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「私たちは人物重視です」「多様性を重視しています」——嘘つけ、と心の中で思った。配布された内定者リストを見れば一目瞭然。見事に有名大学ばかり。
採用の現場を知っていればよくわかる。「リスクヘッジとしての学歴」は、真実だ。
人事部にいた友人がよく愚痴ってた。「東大生を採って失敗しても『東大なのに』で済む。でも無名大学の学生を採って失敗したら『なんで採った』と責められる」——これが現実なのだ。
ただし、だからと言って諦めろという話じゃない。
実は私も学歴で苦労した口だ。中学3年生を2回やり直し、高校には1年遅れて入学した。地方の中堅国立大出身。でも結果的には、今それなりに頑張っている(自慢じゃないが)。
何が違ったのか。たぶん、「詭弁」を理解してたことだと思う。
企業が「人物重視」と言いながら学歴重視なのは分かってた。だから、その「詭弁」に合わせて戦った。エントリーシートでは学歴以外の「数値化できる実績」をこれでもかと書いた。
TOEICスコア、資格、アルバイトでの売上実績、サークルでの具体的な成果——全部数字で示した。面接でも「人間関係構築力」なんて曖昧なものじゃなく、「この状況でこう動いて、結果こうなった」という具体的なエピソードを用意した。
要するに、相手の「詭弁」を利用したのだ。
でもな、これって健全じゃないよな。
本当は、その人の可能性や成長性を見極める採用ができればいいのに。でも数分の面接で分かるわけがない。
以前、事業会社で役員をしていたとき、最終面接を担当していた。正直に言うと、学歴を見ないなんて無理だ。履歴書を見た瞬間に、無意識にバイアスがかかる。これは人間である以上、仕方のないことかもしれない。
でも、それを「人物重視です」と言うのは確かに詭弁だ。
就活サイトの人気企業ランキング、毎年見てるけど顔ぶれがほとんど変わらない。新しいビジネス、ベンチャー企業、最近ならAIスタートアップとか、メディアは騒ぐけど、結局学生の志向は変わらない。安定、大手、知名度——この呪縛から逃れられない。
いや、逃れる必要もないのかもしれない。それが人間の本能だから。
話を戻すと(あ、また脱線した)、こういう「詭弁」が公然と行われてることを、みんな薄々気づいてるのに、誰も声高に言わないことだ。
企業は建前を言い続け、学生は建前に合わせて就活をし、メディアは「多様性」「人物重視」を美談として報じる。
茶番だ。でも、この茶番に参加しないと内定が取れない。だから学生も企業も、この「詭弁」を維持し続ける。
根本的な解決にはなってない。じゃあどうすればいいのか?
正直、分からない。この構造を変えるのは至難の業だ。企業の採用担当者が急に「今年から完全に人物重視で、学歴は一切見ません」と言い出すとは思えない。リスクが高すぎる。
学生の側も、安定志向を急に変えるとは思えない。特に今の経済状況では。
結局、この「詭弁」は続いていくのだろう。
ただ、せめて正直になることはできるんじゃないか。企業も「学歴は重要な判断材料の一つです」と言えばいい。学生も「安定した大手企業に入りたいです」と言えばいい。
その方が、みんな楽になるし、もっと建設的な議論ができるかもしれない。
でも、それじゃあ「美しい」就活の物語にならないか。
「夢を追いかけて」「自分らしさを大切に」「多様な価値観を認める社会」——こういう物語の方が、メディア受けもいいし、企業のイメージアップにもなる。
結局、みんながこの「詭弁」を求めてるのかもしれない。
就活生には厳しい話だけど、現実を知った上で戦略を立てる方が、結果的には良い結果につながると思う。幻想を抱いて玉砕するより、現実を受け入れて対策を練る方が賢明だ。
それが、この「詭弁の世界」で生き抜く術なのかもしれない。
尾藤 克之(コラムニスト、著述家)
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