スペイン首相夫人ベゴーニャ・ゴメスに浮上する異例人事と公金疑惑

首相夫人という肩書だけで終わりたくない

父親が複数の売春宿を経営していた環境で育ち、その手伝いをしていたベゴーニャ・ゴメス氏は、ペドロ・サンチェス氏と結婚したことで運命が一変した。サンチェス氏が首相に就任すると、彼女は野心をあらわにし、首相夫人という立場を活用して斡旋業を始めた。首相夫人の後ろ盾を利用して政府から特権を得ようとする企業家が集まるのは容易だった。

その典型例が、スペイン第2の航空会社エアー・エウロパ(Air Europa)である。当時のCEOハビエル・イダルゴ氏は、彼女の斡旋事業のスポンサーとして毎月資金を提供していた。スポンサー期間中にコロナ禍が発生し、同社は利用客の急減で資金難に陥った。

イダルゴ氏はベゴーニャ夫人に救済を要請し、政府は同社の親会社グロバリアへの支援を含め、異例の迅速さで7億9500万ユーロもの支援金を産業出資公社などを通じて拠出した。この短期間でこれほど巨額の公的支援が決定されたのは異例であった。

さらに、情報関連企業インノバ・ネクスト(Innova Next)のオーナー、カルロス・バラゲス氏は、ベゴーニャ夫人が大学で修士号を取得する際に支援した縁から、彼女から2通の推薦状を受け取った。この推薦が同社の公的入札の落札を容易にし、結果として売上はわずかな期間で140倍に急増した。

高卒からコンプルテンセ大学教授へ

前述の大学とは、スペイン有数の名門コンプルテンセ大学である。ベゴーニャ夫人はここで企業投資促進をテーマにした学科を設立し、修士課程の学生を募集する計画を推進した。サンチェス首相が同大学の学長ホアキン・ゴヤチェ氏を首相官邸に招き、学科設置を依頼したことが後押しとなった。

大学側は政府からの要請を断れず、支援を期待して計画に協力した。しかし、副学長らは強く反対した。高卒にとどまるベゴーニャ夫人を教授に据えることは、大学の名誉を損ないかねない異例の人事だったからである。

首相官邸職員を私的ビジネスに流用

さらに、彼女の斡旋業には友人のクリスチーナ・アルバレス氏が関与していた。アルバレス氏は首相官邸職員として公的資金から給与を受け取っていたが、実態はベゴーニャ夫人の私的ビジネスの秘書役であった。このため、公的資金の支出は違法と指摘されている。

捜査と今後の見通し

これら一連の行為に対し、ベゴーニャ夫人にはすでに5つの罪状が科せられている。最終的な判決は本年後半に下される見通しだ。