自民党再生への私見:総裁選と「解党的出直し」 --- 田中 奏歌

ようやく石破総理もあきらめたようでこれから総裁選となる。

以前高市さんが総裁選に立候補するなら、ということで投稿させていただいたが、もう少し書いてみたい。前回の投稿と重複する部分も多いが、お許しいただきたい。

※高市さんが推薦人を集められるか、という懸念もあるようで、党員に人気の高い候補者が選挙にすら出られないような政党では再生できるはずはないが、再生できる党かも、と思うので書いてみた。

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総裁選で高市さんに賭けをする覚悟はあるか? --- 田中 奏歌
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総裁選に向けて「解党的出直し」という文言が飛び交っている。過去に何度も「解党的出直し」などという言葉を聞いた方もいるということは、簡単なことでは「解党的出直し」などできないということだろう。

しかし、ここまできて本当の意味で「解党的」に「出直し」をできなければ、「出直しできずに解党」となるだろう。

では、この「解党的出直し」のために自民党はどうすべきか、を勝手に考えてみた。

自民党HPより

誰に対する「解党的出直し」か

すでに候補者の中には「国民皆さまのために」と訴える人もいるようだが、全国民に認められる「解党的出直し」は正しいだろうか。

石破政権存続希望の世論調査が実態を示していないことは多くの識者が論じているところである。反自民の人に多く意見を聞けば当然、自分たちの強敵にならない石破さんを支持する比率が多くなるのは当然である。

自民党支持者に聞いても同じというが、すでに石破政権に愛想をつかした人は自民党支持と素直にいえないので、いまだに自民党支持という人に聞けば石破さん支持の比率が増えるのは当たり前である。

自民党の「解党的出直し」に、こういう、反自民の人の意見を重視して「解党的な出直し」ができるわけがない。自民党が強敵になるくらい強くなるためには、そういった、どうせ自民に投票しない反自民の声を聴くのではなく、戻ってくる可能性のある離れていった層の声を聴くべきである。

反自民の人やマスコミではなく、党員、未来の支持者に向けた体質変換がまさしく「解党的出直し」であり、それは、決して全国民に向けることではない。八方美人ではなく、党員や自民党に投票してくれそうな人に向けた「解党的出直し」がうまくいけば、それがやがては全国民に響いてくるのである。

「解党的出直し」とは何か

自民党にとっての「解党的出直し」とは、一言で言えば、古い自民党の体質を取り壊し(解党)、そのうえで自民党の目指すものを明確に打ち出す(出直す)ということである、と考えている。

詳細は前の投稿をご覧いただきたいが、以下に党員及び将来の支持者に向けた「解党的出直し」について、補足を加え簡単に述べる。

1.解党的な行動~古い自民党の体質の取り壊し

古い自民党の体質を取り壊す「解党」的なこととは何か。私見ではこれは、いったん今までの政治資金の不透明さと腹黒いと思われている古い政治体制に決別すること、の二つと考える。ほかにもいろいろあるだろうが、保守であろうとリベラルであろうと、これをしないと自民党を応援したい人の目には古い政党のままであり、「解党的な」自民党にはなりえず、離れた党員・支持者は戻ってこないであろう。つまり、こういうことである。

1)政治資金の透明化

石破政権にノーを突き付けたのは、いわゆる裏金議員への対応不足だけではないだろう。であればもっと立民や公明が得票しているはずである。

立民・公明の得票が伸びず、参政・日本保守・国民民主が伸びたということは、今回、自民党を離れた人にとっては、政治資金問題に不満な人も非常に多かったであろうが、その対応よりもほかの問題のほうが大きいということである。しかも、まだ自民党には、不透明な政治資金に嫌気がさしていても旧安倍派の議員を支持する人は多い。ひょっとしたら、よく言われるように、逆にいったん決着したいわゆる裏金議員への再処罰とその不公平さに不自然さを感じている人も多かったのではないだろうか。

そうすると、新総裁になる人が、裏金議員とされる人や裏金とされる事実についてもっとつついたとしても、また逆に、全く何の対応もしないままにしたとしても、党員・支持者の不満は残ったままである。

政治資金に対する不満を解消するのは、下手にぶり返すことではなく、前回の投稿でも書いたように、はっきりと、「自民党が生まれ変わるために、野党を含め多くの議員が嫌がる、完全な透明化を行う」ということを率先して宣言し実行するしかない。これが政治資金問題への「解党的」な新自民党の回答だろう。間違っても抜け道の見つけやすい中途半端な透明化はしないことである。

「過去は問題にしないが、そのかわり全政党の中で一番徹底的に透明化する」と言い切ってその言葉が信用されれば、反自民支持者は反発しても党員や支持者の気持ちに響くのではないか。

具体的には以下のとおりである。

① 議員の収支について

  1. 原則として議員の収支は「デジタル化」し、議員の責任ですべて「1円まで」公開する。
  2. 定期的に公認会計士の監査を受ける(詳しい業務内容は法律で決める)。
  3. 相手先を公開できない収支(機密費的なもの)については、何らかの基準を作り公平性を担保する、課税してもいいだろう。議員の使途不明の総額を公開することで、あとは有権者の判断に任せる、とするのである。

