黒坂岳央です。
最近、会社の業務用スマホやレンタカー屋で借りた車を勝手に売ってしまう「ヤバい人」が話題になっている。常識的に考えれば発覚は避けられず、横領として懲戒処分は免れない。なぜそんな愚かなことをしてしまうのか?
にわかには信じがたい事件だが、筆者はあまり驚かない。なぜなら自分はそういうヤバい人を実際に見てきたからだ。彼らの心理や動機などを考察したい。
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子どもの頃に治療出来なかった人たち
この問題は大人になって突然芽生えたり、入念に計画するのではなく子ども時代の行動パターンがそのまま延長しているケースが多いと考えている。
例えば、ゲームソフトを借りて返さず「なくした」と言い張る、あるいは勝手に中古ショップに売ってしまう「借りパク」は誰しも聞いたことがあるはずだ。筆者は何度か「借りパクされた側」なのでよく分かるのだが、彼らに罪の意識はまったくない。
「家に泥棒が入ったので自分のせいじゃない。弁償も出来ない」と考え難いウソを堂々と言われて開き直る人もいた。普通、家庭や学校で「借りた物は返す」という規範教育がなされるはずだ。「子どもの場合は相手の親に責任を問えばいいのでは?」と普通考えるが、実際にはヤバい人たちの両親はそれ以上にヤバいことも少なくない。
筆者が借りパクされたゲームを「返してほしい」と訴えたら、相手の親が出てきて「悪いのは自分たちじゃない。人にものを貸すとなくすことだってあるから、今後なくして困るものは貸さないようにして」と追い返され、泣き寝入りとなった。常識的には親が謝罪、弁償をするところだろう。
もちろん、筆者のこの事例だけで一般化は出来ないことは分かっているが、一家丸ごとおかしいケースもあるのだ。
所有感の錯覚と規範意識の未熟さ
貸与された物を勝手に処分する背景には、心理的所有感がある。日常的に使用し、自分のアカウントを設定し、常に手元にあると、人は法的には他者の所有物でも「自分のもの」と錯覚しやすい。
彼らは最初の頃、会社から貸与されたスマホと私物を分けて使っていたはずだ。それが徐々に会社のスマホの頻度が高まっていき、ゲームをインストールし始め、私用電話をかけ、そして自分のスマホを売って業務用スマホを完全私物化。最後はフリマサイトで売却してしまうのだ。
派遣会社時代にも実際にこういうヤバい人がいた。会社の携帯でアダルトサイトにアクセスし、業者から不当な高額請求を受けて上司から叱られている社員だ。また、飲食店で働いている時は店舗の在庫食材を勝手に調理し、棚の裏に隠してこっそり自宅に持ち帰っていた(もちろん、クビになった)。完全に犯罪である。
こうした行動に及ぶ人は「規範の内在化」が弱い傾向がある。つまり、所有権や信頼関係といった社会的原理を理解せず、「禁止と書いていないからやってよい」と判断してしまう。レンタカー屋で借りた車を外国人に売ってしまった人もそうだが、彼らは常識がないのだ。
金銭よりも深刻な情報リスク
備品売却の問題は、金銭的な損失よりも情報漏洩リスクが本質である。スマートフォンやPCに保存された業務データが第三者に渡れば、顧客情報の流出、取引先との信頼喪失、さらには法的制裁にまでつながる。1台数万円の端末が、数千万円規模の損害を引き起こしかねないのである。
「業務用スマホなので常識的に使ってくれるだろう」という性善説ではリスクが大きすぎる時代となった。会社は倫理教育をするだけでなく、モバイルデバイス管理(MDM)ソフトを導入し、遠隔ロックやデータ消去を可能にするようにするべきだ。
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世の中にはとんでもなく非常識で倫理観が欠けている人がいる。とんでもないモンスターは一定数存在するので、彼らの存在を前提とした運用が企業側にも必要だろう。
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