夢を抱いて飲食店を開業しても、現実には「月100万円」の固定費が経営を圧迫します。家賃や人件費に追われ、売上を伸ばしても利益が残らない。そんな構造的なリスクを多くの経営者が見落としています。
飲食店を続けられる人と潰す人、その分かれ道はどこにあるのでしょうか。

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開業ブームの裏側に潜む落とし穴
飲食店は起業ジャンルの中でも人気が高く、調理経験のある人や食べ歩きが好きな人など様々な人が「いつか自分の店を」と考えます。SNSでバズった新店の写真や、雑誌に載るスタイリッシュなカフェに刺激されて多くの方が「自分もやってみたい」と思うのは自然なことでしょう。
しかし、華やかなイメージに隠れているリスクが「固定費の重圧」です。飲食業は売上のボラティリティが高いことに加え「固定費が意外と重い」ビジネスモデルです。
家賃を見ると、都心の10坪ほどの物件なら月に30〜50万円。人気エリアなら100万円を超えるケースも珍しくありません。さらにスタッフを数人雇えば人件費で月に50万円以上。つまり、開業した瞬間から月100万円以上が自動的に出ていく仕組みになるのです。
もちろんその他の固定費(通信費、光熱費など)も当然発生します。
簡単な売上のシミュレーションをしてみましょう。
固定費をまかなうにはどの程度の売上が必要でしょうか。飲食店では食材原価が売上の30~40%前後を占めるため、固定費を加味した損益分岐点売上は想像以上に高くなります。
例えば、家賃と人件費で月100万円支出する店なら、少なくとも月200万円以上の売上が必要です。30日営業なら1日あたり約7万円。
ランチ:1,000円、ディナー:3,000円の価格帯なら、毎日70人前後の来客を確保し続けなければ赤字転落は避けられません。
「開業祝い」で駆けつける友人や知人は数週間で落ち着きます。半年後、1年後も安定的に70人を呼べる仕組みを持っているか。そこが最大の難所です。
集客とリピートの壁
飲食店の生命線はリピーターです。新規客を広告やSNSで呼び込むのは労力とコストがかかりますが、リピーターは自然に店を支えてくれる存在です。
しかしリピーターを生むには、料理の味だけでなく、接客、雰囲気、価格設定、提供スピードなど、複数の要素を高い水準で維持する必要があります。
加えて、コロナ禍以降はテイクアウトやデリバリー需要の拡大により、販路の多様化が進みました。「いい料理を出せば人が来る」だけでは生き残れない時代になっているのです。
経営者に求められる視点
料理の腕が一流であっても、それだけで経営は成り立ちません。
飲食店経営者に求められるのは、次のような複合的なスキルです。
- 数値管理:売上・原価率・営業利益を常に意識しての運営
- 人材マネジメント:採用・教育・定着の仕組みづくり
- 集客と販促:SNS活用、キャンペーン設計、口コミ強化
- 改善サイクル:現場の課題を見つけ、即改善につなげる行動力
「料理が得意だから」「接客が好きだから」だけでは足りず、経営者としての総合力が問われます。
趣味・片手間経営の危うさ
副業や投資目的で飲食店を開業する人もいますが、その多くは長続きしません。
オーナーが現場に立たず、数日に一度顔を出す程度では、細かな数値管理やPDCAサイクルが回せないため、顧客のニーズや小さな不満を受けて改善につなげることが出来ません。小さな不満が積み重なれば、やがて客足は遠のき、固定費だけが残ります。
「片手間では難しい」
これは多くの飲食店経営者が口を揃える現実です。
「町中華」に学ぶ堅実なビジネスモデル
では、長く続いている店は何が違うのでしょうか。
ヒントは昔ながらの「町中華」にあります。
- 家賃の安い立地で固定費を抑える(そもそも町中華は自己所有も多い)
- 経営者自身が現場に立ち、日々改善を重ねる
- 常連客に支えられた地域密着の経営
華やかさはなくても、堅実に利益を積み上げる仕組みがあります。
逆に、理想を追い求め、高い家賃や見栄えの良い豪華な内装に投資する店は、固定費に追われて数年で姿を消すことも少なくありません。
成功する人と潰す人の差
飲食店を続けられる人と潰す人。その差は「覚悟」と「現場主義」にあります。
固定費の重さを理解し、数字を管理しながら改善を続けられる店は生き残ります。
一方、「なんとかなるだろう」と軽い気持ちで始めた店は、想定外の出費と売上不足にあっという間に押し潰されます。
結局のところ、飲食店経営は「冷静に数字で判断ができるか」「現場を見続け細かな改善を続けられるか」にかかっているのです。
おわりに
飲食業は決して楽ではありません。流行に左右され、競合も多く、労働集約型の厳しい産業です。
しかし、その分、時代やニーズに合った長く愛されるお店をつくることが出来たら、お客様の喜びや現場の熱量が近くで感じられるとてもやりがいがある事業であることも確かです。
夢の飲食店開業を「悪夢」にしないために必要なのは、数字を直視する冷静さと、「成功」するまで現場に立ち続ける覚悟です。
月100万円の固定費を垂れ流すか、地域に愛される店を築くか。その分かれ道は、開業前の準備ですでに始まっています。






