日本では長年「大企業に勤めていれば一生安泰」という信念が根強かった。しかし少子高齢化や技術革新、グローバル競争の激化が進むなか、その神話は急速に崩れつつある。業績が好調な企業ですら、人員の若返りや構造改革のために黒字リストラを打ち出す時代が到来した。2025年9月、三菱電機が最高益を見込む中で53歳以上の社員を対象に早期退職を募集すると発表したのは、その象徴的な事例である。
参照リンク:三菱電機、最高益下の希望退職 「今の人員構成では改革難しい」 日本経済新聞
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業績好調でも実施された早期退職
三菱電機は2026年3月期に3期連続の過去最高益を見込むなか、53歳以上の正社員と定年後再雇用者約1万人を対象に、割増退職金を提示して人数上限を設けず早期退職を募集。再配置やリスキリングだけでは構造改革が間に合わないとして「ネクストステージ支援」と名付け実施する。 -
狙いは事業改革と人員若返り
機器販売から脱却し、FAシステムや自動車部品など約8,000億円規模の事業を見直す方針。高齢化した人員構成を改め、若手比率を高めることで中長期的な成長を目指す。募集人数を定めないのは「目標ありきでは納得感が得られない」という判断。 -
黒字リストラという新常態
かつては業績不振の象徴だった早期退職募集が、今では好業績企業にも広がる。パナソニックHDなども黒字でありながら構造改革とコスト削減を目的に人員削減を進めており、業績と人員削減の因果関係は切り離されつつある。 -
会社依存は危ういという現実
筆者は「企業は潰れなくても社員は潰される」と指摘。東芝の不正会計やSONY・JALの赤字など、会社が生き残っても社員が守られない事例は多い。長く働くことを求める社会と、50代に「出口」を用意する企業との矛盾も浮き彫りになっている。 -
生涯現役に求められる個人の覚悟
結局、キャリアを守るのは会社ではなく自分自身である。市場価値を意識し、いつでも転職や独立ができるスキルを磨くこと、割増退職金を得て新しいステージに踏み出す準備をすることが令和のサラリーマンに不可欠とされる。
三菱電機の早期退職募集は、単なる一企業の人事施策ではなく「大手だから安泰」という神話が終わったことを示す象徴的な出来事である。社会が「70歳まで働け」と求める一方、企業は50代で「もう要らない」と告げる。生き残るためには会社に依存せず、市場で通用する力を持つ「キャリアオーナーシップ」が不可欠であり、これが令和の働き手に求められる新たな常識になっている。
三菱電機HPより