⓶ 企業献金について

禁止よりも、「完全に」透明化することで、健全化を図る、と宣言する。

企業が献金する目的と政治活動の合致を否定しなくていい。そのかわり、大事なのは、政治家が企業に操られていないことを客観的に有権者が判断できるようにすることである。議員に説明させるのではなく、公表された相手先と金額で有権者が判断できるように透明化することである。

公表させられることを承知で、さらに言えば株主訴訟に堪えるつもりで企業が寄付するなら何の問題もないであろう。その企業に問題があるかどうかは、株主、消費者や取引先が判断するだけである。

  1. パーティでも寄付でも企業献金は否定しないかわり、献金した「企業名は1円単位ですべて公表」する。企業側の決算書にも相手先を明記し公表させる。
  2. 業界団体など「企業名が特定できないところからの献金は禁止」する。業界団体が献金したければ、加盟企業に指示し分担させて企業名+団体名で献金させる。細かくなってもデジタル化しているので問題ないだろう。
  3. 他人名義による迂回献金などの献金元の隠ぺいについては、企業に重罰を科す(もちろん議員と結託していれば、会計担当ではなく、議員も罰する)。
2)腹黒いと思われている古い政治体制との決別

党員・支持者の自民党に対する失望のひとつに、国民民主と維新を手玉に取って約束をして、それを守らないことに自民党の腹黒さを感じた人も多かったのではないだろうか。不透明な政治手法については他にもあろうが、この問題における象徴的に「解党的な」行動は、約束してしまったガソリン税廃止と173万円の壁の撤廃である。ここをきちんと対応すれば、国民民主や維新に流れた支持も戻ってくるし、うまくすれば連携もできるであろう。

説明としては、まず「責任与党として、不必要なばらまきは今後しない」と宣言し、「私個人としては、この政策は間違っていると考えるが、石破政権が約束したことでもあり、しかも、選挙による国民の審判を鑑み、不本意ではあっても受け入れることが国難になるとまでは言えないので・・・」としたうえで、ガソリン税の廃止と173万円の壁の早急な撤廃を宣言し、実行する。

消費税についても「これも国民の審判に合わせ消費税は〇〇とする」と明確にしたほうがいいかもしれない。

※消費税減税については、現時点では筋のよくないばらまきと思え、私は支持しないので「国益に反すると考えるので、反対する」といってほしいが、たとえば高市さんはこれに賛成のようなので、候補者によっては、今回、そう主張されるのは仕方ないと思う。

この2つくらいやらないと、自民党のクリーンさや正直さは打ち出せず、「解党」的にはならないで、いつものことだね、で終わり、支持者は戻らないだろう。

これをやると、自民党議員にも大反対されるだろうが、これくらい身を切ることのできない自民党は「解党的」ではなく、「本当に解党」してしまうだろう。

目指すべき方向の打ち出し~出直し

これからの自民党の進む道は、今までのような、「いろいろな考え方があるから自民がいい」というあいまいな路線では通用せず、「失われた保守層を取り戻す保守への回帰」か、「保守を切り離してのリベラル路線の徹底か」の2択になるだろう。

党を一つにまとめることが一番大事などという議員もいるが、今の状況を見れば、「右も左もいろんな人がいるのが自民党だ」などと悠長なことを言っている場合ではないことがなぜわからないのだろう。自民党がどっちに向いた政党なのかを強く打ち出すことが、「出直し」であり、他党に流れた票を取り戻せるのである。

「リベラル路線徹底」の候補者としては、小泉さんを含め多くの方の顔が目に浮かぶが。しかし、これらの方々では今までの自民党的な方向性との違いは明確にならないだろう。リベラル路線の徹底という方向性は、「出直し」の中身がみえないのである。これでは出直しとならず、単なる比較第一党でしかない立憲民主党レベルの政党に自民党を落とし込むものになるであろう。

自民党支持者が立民・公明に流れず、参政・日本保守・国民民主に流れた事実を考えれば、これらの政党に流れた支持者を取り戻すことが自民党の党勢を取り戻すことであり、「出直し」である。そのためには、本来の自民党色である保守的色彩を再度打ち出すことが求められるのである。

この保守回帰が、自民党をほかの政党と区別させる肝である。先の1の解党的行動が、自民党は明らかに変わった、変わるんだと感じてもらうための手段であるのに対し、この保守回帰は、自民党がどうなりたいか、どう出直すかの明示である。

とはいえ、政治資金の透明化は、内心反対でも納得せざるを得ないことだが、保守回帰の主張については、党内が玉石混交の現状では党内一致は難しいものが多いのも事実である。でも、自民党からどこに支持者が流れたかを見れば、離れた保守層はここを求めていると考えるべきで、保守推進の候補者には、党内での反対を認めない項目と、党内意見一致に向けて行動する項目に分け、これを党員・支持者に訴えるというやり方が現実的であろう。要は、保守的主張をきちんと届けられるかどうかにかかっている。

