今夏、バンクーバーに高額の費用をかけてインターンシッププログラムに参加した学生が日本に帰国してからしばらくして私にLINEしてきました。「私の学生時代を教えてほしい」と。彼は家業を継ぐ見込みだったのでバンクーバーで徹底的に経営者予備軍としてビジネスセンスについて教え込んだのですが、どうやらその甲斐があったようです。
また昨年インターンシップで私のところに来て就職したばかりの方からも「どうしても会いたい」と連絡があり、お会いしました。起業に目覚めてしまったようで、今就職されている企業さんには申し訳ない思いをしております。
若い彼らが何かに目覚めようとしているその理由は何でしょうか?

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私は商人の一人息子として育ったのですが、幼少の時から小さな店なりに商売する親の背中を見続けていました。その中で培ったのは「稼ぎは自分で生み出すものだ」であります。
その精神があったのでしょう。ゼネコンに入社して3年目ぐらいに工事現場に自費で清涼飲料水の自販機を置き、自分で飲料の卸業者と取引をし、自分で自販機に飲料を詰める業務を一般業務と別にやったのです。おかげで1年当たり純利益100万円を生み出し、それを全部使って現場の皆さんと2年で2度ほどゴルフグルメ三昧旅行に行ったことがあります。こんなことは管理の目が厳しい今では絶対にできないでしょう。また3000人いたゼネコン社員でこれをやった人物も私だけだったと記憶しています。
それはほんの一例で20年間のゼネコン時代は私は破天荒で、私のことを奇異な目で見ている人が多かったと思います。もちろん行動不審者という意ではなく他人から見れば「なんでそんな面倒で余計なことをするのか?」という疑問だったと思います。
普通お勤めの方は会社の上司から言われたことをこなす、という一種の下請け状態にあるかと思います。上司の言いつけはきっちり守らないと叱られます。よって私はその部分についてはあまり個性を出さず、ルール通り、マニュアル通り、上司の指示通り仕事をするわけです。ですが、サラリーマンの仕事が朝8時半から午後7時くらいまでの勤務時間でどれだけ濃密だったかといえば私からすれば「濃度50%」だったのです。つまり手が空いている状態が半分ぐらいあり、10時間勤務なら5時間はムダだったと思います。そのムダ時間には移動時間、社内の非生産的打合せ、席が近い人との駄話…仕事だけに絞り込めば実に暇であったわけです。秘書をやっていた時などは私は乗り物に乗るのが仕事なのか、と思っていたぐらいです。
よって隙間時間が有り余っていたので面白いことを考えた、と言ったらお分かりいただけるでしょうか?独立してからは次々新規事業を立ち上げた話はもうすでに何度も述べてきました。
起業家マインドとは「おまんまは自分で食えるようにする」という想像力の世界にどれだけ入り込み、現実的な事業プランを策定し、それを遂行できるかにかかっていると思います。私は建築業界だったのでその例えで言うと、建物のデザインである意匠は想像力の世界であるのに対して実施設計はきちっとした論理の積み上げの世界です。つまり理数型だけでも駄目、文系型だけでも駄目で両方持ち合わせることが重要なのです。
東京で先日、住まいのある近くの駅前商店街を歩いてたら路面店にワインバーがありました。客が誰もおらず、店主が暇そうにスマホを見ていたのでつい、入ってしまいました。近所でレストランをやっていたけれどそれを他の人に譲り、自分はワインバーを開けたというわけです。私の感想は1年持つかな、であります。理由はワインは夜しか飲まない、この店では乾きモノ以外何も食べるものがない、なのに高級ワインを飲ませようとするメニュー作りにビジネスセンスの微塵も感じなかったのです。ワインは食べ物との相性が勝負。ワインだけ飲む人もいますが、それはかなり限定されるのです。
東京にいると新規開業の店がやたら、多いわけですが、それらを見ていて思うのは「この店主は何を目指したのかな?」と思うのです。店主のこだわりは重要です。ただ、それを一般ピープルと共有出来るか、このギャップを埋められていない残念なお店が多いのです。
幸い、大都市圏はそれなりの人口があるのでマーケットシェアが1%、つまり100人いて1人だけが「いいね、お金使うよ」という行為をしてくれても商売にならないわけではありません。しかし、これからは人口密度が下がるのでその思想では成功しないのです。地方都市にナショナルブランドの店が多くなっているのはローカルブランドでは徐々に勝ち抜けなくなっているとも言えるかもしれません。
起業家マインド、それは開拓者であり、決して平たんな道ではないけれどそれを乗り越えて行けるような強靭な精神力でしょう。あわせて緻密でクライアントに耳を傾ける謙虚さの組み合わせではないかと思います。また大きくすることが必ずしも成功だとは思いません。仮に小規模でもしっかりそこで稼ぎ、愛され続けるという気持ちを持ち続けることが重要ではないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月28日の記事より転載させていただきました。






