オーストリアで10日、14歳未満の女子に対して学校ではスカーフの着用を禁止する法案が閣僚決定された。スカーフ着用禁止は、学校教育法および私立学校法の改正によって制定される予定。政府の意向により、同法案は2026年の夏学期から施行される。ただし、同国では2020年、同様の法案が憲法裁判所によって覆されている。
スカーフ着用禁止を発表するプラコルム欧州統合家庭相(中央) 2025年9月10日 公式サイトから
クラウデイア・プラコルム欧州・統合・家庭相は10日の記者会見で、「スカーフは女子の視界と自由を制限する。スカーフは明らかに抑圧の象徴だ。世界中で女性がベールをかぶっている場所を見れば、イスラム過激派が台頭し、女性の権利が踏みにじられている所が多い」と説明し、「未成年の女子生徒を差別や抑圧から保護するべきだ。肌や髪を露出しすぎるからといって、宗教的なベールで覆うべきではない」と主張した。
違反者に対しては段階的な罰則が設けられている。まず、学校側は生徒と面談を求め、両親、保護者には情報提供書が送付される。それでも解決しない場合は、教育局が介入する。極端なケースでは、150ユーロから1,000ユーロの行政罰金、または14日間の懲役刑を含む行政罰が科される。親が従わない場合は、義務教育の義務違反と同様に、罰則が科せられる。
法的にスカーフ着用を禁止する試みは同国では今回が2度目だ。憲法裁判所は2020年、クルツ首相(当時)が率いる国民党・自由党の連立政権が2019年に可決した小学校におけるスカーフ着用禁止令を覆した。憲法裁判所は当時、「イスラム教徒の女性のみを対象としており、国家の宗教的中立の原則に反する」と主張した。
現政府は、憲法裁判所の懸念に対処するため、専門家と連携し、法的選択肢の検討、法的枠組みの策定、専門家の経験収集のための集中的な作業などを行ってきた。少女のエンパワーメントを図るだけでなく、親、教師、少年、そしてイスラム教コミュニティの積極的な参加を促すことを目的とした付随措置が講じられる。
一方、イスラム教共同体からは批判の声が上がっている。オーストリアの「イスラム教共同体(IGGO)」は、「計画されているスカーフ着用禁止措置は子どもと民主主義を犠牲にする象徴的な政治行為だ」と批判した。 IGGOによると、憲法裁判所は2020年に既に「このような禁止措置は、宗教的少数派を具体的に標的とし、平等の原則に違反するため、違憲であると明確に判断している」と述べている。
ちなみに、フランスで2004年に導入されたスカーフ着用禁止令は、イスラム教徒の少女が教育システムから排除されることはなく、むしろ学業成績の向上と社会統合の促進につながったという。学校でのスカーフ着用禁止は女子の教育機会を向上させ、女子の卒業率は大幅に向上し、禁止措置によってイスラム教徒の女子の退学率は増加していないという。
なお、オーストリアでは、成人年齢は14歳からであり、宗教的成熟も14歳から始まる。それ以降は、すべての若い女性がスカーフを着用するかどうかを自分で決めることができる。
参考までに、2021年のオーストリア統計局の調査によると、国民の8.3%がイスラム教徒だ。ローマ・カトリック教徒(55%)に次ぐ数字だ。また、ウィーン市の公共学校ではイスラム系生徒の数がカトリック系生徒の数を上回っている。その結果、ドイツ語ができない生徒が増え、ひいては学力の低下がみられる。ウィーンのオーストリア人家庭では経済的に可能ならば、公共学校に子供を送らず、私立学校に通わせるケースが出てきている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。