総裁選で高市さんに賭けをする覚悟はあるか? --- 田中 奏歌

高市早苗氏SNSより

選挙が終わった。

さもありなん、という気もするが、やはり安倍元首相の暗殺が日本を大きく変えたといっていいように思う。

とはいえ、議席の数を見ると、選挙前のさまざまな世論調査で、「どこと組もうと単独でやろうと政権運営は自民党中心で」という声が多かったことを思えば、今回の結果は他党に政権を取らせないようにした絶妙な結果かもしれない。

とすれば、他党に流れた保守票を取り戻せれば、自民党の復活は夢ではないし、さらに自民党がガバナンスを取り戻せれば、愛想を尽かした票も戻ってくるのではないか。

早晩行われるであろう総裁交代について、世間では小泉さんか高市さんの声が大きい。

自民党の支持をこれ以上大きく下げないようにしながら、じっと我慢で国民の怒りが冷めるのを待つ、という選択肢なら小泉さんだが、自民党の結束を高めたうえで、かつ、早く他党に流れた票を取り戻すことを優先するならば、高市さんとなるだろう。

・・・で、高市さんだが、彼女が今の自民党の体たらくの中で普通のやり方で総裁になってもたぶん結果を残すのは厳しいであろう。ここはひとつ「賭け」に出た方がいいのではないか、と思うので、フルスペックに近い総裁選が行われるという前提で考えてみた。

ここでいう「賭け」をできれば、自民党をまとめるだけでなく、参政・日本保守・維新・国民民主に流れた自民党の党勢を取り戻すことができるだろうし、さらに加えれば、ヨーロッパを席巻している右翼ポピュリズムによく似ているとまで言われる参政や日本保守から正常な形の保守に戻すことができるだろう。

今の自民党議員の多くは、2人のどちらかしかないと思いつつ、特に高市さんだけは嫌だという議員が多いのかもしれない。

なので高市さんの場合、今までのように単に主張を訴えることでは、総裁にはなれても、思ったような党の運営はできないだろう。どうせ党内で反対されて潰される、と思われれば総裁にはなれても国民はついてこないし、期待を裏切るだけである。そうなれば彼女の国政への夢は達成できるはずもないし、いったん信頼を失えば復活は厳しい。私は自民党がボロボロの今回については、そんな形なら出馬はしないほうがマシであると考える。

そこで「賭け」についてであるが、彼女がやりたいことをやるためには、他党に票が流れた主な原因についての高市流解決策を提示し、その中のこれだけはマストという解決策に反対な人は自分に投票しないでほしい、と訴えて自民党国会議員に踏み絵を踏ませる、ということである。

これが「賭け」である。「反対なら私に投票するな」である。「賭け」の大きなリスクは2つあり、この「賭け」ができなければ、いかに多くの自民党議員からラブコールがあろうとも今回は出馬せず、時を待つべきである。

さて、賭けのリスクのひとつは、これをやると、自民党国会議員の多くにさらに嫌われるだろうということである。ひょっとしたら、このやり方では推薦人すら得られないかもしれないし、立候補できても前回のように国会議員票で落選するかもしれない。

しかし、それならそれで、党員に高市さんの覚悟を示すことにもなり、彼女の党員による支持は確固たるものになるだろうから、彼女にとって損ではないはずである。しかも、いったん嫌われても総裁・総理になり、党勢を回復出来れば、その後は重鎮を含めた国会議員はついてこざるを得なくなることは間違いなく、対外的にも自民党がまとまっている印象を与えられるだろう。

総裁選後に踏み絵なんて知らないという議員もでるだろうが、それで改革がひっくり返されれば自民党がつぶれる。おそらく自民党重鎮はそこまではやらせないであろうし、総理になっていれば解散し国民の前で踏み絵を踏ませるという手もある。

リスクその2は、こうすることでかなり話題になるので、実際の当選の可能性に危険を感じたマスコミの格好の餌食になり、さまざまな場面で「高市憎し」の報道が想定される、ということである(少なくとも先の総裁選で、すでにマスコミはかなり口汚く高市さんの保守性を批判していたが、今回はもっと酷いだろう)。それに負ければ国民の期待を失う可能性もある。ある程度の自民党支持者が、反保守で党を離れるかもしれないことを覚悟できるか、ということである。

こういった作戦ができるのは、高市さんしかいない。・・・というのも、前回、党員の支持をしっかり稼ぎながら、議員の支持を得られず落選したことゆえに、逆にこれを逆手に取って、あらかじめ議員に求める自分の主張の最低限を期日とともに明確にし、それに「反対なら議員は高市さんを選ばず、他の候補を選ぶように訴えて」踏み絵を踏ませて総裁選に臨む、というやり方ができるのである。

踏み絵を踏ませるという「賭け」についてはでは理解いただいたと思うが、では、何を踏み絵すべきか。これだけはマストという踏み絵にすべき政策と、いわゆるこうしたいという主張は分けて考えるべきであるが、踏み絵にすべきは、やはり、明確な保守化と政治資金のクリーン化、他党との約束遵守、の3点であろう。

