(前回:東京都はなぜエジプト移民政策を強行するのか?小池都知事がひた隠す移民大臣と利権団体との会合)
小池都知事はエジプト人労働者の日本での雇用促進に関する合意について、「怪情報がSNSで拡散」と反論し、都のホームページで「移民の受け入れを促進するものではない」と説明している。だが、これは都民・国民の目を欺くための隠蔽工作にすぎない。
エジプトの国家戦略と日本の位置づけ
エジプト側の公式発表を読めば、その真の意図はすぐにわかる。
エジプト労働省サイトに掲載された2023年2月16日付の経済団体との会合記録によると、エジプトは国策として国内の若年失業率削減のため、海外に就労機会を拡大することを目指している。
エジプト公式の移民政策である。その中で、日本が具体的なターゲット国として名指しされているのだ。
記録では労働大臣が以下の内容を発言したことが記されている。
「国策として、国内の若年失業率を削減するため、海外に就労機会を今後も継続的に拡大していく」
「ドイツにおけるエジプト人労働者の研修と雇用機会提供に関する協定を締結する予定であることを明らかにした」
「同時に、日本とも同様の協定を締結する予定である」
「これらの協定はエジプトとドイツならびに日本の関係機関との検討を経て進められる」
「エジプト人労働者は日本の労働市場で新たな展望を開くことを目指している」
労働大臣発言から、日本はドイツに続き、エジプト移民政策の対象国として明確に位置づけられ、日本側の移民受入れ検討が進んでいることを示している。
東京都の合意書との一致
東京都が締結した合意書の内容は、エジプト政府がこの会合で示した移民戦略「エジプト人労働者の研修と雇用機会の提供」と完全に一致している。
- 合意書の目的: 「エジプト人労働者の就労に関し、交流・協力する枠組みの確立」
- 東京都の協力内容: 「研修プログラムの開発に対する助言」や「エジプト人労働者が日本での仕事を確保するための情報や研修に関する助言サポート」
この会合でエジプト労働大臣が、日本への労働者送り出し協定戦略について協議した人物こそイブラヒム・アルアラビー氏である。東京都との合意書に署名した経済団体代表と同一人物だ。
エジプトの国策が示す危険な移民候補者の実態
エジプト側が送り出す労働者とは誰なのか。彼らの日本での「新たな展望」とは何を指すのか。
エジプト政府は移民政策において、不法移民の温床となっている地域の出身者を主要なターゲットとしている。
エジプトの中でも、貧困率が全国平均の2倍以上に達し、人身売買や薬物の密輸、レイプといった犯罪の温床となっている地域を狙い撃ちにした国家移民戦略である。
つまり、日本に「送り出される労働者」候補者とは、最も犯罪率が高く、受け入れに大きなリスクを伴う層に他ならない。
この背景には、エジプト移民省が推進する「救命ボート(مراكب النجاة)」と呼ばれる、シシ大統領が2020年に発表したイニシアチブがある。
エジプト国家情報局の発表(2023年4月11日や2024年6月20日付け)等によると、このイニシアチブは、不法移民が蔓延する14の県(ファイユーム県、ベヘイラ県、ガルビア県、メヌフィア県など)、中でも不法移民率が最も高い33の村を対象に、若者に職業訓練の機会を提供するもの。非合法な渡航を思いとどまらせるための「代替策」として機能するという。
移民大臣は、このイニシアチブの中でドイツと合意した「エジプト・ドイツ雇用・移民・社会復帰センター」(EGC)を優れた開発協力モデルとして賞賛し、不法移民送り出し県の若者を対象にした合法的な移民政策が成功していると指摘する。
そして、ドイツの移民モデルをベースに、「日本も同様のセンター設立に向け協力している」と明言している。
ヨーロッパ中で問題を起こしている不良エジプト人・不法移民層を日本の支援で研修させ、日本に労働者として受入されさせるという図々しい協定だ。
ドイツのエジプト移民モデル、日本にも適用へ
実際、エジプト移民大臣は上記会合の2か月後の2023年4月12日、駐エジプト日本大使を前にこう述べている。
「エジプト・ドイツ雇用・移民・再統合センターが実施する訓練や資格取得の活動を確認するために、日本大使を招待する。日本はエジプトに対して、技術教育や労働者の訓練に関心が高いことで知られている」(エジプト移民・在外エジプト人省発表、2023年4月12日)
つまり、ドイツが支援してできた移民制度を視察させたうえで、日本にも同様の協力を求めるという明確な布石が打たれていたのである。
また、在日エジプト人向けのオンライン説明会(エジプト国家情報局、2023年4月11日付け)でも、移民大臣は次のように発言している。
「日本のような高度な技術を持つ国との協力はエジプト人労働者のための新たな労働市場を開拓する計画であり、ドイツとの協力で設立されたセンターと同様のものを日本などのパートナーと協力して設立していく」
日本の協力による日本向けエジプト移民センター設立計画は規定事実として、移民大臣から日本に移住したエジプト人に伝達されていたのだ。