下記私見の①④は、反対を認めない項目であり、②③⑤は「大きな課題と考えており、自分が総裁である限りは党内の意見の統一に全力を尽くす」と明言して総裁選を戦う項目である。

※⓶③⑤についても党内で一致してほしいが、残念ながら、今の自民党の中では現実的ではないが、総裁になった後も粘り強く訴えかけていく姿勢を見せることで、保守支持者を取り戻せるだろう。

①憲法改正推進
これは党是であり、反対や慎重論はあり得ない。

⓶男系天皇維持
王朝交代に反対する、というある意味当然のことであるが、残念ながら現時点では党内での理解が不足しているので、一致団結は厳しいだろう。

③夫婦別姓反対
選択できるので問題ないのではないか、ということなら、法を犯すかどうかを選択制にするならいいのか、というバカな議論になる。しかし、別姓自体に問題があるという理解は党内でもすすんでおらず、通称使用の拡大で対応できるものを否定する意見もまだ党内には多い。

④不法滞在者への厳格な処分
先回の選挙の結果を見ても、これは保守の他党に流れた票を取り戻す明確なアピールとなる。これ抜きには保守回帰はあり得ない。

⑤労働力としての召使的移民の廃止
保守派の候補者の思想はどうなのか知らないが、国民の不安は、「国籍取得を目指さないから移民ではない」という詭弁と労働力不足を名目に、日本人がやりたがらない仕事をお金で釣ってやらせることで多くの「二級国民(居住者)」を作ってしまっており、それにより問題が多発していることにあるといえよう。しかし、残念ながら、安易な労働力確保そのものに問題があることに、党内の理解は得られていない。

・・・その他、靖国参拝や先の戦争についての考え方など様々な保守的な主張があるが、そこをすべて言い出せばきりがない。当然いろんな場でそれ以外の保守的主張をすることはいいことであるが、目的の1番は、他党に流れて行った保守層に響く、保守的な政治への回帰姿勢をどれだけ確実にやり切るつもりかを明確に支持者に宣言することである。当然これにより離れる支持者もいることは覚悟すべきである。

保守回帰を打ち出すと、マスコミはここぞとばかりにその保守性について問題視し、多様性を認めないのはけしからんとか外交に支障をきたすなどとキャンペーンを行うであろう。公明党も離れるかもしれない。しかし、国民(党員や将来を含めた支持者かも)は、マスコミや左翼が振り回す行き過ぎた「多様性」という言葉の危険性に気づいているはずであるし、特定アジアを気にしていては独立国になれない、と保守層は思っているはずである。マスコミの圧力に屈しない候補になれるかが、保守回帰の要になるかもしれない。

この「解党的出直し」策で党内をまとめられるか

私見をご理解いただけたところで、一番の大問題は、こういった自民党の解党的出直しを自民党の国会議員が同意するか、である。

石破総理の辞任騒ぎでも明らかだが、こういう政策には頑強に反対する勢力がいるのは事実であり、しかも、総裁選の時は候補者にきれいごとを言わせて、当選してもいうことを聞かなくていい、という議員が必ず出てくる。

総裁選でいくら私見のような主張をしようと、反対する議員が少数派となったことが伝わらないと、それこそ、国民はバカではないので「解党的出直し」なんていつもの口先だけだと、見透かされてしまうだろう。それで総裁になっても何もできないダメ総裁になるだろう。

これらのような造反者を出させない、と支持者に思ってもらうためには、どうするか。

前の投稿で書いたとおり、総裁選の主張をするときに、「私はこれをやる、反対の人は自分に投票しないでください」といって総裁選を戦うことしかない。

それくらい言って打って出て、踏み絵をさせたうえで当選すれば、当選後、表立って反対できないはずだし、支持者から見ても、反対者が出たら解散時の非公認という強硬手段をにおわせることで従わせるはずと、信用するであろう。逆にいえばそれくらいしないと、候補者の実行力は支持者に伝わらないであろうし信用もされないだろう。

踏み絵を主張した結果、落選する可能性は大きいだろうが、自民党の再生は、候補者が総裁選でこういう踏み絵をする勇気があるかどうかかにかかっている。

フルスペックの総裁選であれば、こういう踏み絵宣言をすることで、今まで離れていった層が保守層であれば、その候補者は支持してくれるだろうし、結果として今回の総裁選に破れてもその戦う姿勢は、党員、支持者にきちんと伝わるはずである(次の総裁選まで自民党が「解党」していなければ、ですが…)。

前の投稿と重複することを覚悟で、自民党の再生にわずかな期待をもって一筆書かせていただいた。

田中 奏歌
某企業にて、数年間の海外駐在や医薬関係業界団体副事務局長としての出向を含め、経理・総務関係を中心に勤務。出身企業退職後は関係会社のガバナンスアドバイザーを経て、現在は隠居生活。