大事なのは、再度いうが、これを自民党国会議員に反論させないようにして総裁選に臨む、ということであり、反対なら自分に投票しないでほしい、という強い意思を明確にすることである。国民に「これだけはちゃんとやる」という施策を明確にして総裁選に臨むのである。次の選挙で勝てればこの3つ以外のその他の政策はかなり高市モードにできるとも言える。

この3つの具体的に明言すべき踏み絵の施策について少し述べてみる。説明の順序が逆になるがお許しただきたい。

1. 他党との約束遵守

① ガソリン税の廃止
② 173万円の壁の早急な実施

私個人としては賛成ではないが、国民は自民党が約束した、と思っているので、約束をきちんと守る、ということを示し、誠実な党であることを示すことで、国民民主などからの当面の協力も得られるかもしれない。

※ 実は、内部留保などという賃金に無関係なことに課税しようとする高市さんは経済には弱い、と思っているので、この手の施策に注力するのは良くないと思うが、日本の経済に取り返しのつかない汚点を残すような愚策、とまでではないと思うので、それで「高市は約束は守る、自民党守旧派や財務省を敵に回してもやる」という姿勢を示せれば効果的である。

ただ、これだけでは、参政・日本保守・国民民主の協力を得られるかもしれないが、他党に流れた票を戻すには弱いので、次の踏み絵が必要になる。

2. 政治資金のクリーン化

いかに過去の自民党にやましい使い方があろうとも、今後もパーティ券を続けたいなら完璧にクリーン化するしかない。できない理由はいくらでもつけられるが、やりきるしか自民党の信頼回復はない。

① 議員の収支を1円から原則として公表し、デジタル化し、毎年監査させる。

システム化ができないというような議員には、これからの世の中についてこれないのでやめてください、くらい言ってもいいだろう。ここは一丁目一番地である。

パーティ券については企業名の公表はマストであろう。株主に説明できないと思う企業は寄付しない、ということである。

② 当然、政治資金については非公表のものが必要であることも理解できるので、①の原則から外れた資金について、守秘義務のある第三者の監査によりその非犯罪性を担保することを法制化する。

具体的な担保の方法はいろいろ考えられるが、例えば、国会議員が守秘義務を負った公認会計士の監査を受けることを義務化し、監査を受けて会計士レベルの判断で贈賄ではないことを検証した上で、表に出したくない金額総額を国民に明示する、などはどうだろう…そのうえで、それに納得するかどうかは有権者に委ねることにするのである。

監査内容などを追加して、法制化する必要があるが、その際には、会計士の知り得た情報の公開条件(司法の場での秘密証言など)と秘匿義務違反の厳罰化も重要であろう。

3. 保守層を取り戻す施策

①は要検討だが、②③は他党に流れた保守票を取り戻すには欠かせないだろう。

① 男系天皇
ここは党内でも意見が分かれるからこそ明確にしたい。これには難色を示す人も多いと思うので悩ましいが、これがなければ高市さんらしくない気もする。

でも、これを踏み絵にするのは難しいかもしれない。残念ながら、これについては踏み絵ではなく一般の主張にしたほうがいいかもしれない。

② 別姓反対
国民の多くが同姓か通称使用の拡大のほうがいい、と言っている現状があり、これは明確にすべきである。

③ 不法滞在者に対する厳格な処分の徹底

などなどで、1に加え、この2と3までやってようやく他党に流れた保守層が取り戻せるのではないだろうか。大事なのはこの3点を、自民党国会議員に反論させないようにして総裁選に臨む、ということである。

つまり、「反対なら自分に投票しないでほしい」という主張で総裁選で訴える、「自分が総裁になれば、自民党は国民にすぐにでもこれだけはちゃんとやる」という施策を明確にして総裁選に臨むのである。

ある意味、かなりの賭けではあるし、こうやって総裁になっても、総理になれるかは別である。総理にならない総裁ということになるかもしれないが、高市さんの決意を内外にしめせれば、安倍ファンと自民党に愛想をつかせた人の両方を取り戻すチャンスはあると思う。

高市さんの覚悟が問われる総裁出馬となるが、これで総裁選に敗れても自民党に愛想を尽かした党員は高市さんを見放さないだろう。

「いろんな意見があるのが自民党」という言い訳で国民がついてくる段階はもう終わった、ということを、自民党の国会議員がしっかり認識し、今後、ぬるく比較第一党を続けたいのか、自民党を復活させる気があるのかないのか、を総裁選で問うてほしいものである。

田中 奏歌
某企業にて、数年間の海外駐在や医薬関係業界団体副事務局長としての出向を含め、経理・総務関係を中心に勤務。出身企業退職後は関係会社のガバナンスアドバイザーを経て、現在は隠居生活。