、民間資金を導入するといった工夫をすべきだと思います。

考え方の切り口を変えるだけで数兆円ぐらいは出てくるはずです。フランスのようにならないためにも財務省と各省庁は姿勢を改めるべきかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月10日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。