米国出身の初のローマ教皇レオ14世がカトリック教会の改革がどのように継続するかで長らく憶測が飛び交っていたが、ウェブサイト「Crux」の米国人ジャーナリスト、エリーゼ・アン・アレン氏との2度にわたる長時間の対談の中で、教皇は「フランシスコ教皇が開始した画期的な改革をすぐには継続しない。当面教会の教義と道徳観を一切変える方針はない。徹底的な議論を通じて教会内の分断を癒し、克服したい」と述べたのだ。 同発言内容が18日、世界に報道されると、レオ14世に前教皇フランシスコの改革路線の継承を期待してきたカトリック教徒の間に失望を引き起こしている。
ローマ教皇レオ14世、バチカンニュースから、2025年9月20日
バチカンでも広く読まれているローマの新聞「イル・メッサジェロ」は、「新たな緊張」と大きな見出しを付け、「レオ14世にとって、今秋は厳しい秋になるだろう。保守派と進歩派の休戦は終わった」と報じた。一方、バチカンの公式新聞「オッセルバトーレ・ロマーノ」はこのインタビューを特集記事に載せたが、「分極化からの脱却と橋渡し」という融和的な見出しを掲げた。
カトプレスのローマ特派員ルートヴィヒ・リング=アイフェル記者は19日、「教皇の発表が世界的な議論を巻き起こす」と見出しを付けて、解説記事を掲載している。
同記者は、なぜレオ14世は中規模の米国民間ニュースポータルを教皇就任初のインタビュー相手に選んだかを考えている。これはバチカン内部にも驚きを与えているテーマだ。同記者は「教皇は、政策提言を行う上で、自身の文化コードを熟知した相手を探していたようだ。イタリア語が主流の環境下では、依然として言語面でぎこちない言動をしており、自身の発言が歪曲されることなく受け取られることを望んでいたのは明らかだ。その結果、教皇の母国米国のメディアをインタビュー相手に選んだ」と推測している。
同記者によると、「レオ14世にとってニュアンスが重要だった。、新たな教義上の規定や思想の禁制を掲げる教皇とみなされることを望まなかったからだ。会話の中で、レオ14世は自身の評価が『現在』あるいは『予見可能な将来』に適用されると何度も強調している。そして、教会内部の議論を抑圧しようとしているわけではないことを明確にしている。しかし、レオ14世は、前任者であるフランシスコ教皇の時代に高まった、さらなる改革がすぐに必要だという期待感から解放された形で、これらの議論が行われることを望んでいる」と解説している。
例えば、女性問題について、教皇は「これは今後も問題であり続けるだろう。(しかし)現時点でこの問題に関する教会の教えを変えるつもりはない。人々の意見に耳を傾け続けるつもりだ。研究グループもある。これらの問題の一部を担当する教理省は、これらの問題の神学的背景と歴史について研究を続けている。私たちも引き続き研究を続け、その結果を見ていきたい」と述べている。
また、教皇は、教会の性に関する教義をめぐる論争において、より厳しい姿勢を示している。性的指向やアイデンティティに関わらず、すべての人々を教会に迎え入れるという前教皇の温かみある姿勢を踏襲しつつも、性的マイノリティを「LGBTQ」という言葉で表現したのは教皇として初めてだ。同時に、社会の基盤として「伝統的な家族」を明確に肯定している。また、ドイツをはじめとするいくつかの国で導入されている、同性カップルや「互いに愛し合う人々」のための教会の祝福式を明確に否定している。
このコラム欄でも書いたが、レオ14世は決して前教皇フランシスコのクローンではない。ペルーで長い間宣教師として歩んできたレオ14世は、貧者、弱者への思いが深いという点でアルゼンチン出身のフランシスコ前教皇と類似しているが、相違点も明らかになってきている。
レオ14世は教皇就任当初、フランシスコ教皇が提唱した世界シノドス路線を継承していくと発言したことで、世界のカトリック教徒はレオ14世にリベラルな教会改革を期待してきたが、レオ14世にはその宣言が次第に重荷になってきたのかもしれない。
レオ14世はサン・ピエトロ大聖堂のバルコーンから信者たちの前に初めて姿を見せた時、教皇の肩掛けとストールを着用した。フランシスコ教皇は最初から教皇の肩掛けなど華やかな法衣の着用を拒んだ。フランシスコ教皇は教皇宮殿に住むことを拒み、ゲストハウス・サンタ・マルタの自身の部屋(201号室)で寝泊まりした。レオ14世は直ぐに宮殿の主人となった。レオ14世は7月6日、夏季休暇に入った。カステル・ガンドルフォにある教皇の夏の離宮で休暇を過ごした。前教皇フランシスコは夏の離宮を3回訪問しているが、宿泊は避けた。豪華な宮殿で寝泊まりすることに強い抵抗があったからだといわれた。米国人のレオ14世には前教皇のような感情はなく、バチカンの伝統を守ることに熱心だ、といった具合だ。
レオ14世の米国人ジャーナリストとのインタビューでの発言は、新教皇として独自路線を歩んでいくという決意宣言ともいえる。同時に、教会を前に進めるためには、教会内の保守派と改革派の調停が急務という判断があったのだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。