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大手企業への就職を本気で目指していますか? 内定を得るために必要なのは、面接テクニックだけではありません。企業がどのような視点で採用活動を行っているかを理解することが大切です。
大手企業の生涯賃金は約3億円と言われています。新卒採用は企業にとって大きな投資です。だからこそ慎重になり、長期的に活躍してくれそうな人材を選ぼうとするのは自然なことでしょう。
その判断材料の一つが学歴です。
就職四季報を見てみてください。採用実績校の一覧があります。もし自分の大学名がなければ、採用のハードルは高いかもしれません。厳しい現実ですが、知っておく必要があります。
私も採用に関わった経験があります。正直に言えば、履歴書でまず確認するのは大学名です。その次が写真。エントリーシートの内容は、特に問題がなければ詳細まで読み込まないこともあります。
数百通もの応募がある中で、すべてを丁寧に読むのは物理的に難しいのです。何らかの基準で絞り込む必要があり、その基準の一つが学歴になっているのが実情です。
就活を買い物に例えてみましょう。
優秀な鈴木さんという学生がいるとします。首都圏の有名大学に通っています。彼はデパートで商品(企業)を選んでいますが、財布(内定枠)には一つしか入りません。いくつか手に取った後、不要なものは戻していきます。
今、A社の内定を辞退しようとしています。A社の担当者は必死です。「条件を見直します」「追加のサポートを用意できます」——なんとか引き留めようとします。
なぜそこまでするのでしょうか? 採用目標を達成したいからです。そのためには確実に入社してくれる学生が欲しい。鈴木さんは有名大学出身という「信頼できる指標」を持っています。「この学生なら大丈夫だろう」と判断するわけです。
ただし、他の応募者に配慮して、表向きは「厳正な選考を行っています」という姿勢を保ちます。
企業が効率的に採用活動を進めようとするのは理解できます。ビジネスである以上、確実性の高い人材を求めるのは当然でしょう。人気企業で応募者が多ければ、選ぶ側に主導権があります。
一方、学生はどうでしょうか。懸命にエントリーシートを書き、面接対策をし、自己分析を深めています。
でも、本質的なことを見落としているかもしれません。
大手企業が求める人材像を考えてみてください。数年ごとに異動があるため適応力が高く、専門性よりも幅広い対応ができること。組織への忠誠心。そして多くの場合、有名大学出身であること。
学生は大学の就活セミナーで「エントリーシートの書き方」「面接スキル」を学びます。しかし企業側は学歴でスクリーニングをしています。学生は「大学名不問、人物重視」という言葉を信じて、例年人気企業に応募が集中します。
企業は学歴を重視している実態を公にしにくい立場にあります。応募者は大切な「お客様」でもあるため、ネガティブな印象を与えずに選考を進める必要があります。だから「厳選採用」という表現を使うのです。
就活サイトは企業からの掲載料で運営されているため、企業にとって不都合な情報は掲載しづらい構造があります。ただ、今はSNSの時代。情報の透明性は以前より高まっています。
私自身、大手企業で働いた経験があります。確かに給与水準は高かったです。しかし終電までの勤務、休日出勤、理不尽と感じる指示に従う日々でした。
その3億円は、人生の多くの時間を企業に捧げる対価だったのかもしれません。
今は時間的な余裕があります。ストレスも大幅に減りました。どちらが幸せか——私にとっての答えは明確です。
就活生の皆さん、企業の視点を理解することは大切ですが、同時に自分が本当に求めているものを考えてください。大手企業に入ることが目標ではありません。自分の人生をどう生きたいかが本質的な問いです。
一度立ち止まって、じっくり考えてみてはいかがでしょうか。
尾藤 克之(コラムニスト、著述家)
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