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自民党総裁選は、10日の茂木氏を皮切りに小林氏、林氏、高市氏、そして20日の小泉氏の出馬会見で候補5人が出揃った。大トリを務めた小泉氏が21日、「不記載議員の要職起用を検討『一生活躍の機会がないのはいいのか』」と述べたが、その関連で先に述べることがあるので、小泉発言は後述する。
先に述べたいこととは、19日10時28分に『朝日』がネット配信した、「『終わったはずが…』検察も困惑 自民裏金事件で割れた法解釈とは」とのフェイク紛いの記事だ。その日の午後に高市氏の出馬会見を控えたタイミングでの記事発信に、筆者は「何を今更」と、『朝日』の作為を感じざるを得ない。
但し、有料である同記事を、筆者は全1373字のうち649字しか読めていない。が、「刑事処分の流れ」示す「図」に記されている語を見れば、以下に書く論旨には影響しないと思料する。なお16日から20日までの「紙」の『朝日』を図書館で繰ってみたが、ネット配信と同じ記事は見当たらなかった。
8月24日の拙稿「特捜の捜査結果再評価こそ不記載問題終息の鍵だ」で、筆者はこの件を扱った各紙が「起訴猶予」と「不起訴」を峻別せずに報じたことを難じた。そこで取り上げた「自民・萩生田光一衆院議員の政策秘書を略式起訴 罰金30万円を命令」という見出しの8月15日の『朝日』記事は要旨こう報じていた。(太字は筆者)
東京地検特捜部は15日、萩生田氏の政策秘書牛久保氏を政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で略式起訴した。安倍派の政治資金パーティー収入の一部を裏金化したとされる事件で、同派の幹部議員の関係者が刑事責任を問われるのは初めて。
同秘書は20~22年にあったパーティーをめぐり、同派からの寄付金1952万円を収支報告書に記さなかったとされる。関係者によると、同秘書は特捜部の調べに虚偽記載を認め、24年に不起訴(起訴猶予)となった。
だが、東京第五検察審査会は今年6月に「起訴猶予を続ければ虚偽記載はなくならない」として、「起訴相当」と議決。これ重視した特捜部が判断を一転し略式起訴した。萩生田氏本人の不起訴(嫌疑不十分)については、検審が不起訴相当と判断。捜査は終了している。
では同じ『朝日』の19日午前のネット版にどう書いているかといえば、(元秘書に対して)「ほぼ同じ容疑の内容で、検察が二つの不起訴処分を出していた」にも関わらず、8月15日に「東京地検特捜部の再捜査の結果、略式起訴された」とし、「図」とそれ以降の記事にこう記している。(太字は『朝日』)
萩生田氏秘書をめぐる刑事処分の流れ
24年5月・・特捜部が独自に萩生田氏秘書を捜査して不起訴(捜査結果①)
〃 10月・・検審が秘書に「不起訴不当」議決
〃 11月・・大学教授が秘書を告発⇒再捜査
〃 12月・・特捜部が秘書を不起訴処分(捜査結果②)
25年6月・・検審「起訴相当議決」
〃 8月・・特捜部が秘書を略式起訴
「石破おろし」の動きが活発化していた8月、旧安倍派幹部の裏金問題に改めて注目が集まりました。萩生田氏秘書の略式起訴です。東京地検が一度不起訴としながら、判断を覆した背景には、検察審査会による「異例」の議決がありました。
筆者が注目したのは「刑事処分の流れ」を示す「図」の中にも、後の649字中にも、8月15日の記事に使われていた「起訴猶予」の語が見当たらないことだ。8月15日の記事に倣えば「図」の(捜査結果①)と(捜査結果②)の「不起訴」には「起訴猶予」と括弧書きされねばなるまい。
「不起訴」と「起訴猶予」に違いについては、前述の拙稿でかなり詳細に書いた。が、ここでそれを引くまでもなく、8月15日の記事中に、「同秘書は特捜部の調べに虚偽記載を認め、24年に不起訴(起訴猶予)となった」、「萩生田氏本人の不起訴(嫌疑不十分)」と書いてある。