この計画は前年の2022年、エジプト移民大臣が駐エジプト日本大使に対し、以下のように提案されている(アルマスリー・アルヨウム紙、2022年11月22日付)。
「日本とは、エジプト・ドイツ移民センターの現在のモデルに基づく協力の検討、日本社会が必要とする特定の職種や職業の労働者の訓練と資格認定におけるセンターの訓練専門知識の活用の可能性の検討を目的に、特に移民とコミュニティーといった様々な問題に関する継続的なコミュニケーション、調整、協力、専門知識と経験の交換を歓迎する」
以上から、エジプト政府は2022年から一貫して日本に対し、ドイツ向け移民センターをモデルに協力・支援要請をしていることがわかる。
エジプトの労働大臣や移民大臣の発言から、日本政府側の移民センター設立協力意向が確定しているように読めるが、実態は異なる。
原文のアラビア語を厳密に解釈すると、エジプト側の要請と希望的観測を誇張して発表しているだけで、日本政府=外務省(駐エジプト日本大使)は協力や合意の言質をエジプトに与えていない。
あくまで「日本は協力する」「日本の支援を歓迎する」「日本と協定締結の予定である」といった希望と嘘が半分半分のギリギリの線までしか書いていない。
エジプト政府は決まってもいないのに「断定と誇張」表現を多用するので、紛らわしいが、ODA大援助国・日本と外交問題にならないよう、さすがに「日本が合意した」という完全な嘘までついていない。
しかし、エジプト政府発表が希望的観測レベルから日本との大筋合意レベルと言える段階に変わった転換点がある。
それが下記の小池都知事と経済団体「エジプト日本経済員会(EJBC)」委員長イブラヒム・アルアラビー氏の2024年11月8日会合である。
エジプトのネットニュース「アルバラド2024年11月10日付」
日本語キャプションは筆者
イブラヒム・アルアラビー氏は記事冒頭で記したとおり、エジプト労働大臣と日本への労働者送り出しについて会合を持った人物であり、東京都との合意文書の署名者である。(※小池都知事とアラビー氏とのカイロ大学留学時代からの深い関係については別の記事でとりあげる)
経済団体トップとの会合の様子を報じた記事(アルバラド2024年11月10日付)には、「日本へエジプト人労働者を送り出すため、共同訓練センターを日本側と設立することを小池都知事に提案した」と言及されている。
さらに、記事の見出しではセンター設立を(小池都知事と)「協議した」と明記する。
外交話法でいう「協議」は、従来のエジプト政府が一方的に提案するだけの予備的な会合レベルを超えたものである。それは双方が利害関係を共有し、合意に向けた本格的な話し合いの土俵だったことを意味する。
エジプトの経済団体は東京都知事と協議した後、会合の最後にこう述べている。
「ユリコとの会談を称賛し、この会談を通じて日本の強力な支援と両国間の協力強化に向けた真剣な取り組みが示され、日本政府や民間セクターとで成果が上がった」
この発言は、小池氏が一自治体の長という立場を超え、両国間の労働・移民政策という外交案件に深く影響力を行使し、エジプト側の要求を事実上受け入れたことを強く示唆している。
この会合を経て、今年8月19日に正式署名されたのが今回のエジプト人労働者雇用促進の合意文書である。
一連のエジプトとの会合記録を時系列で判断すると、移民政策への協力要請に対し、外務省が合意しなかったことから、エジプト政府は学歴認定(偽装)で貸しを作った小池都知事という非正規の外交ルートを用いて直接的に働きかけ、都主導の合意に持ち込んだ流れが見て取れる。
この会談に至るまでの小池都知事の駐日エジプト大使や移民大臣との一連の会合については下に記事で詳述した。
記事で論証したとおり、今回の合意に実務レベルで小池都知事が関与していないとする東京都の下記の説明がまったくの噓であることは明白である。
Q3 なぜエジプト・日本経済委員会との合意書を締結したのか。
A3 (前略)2024年11月、都知事がエジプトを訪問した際にエジプト首相と面会し、今後の都とカイロ県及び両国の友好関係の発展について意見交換を行いました。その後、実務レベルで協議を積み重ね、2025年8月19日に、現地の経済団体であるエジプト・日本経済委員会と合意書を締結しました。
東京都ホームページ
本来、外交・安全保障に直結する「雇用・移民センター」のような案件では、エジプト側の要請に応じる主体は国家・政府である。
こうした行為は、地方自治法が定める自治体の権限を逸脱するものであり、法的効力を持ち得ない。さらに、国が専管する外交・安全保障の領域を侵す可能性も指摘される。
それにもかかわらず、東京都知事がエジプトに助け舟を出し、主導権を握ることになった――この経緯こそが、極めて異常な点である。
異常さの本質は、東京都の合意内容がエジプトとドイツがすでに構築した移民送り出しスキームと驚くほど酷似している点にある。
こうした類似性は、単なる偶然ではなく、エジプトの移民政策のモデル移植を意図しており、以下にその詳細を照らし合わせてみる。
東京エジプト合意とドイツ移民センターモデルの驚くべき類似性
