米保守派政治活動家チャーリー・カーク氏の追悼式典が21日、西部アリゾナ州で開かれた。カーク氏(31)は10日、米西部ユタ州オレムのユタバレー大学でのイベントで演説中、22歳のタイラー・ロビンソン容疑者によって射殺された。同事件は米国内ばかりか、世界にも大きな波紋を投じた。

チャーリー・カーク氏の死を追悼する人々、バチカンニュース、2025年9月12日
カーク氏はトランプ米大統領の再選に貢献した活動家といわれてきた。同氏は2012年、保守派政治団体「ターニング・ポイントUSA」を創設し、政治信条や意見の異なる人とも積極的に討論を重ねてきた。保守的な若者に絶大な人気があったという。彼はトランプ氏にとって最も重要な票集めの担い手の一人とされていた。BBCによると、フットボールスタジアムで行われた追悼式には10万人余りの参加者が集まったという。
カーク氏の死を追悼する著名人の言葉がメディアで報じられていたが、その中でユニークなものは、米カトリック教会ニューヨーク大司教のティモシー・ドラン枢機卿の追悼の辞だ。バチカンニュースは21日、「チャーリー・カーク氏はパウロを思い出させる」という見出しでドラン枢機卿の追悼の辞を報じた。
同枢機卿は「FOX&フレンズ」に出演した際、殺害されたカーク氏について、「彼について知れば知るほど、この男は現代のパウロ(初期キリスト教の使徒)だ、と思うようになった」と語り、「彼は宣教師であり、福音伝道者であり、英雄だ。イエスが『真実はあなたを自由にする』と言った時、彼はその真意を理解していた人物だと私は信じている」と絶賛している。ドラン枢機卿は長年にわたりトランプ大統領との良好な関係で知られている保守派聖職者だ。
ちなみに、米国人で初めてローマ教皇に選出されたレオ14世は、米国における政治的暴力への懸念を表明し、団結よりも分断を招くような言辞に警鐘を鳴らしてる。レオ14世は、今月13日に就任式を迎えたブライアン・フランシス・バーチ新駐バチカン米国大使に対し、この声明を発表している(バチカンニュース9月16日)。
ところで、カーク氏の追悼式典で気になった点がある。カーク氏の死を急進左派との戦いでの「殉教者」と受け取ろうとしていることだ。実際、カーク氏が射殺された場所は保守派若者たちの巡礼地のようになっている。米国全土から若者たちがその巡礼地を訪れてきているのだ。
トランプ氏が極左の蛮行に激怒するのは理解できるが、カーク氏の死を殉教と受け取り、同胞たちに急進的左派勢力への憎悪を扇動することは好ましくない。レオ14世が語っていたように、米国民に民族、思想の相違を超えて統合する努力を訴えるべきだ。また、ドラン枢機卿のように、カーク氏の死を英雄視し、称えることは本来、慎むべきだ。さもなければ、米国社会の分裂は癒されなくなるからだ。カーク氏は分裂した米国社会の犠牲者の一人だ。
参考までに、メディアの報道によれば、ドラン枢機卿は教皇選出会(コンクラーベ)でプレボスト枢機卿(現レオ14世)が新教皇に選出される上で決定的な役割を果たしたという。米カトリック教会の急進的保守派枢機卿とレオ14世を繋ぐ人的ネットワークが浮かび上がってくる。

トランプ大統領と故チャーリーカーク氏 ホワイトハウスXより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