ここが事件のポイントなのである。萩生田氏同様に多くの議員が「嫌疑不十分」で「不起訴」になった一方、以下の3人の議員が起訴された。
大野泰正元参議院議員 (約5100万円) 在宅起訴―初公判期日未定
池田佳隆元衆議院議員 (約4800万円) 逮捕・起訴―初公判期日未定
谷川弥一元衆議院議員 (約4300万円) 略式起訴―罰金100万円
この内、大野元議員の初公判がこの10日に開かれ、検察側と弁護側の主張が報じられた。『NHK』が報じた双方の冒頭陳述の要旨は以下のようであった。(太字は筆者)
検察側・・(大野元議員の)元秘書は派閥の事務所でキックバックされた現金を受け取って元議員に手渡していた。2人とも資金管理団体への寄付だと認識していた。・・元議員はクレジットカードの代金を引き落とす自身の名義の口座などに振り込ませ、飲食店の支払いに充てていた。・・元議員は事情を知らない別の秘書に虚偽の記入をさせて総務省に提出した。
弁護側・・元議員は派閥から交付された現金について、求められれば返す「預かり金」として認識していて、いつでも派閥に返せるよう管理していた。・・(収支報告書の)作成を秘書に委ねていて、元議員が関わることはなかった。・・収支報告書は総務省に提出する直前に元議員の机に置かれるだけで、本人は「預かり金」も含めて、適正に処理されていると思っていた。
この記事や過去の報道を読む限りだが、「嫌疑不十分」で「不起訴」になった議員が還流金「不記載」を知らなかったとされる。が、上述の弁護側は「別の秘書に虚偽の記入をさせて」いたとする検察主張に反論していない。この辺りが「嫌疑不十分」で「不起訴」となった萩生田氏らとの違いではなかろうか。
が、当初から罪を認めて「起訴猶予」になった牛久保元秘書を、当初から「不起訴」だったと書いている19日の『朝日』だけを読む者が、「不起訴」=「嫌疑不十分」とは知らずに、「不起訴」となった他の議員も元秘書のように「起訴相当」になる、と思い込んでしまう可能性を誰が否定できようか。
候補者5人の出馬会見のうち、より多く安倍派の議員票をあてにする高市氏は「政治とカネ」についての言及しづらいのではないか、などとする一部報道を見るにつけ、『朝日』が19日の午前に、「不記載問題」を再燃させる意図をもって牛久保元秘書の記事を今更報じた、との印象を筆者は強く持つのである。
その意味では、21日に小泉氏が以下のように述べたことには一定の評価を与えたい。
国民から自民は自浄作用を発揮できているのかという声はいまだに根強い。・・(不記載議員が)一度間違いをしてしまったことで一生活躍の機会がないのは本当にいいのか。・・誰も取り残さない自民の一致結束した姿を見せ、日本の課題を前に進める。どのような形が理解を得られるのか私なりに考えていきたい。
筆者が「一定の」とするのは、こうした発言が「不記載」議員を厳しく処分した岸田・石破両総裁を、暗に非難していると、当人が気づいていない気がするからだ。「一度間違いをしてしまった」「一生活躍の機会がない」「誰も取り残さない自民」といった言葉使いも、「嫌疑不十分」で「不起訴」になった議員をむしろ貶めかねない。この辺りに、小泉氏の人柄の好さと表裏一体の未熟さが滲む。
が、もしかするとこうした穿った見立てを織り込んだ上で、陣営の策士が旧安倍派の不記載議員を取り込むべく謀って、小泉氏に言わせたと考えられなくもない。が、何れにせよ勇気ある発言だ。同じことを高市氏が述べたなら、メディアも野党も挙って大叩きするだろうが、高市氏が総裁選に勝ち、萩生田氏を幹事長に起用した場合などを想像すると、小泉氏の功績は本人が思う以上に大きいものになろう。
「モリカケ」で安倍潰しに失敗した『朝日』が乾坤一擲で仕掛けた「裏金議員」のレッテル貼りを、この小泉発言が剥がすことになれば、『朝日』を始めとする新聞各紙や『TBS』などのTVメディアも、また岸田・石破両氏も、「飼い犬に手を噛まれる」結果になった、と世間に思われるのではなかろうか。






