平気で嘘をつく人たち

erhui1979/iStock

Nature誌のニュース欄に「RFK Jr slings accusations and defends public-health upheaval at fiery hearing」という記事が出ており、厚生長官のケネディ氏に対する公聴会の様子が伝えられている。

このブログでも紹介したことがあるが、ケネディ長官はCDC(疾病対策センター)のワクチン諮問委員会メンバーを総入れ替えし、反ワクチン派の人たちを送り込んだ。これに対して、米国の小児科学会は強く批判するコメントを出したのだが、ケネディ氏は「小児科学会は4大ワクチンメーカーから多くの寄付をもらっているからだ」と反論した。

これに対して、米国小児科学会はワクチン業界からの寄付は、団体収入の4%に過ぎないとケネディ氏側の誇張ともいえるコメントを批判している。ケネディ氏の思想の根底には、ワクチンは有害なものだ、有害なものを推奨しているのは邪な動機があるはずだという固定観念がある。

ワクチンがすべての人に無害ではない。しかし、多くの感染症を防いできた・軽症化してきたのも歴然たる事実だ。科学的な評価とは、ワクチンによって救われる命とワクチンによって有害事象で苦しめられる人を比較して、社会全体としてどの程度の利益が得られるかを評価することだ。

日本でも、「金銭のやり取り=不正」と短絡的な形で批判の声が上がることが少なくない。その分野で見識の高い研究者や臨床家のアドバイスを求めるのは自然なことだし、それに対して正当な対価が支払われること自体問題はないはずだ。問題となるのは、金銭を受け取って、特定の薬剤を優先的に投与したり、データを捻じ曲げることだ

とはいっても、日本にも科学的評価よりも、感情的な動きで、ワクチン接種にブレーキをかけてきた歴史がある。たとえば、子宮頸がん予防ワクチンを、有害事象が問題だと、一時期封じ込めた。世界的には子宮頸がんは大きな減少傾向を示したが、日本ではワクチンが広がらず、子宮頸がん発症率は減らなかった。子宮頸がんはヒトパピローマウイルス感染が大きな要因であることが科学的に証明されており、感染症予防が子宮頸がん予防につながることが常識なのだが、それが通用しなかった。

公衆衛生を考える場合、社会全体の利益を評価して判断していくべきなのだが、日本の考え方は、ケネディ氏に通ずるものがある。

そして、公聴会で最も驚いたのは、mRNAワクチンに関する研究費約700〜800億円をカットした一方で、コロナ感染症のmRNAワクチン開発を推進したトランプ大統領(第1期)の功績を高く評価していると述べたことだ。政府の高官がここまで歴然とした二枚舌を使うと米国の信頼はだんだんと揺らいでいくだろう。

日本にも、往生際の悪い市長がいるが、嘘をつくことを恥ともしない人が増えてきたのは悲しいことだ。

 


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年9月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください