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この記事では、国民の正味の所得水準となる1人あたり国民純所得について、実質値での国際比較をご紹介します。
1. 1人あたりGDPの推移
前回は1人あたり国民純所得(NNI)について名目値(購買力平価換算値)の国際比較をご紹介しましたが、経済指標はやはり実質で見るべきと考える人も多いようですので、実質値についても共有いたします。
個人的には、経済指標は水準(Level)で評価すべきで、その場合は名目のドル換算値の方がシンプルだと考えます。
まずは1人あたりGDPの実質値の推移から確認していきましょう。
図1 1人あたりGDP 実質 購買力平価換算値
OECD Data Explorerより
図1はOECDで公開されている主要先進国の1人あたりGDP(実質 購買力平価換算値)の推移です。
注意点としては、実質値には必ず基準年(この場合は2020年)が設定されている事です。
この基準年で実質値は名目値と一致します。
また、ドル換算に用いられる購買力平価もこの基準年の数値が全ての年に適用されています。
つまり、上記の場合は、2020年を基準とした実質値が計算され、2020年の購買力平価で全ての年がドル換算された数値となっています。
この基準年は年を経るごとに直近の年に更新されていきますので、実質値とは名目値と強く連動していく指標となります。
つまり、基準年が改められるごとに、実質値は直近の名目値に近い水準となり、基準年よりも過去の数値が変化します。
同じ統計でも過去に公表された統計データと数値が異なるのはこのためです。
グラフを見ると、各国で右肩上がりの傾向が確認できますが、日本は水準がやや低く、増加傾向も緩やかです。
アメリカやドイツとの差が開き、韓国には抜かれ、ポーランドに追い上げられているような状況ですね。
実質成長率(指数)は他国並みですが、実質値は低いというのが日本経済の特徴と言えます。
2. 1人あたりNNIの推移
続いて、1人あたり国民純所得(NNI)の推移を見てみましょう。
図2 1人あたりNNI 実質 購買力平価換算値
OECD Data Explorerより
図2が1人あたりNNIの実質 購買力平価換算値です。
全体的な傾向は1人あたりGDPとそれほど変わりません。
日本の水準はどちらかと言えば1人あたりGDPよりもやや低い印象です。
韓国に追い抜かれるタイミングが1人あたりGDPよりも早く、ポーランドとの差も小さいですね
3. 1人あたりNNIの国際比較
最後に、1人あたりNNIの国際比較をしてみましょう。
図3 1人あたりNNI 実質 購買力平価換算値 2023年
OECD Data Explorerより
図3が2023年のOECD各国の1人あたりNNIです。
参考までに1人あたりGDPも併記しておきました。
実質で見ると、日本はOECD34か国中24番目で、G7各国とはかなり差が開いている状況です。
スロベニアやチェコを下回り、リトアニアやポーランドよりもやや高い状況ですね。南欧というよりも東欧と同じくらいの水準となります。
実質で見るとノルウェーの1人あたりNNIが1人あたりGDPよりも低いのが印象的です。
4. 1人あたりNNIの特徴
今回は1人あたりNNIの実質値についてご紹介しました。
各国とも基本的には増加傾向ですが、ドイツ、カナダなどここ数年はやや低下しているような国もあります。
日本は相対的に先進国の中ではかなり低い水準で推移していて、海外からの所得が増えていても、それほど大きな押上にはなっていない事がわかります。
ルクセンブルク、アイルランドなど人口の少ない国は、自国に働きに来る外国人の影響が大きく、GDPとNNIには大きな乖離が確認できます。
次回はNNIの内訳を確認する事で、海外との関係を可視化してみたいとおもいます。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年9月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。