EU上半期難民申請件数、前年比23%減

マルタの首都バレッタに本部を置く欧州連合難民庇護機関(EUAA)が8日発表したところによると、EU内の今年上半期(1月~6月)の難民申請件数が、前年同期比で大きく減少したことが明らかになった。6月末までに、EU加盟国27カ国にスイス、ノルウェーを合わせた29カ国で39万9000件の難民申請があった。2024年上半期と比較すると11万4000件減、約23%減となる。

今年上半期の難民申請件数の減少を報告するEUAAのプレスリリースから 2025年9月8日

難民申請件数が急減した最大の理由は、シリアを半世紀以上君臨してきたアサド政権の崩壊(2024年12月)だ。内戦から逃れたシリア人が一時期、欧州に殺到したが、アサド政権の崩壊で欧州に逃避するシリア人は減少した。シリア人は過去10年間、難民申請者の中で最大のグループだったが、わずか数か月の間に、シリア人の難民申請者は3分の2減少し、2万5000人となった。

シリア人に代わって最大の難民申請件数は南米のベネゼエラ人だ。今年上半期で難民申請件数が最も多かった国はフランスで約7万8000件、それに次いでスペインが約7万7000件、ドイツ約7万件。そしてイタリアは約6万4000件となっている。なお、ロシアの侵攻を逃れた約430万人のウクライナ人がEUで一時的な保護を受けているが、彼らは難民申請手続きとは別扱いされている。

興味深い点は、2012年以来、難民申請件数で欧州トップだったドイツが2024年以降、難民申請件数が減少していることだ。難民申請件数で今年上半期、前年同比で大きな変化がなかったのはフランスだけ。最も顕著な減少はドイツの43%減少、それに次いでイタリア25%減、スペイン13%減だ。ベネズエラからの難民申請者のほぼ全員が、スペイン語が使われているスペインで申請を行った。なお、英国はEU離脱に伴い、この統計には含まれていない。

昨年12月にシリアのアサド大統領が打倒されたことを受け、シリアからの新規難民申請者は約2万5000人に留まり、南米のベネズエラ(4万9000人)出身者がトップ、そしてアフガニスタンから4万2000人となっている。

EUの難民・移民問題担当委員のマグナス・ブルンナー氏は、難民申請件数の減少は「政策の一貫性だ。手続きの効率化により、成功の見込みが低い申請をより迅速に審査できるようになる。今後は第三国との協力関係を改善し、送還が実際に機能し、難民制度の負担を軽減できるように改善する必要がある」と述べている。

なお、EUによると、いわゆる難民認定率は過去最低水準に低下し、初回申請の4分の1(25%)しか承認されなかった。それでもなお、処理すべき申請は山積みだ。6月末時点で、90万件以上の申請が第一審で未決定だ。上訴も可能なため、合計約130万件の決定が保留中となっている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。