エジプトは移民送り出しモデルをすでにドイツとの間で制度化している。「エジプト・ドイツ雇用・移民・再統合センター(EGC)」が設立され、ドイツの支援のもと、エジプトの不法移民層に対して
「枠組み合意 → 助言・情報提供→研修プログラム開発支援 → 訓練センター設立 → 資格取得・雇用促進 → ドイツへの移住」
というスキームが整備されている。
エジプト労働大臣が「日本ともドイツと同様の協定を締結する予定」と明言しているとおり、東京都の合意書は先行するドイツとエジプトの協定に酷似している。
■ ドイツ政府とエジプト政府の協定
・ドイツの労働市場に関する情報と助言
・エジプト人労働者の雇用促進および研修支援
・エジプト人労働者のキャリア開発
・エジプト人の正規移住の要件に関する情報と非正規(不規則)移住のリスクに関する啓発。
・エジプト政府機関および市民社会組織の能力強化
■ 東京都とエジプト側(EJBC)の合意
目的:
・日本での雇用に必要なスキル・基準の研修等について、都が助言や情報提供などを行うこと
・エジプト人労働者の就労に関し、両当事者間で交流・協力する枠組 みを確立すること役割(東京都)
・研修プログラムの開発に対する助言などのサポートを提供する。
・エジプト人労働者が日本での仕事を確保するための情報を提供する。
役割(EJBC)
・エジプトでの研修プログラムの開発を支援する。
・研修生の募集と研修プログラムの促進を支援する。
・研修プログラム及び運営に関するエジプト政府の関与を促進する。
・研修は、協力民間企業が運営する研修センター施設を活用して実施する。
ドイツとの協定でも、フェーズ1・フェーズ2に分けられ、実行されていったが、東京都との合意書でも「実施メカニズム」までが明文化されている。
第 3 条 実施メカニズム
1. 各当事者は、東京都及び EJBC の代表者から成る連絡会を設置するもの とする。
2. 予算、具体的なプロジェクト契約及びスケジュールを含む実施の詳細は、 両当事者が別途かつ相互に合意して策定するものとする。
ドイツも日本も、労働市場の情報提供から研修センターへの助言・支援によるエジプト人労働者の雇用サポートまで、目的も手法も枠組みもほとんど同じである。
ドイツをモデルに政府関与の不可欠性
東京都の覚書はEJBC(エジプト日本経済委員会)との合意とされるが、その第2条には、
「研修プログラム及び運営に関するエジプト政府の関与を促進する」
と明記されている。これは実質的に政府との合意であり、民間との協力を装った隠蔽にすぎない(東京都・EJBC合意書、2025年8月19日)。
虚偽答弁と道義的腐敗
これらの事実にもかかわらず、小池知事は「移民促進は誤情報」と断言し、都庁前での抗議も「SNSを使った動き」と切り捨てた(都知事記者会見、2025年8月下旬)。
しかし合意書には「エジプト政府のプログラムへの関与を促進」と明記されている。形式上は東京都と民間団体との協定に見えても、実態は東京都とエジプト政府との移民受入協力である。
労働者の送り出し国・エジプトの日本への提案に「移民」と明記されている以上、「移民ではない」という説明は成立しない。真実を隠したまま進めること自体が、都政の腐敗なのである。
都議会が取るべき撤回策 ― 国家専管事項の逸脱
今回の合意書の最大の問題は、表向きの署名当事者をEJBCとしながら、条文の中に「エジプト政府のプログラムへの関与促進」という文言を忍ばせている点にある。
まず、このような合意は地方自治法第99条に定める「自治体の権限の範囲」を逸脱しており、本来、地方自治体が関与できる事務の限界を超えている。したがって法的効力を持ち得ない。
さらに、もしエジプト政府と直接の合意を結べば、それは明白に外交・安全保障に関する条約・協定の締結権限(憲法第73条2号)を逸脱することになる。外交は国の専管事項であり、地方自治体が主体的に踏み込む余地はない。
他国の事例でも同様である。エジプトとの移民支援センター設立に関する合意は、少なくともドイツでは政府間の協定として結ばれており、地方自治体レベルで同種の枠組みに関与した例は存在しない。一自治体が国家政策としての移民枠組みに踏み込むこと自体、違法性が濃厚なのである。
そこで小池都知事は、あえてEJBCを表の署名主体に据え、裏側に「エジプト政府の関与」を仕込むという欺瞞工作を行ったと解される。形式上は「民間団体との協力」に見せかけつつ、実質的には政府間合意に準じる性格を持たせているのである。
このような合意は地方自治体の権限を逸脱しており、無効である。したがって都議会は、移民受入促進が外交・安全保障に直結する国家の専管事項である以上、本件合意書は無効であると公式に提起すべきだ。
撤回を迫るのは単なる「移民反対」の民意に応えるものではなく、法理上の必然である。都民・国民の不安を解消する唯一の道は、議会がこの合意を白紙撤回し、国の専管事項を侵す都政の越権行為を是正することにある。
編集部より:この記事は、浅川芳裕氏のnote 2025年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は浅川芳裕氏のnoteをご覧ください。