
6回分連載した「オープンレター秘録」を、あと1回で完結させたいのだが、時間がとれない。この春に戦後批評の正嫡を継いでしまい、歴史の他に批評の仕事もしなければならず、忙しいのだ。

そんな間に、キャンセルカルチャーの潮目じたいが大きく変わった。未来に目覚めて(woke)現状変革を唱える急進派が、”時代遅れ” と見なす保守派をキャンセルした季節は去り、いまは「人の死を喜ぶ “人非人” のサヨクを、右派が主導して常識人みんなの前に晒し、叩く」のが旬である。
最大の転機は、9/10に米国で起きたチャーリー・カーク射殺事件だ。その背景と反響の双方を、私はすでに詳論したが、それがいま「専門家」のどの記事よりも、的を射た論評になっている。

なぜか。多くの識者は、射殺犯に自分と逆の立場、つまり右や左のレッテルを張ることに終始したが、事件が「キャンセルカルチャーの大反転」を招いた本当の原因は、そこではないからだ。
ではどこか。既報のとおり日本の「オープンレター」も含めて、世界のキャンセルカルチャーを長らく駆動してきたトランスジェンダリズムが、ついに政治的な暗殺を生んだ可能性がある。だから、ここまでハレーションを呼んでいるのだ。

2025.9.30
映画版の『ハリー・ポッター』で人気を得たエマ・ワトソンと、原作者J.K.ローリングの愛憎については、9/30にBBCがまとめている。要は、ローリングを「トランス差別者」と非難する潮流に乗ってきたワトソンが、いまになって手のひらを返し、信用を失った。

まぁ、そうなるよね。”意識高い” と言われたくて軽〜い気持ちで煽ったムードが、ケネディ暗殺並みの重大事件を起こしたら、そりゃビビるでしょ。教室のいじめっ子が、相手の自殺が報じられた途端にパニクるやつの、いわばオトナ版だ。
で、「アベ暗殺」くらいなら “意識高く” 遊べると考えた日本の大学教員も、米国での逆流を見て青くなり、逃亡を図るも空しく捕まった。まずは、オープンレター呼びかけ人の清水晶子氏だ。

2025.9.30
「ぽんたcafe」の発言主は千田有紀氏
2022年7月の安倍晋三元首相射殺後のこの人の所業は、以下にまとまっている。なお同じ年の3月、ウクライナ戦争の序盤にも、「プーチンもローリングを擁護してるから、オープンレターの批判者はプーチンと同じだ」と歓喜する発言をしていた。

世界が安倍氏の横死を悼み、ロシアの侵略に憤るときに考えていたことがそれでは、控えめに言って人としてクズだろう。が、大差ない人が周りに多いと気づかないもので、そうした界隈を「オープンレターズ」と呼ぶ。

2025.9.30
上記の千田氏への返信ツイート
レターが出るきっかけを作った北村紗衣氏のXの使い方が、短い語数で「勝ったふり」だけするヘタの横好きなことは、前に以下の記事で書いた。ところが最近は公然と「レスバに負ける」姿を見せて、広く笑われている。
なんでそうなるか、わかってるかな?

かつてオープンレターズが乗りこなした「キャンセル」の潮流が逆転したいま、Xで彼女(たち)に肩入れするのはダサく・勝ち目もなく・キャリアの上で危険な行為になってしまった。なので、味方が集まらない。
もともと長文で反証されると黙るくらい論戦に弱いのを、いわゆる「犬笛」で集まる助太刀アカウントの多さでごまかしてただけだから、イヌが寄ってこないのに飼い主を恐れる人はいない。あたりまえの話である。

2025.9.23
「さえぼう」は北村紗衣氏の愛称
……ん、犬? ちょっと待って。
集まる部外者を喩える動物は、イヌに限らない。「嘴を挟む」とも「野次馬」とも言うし……ウマ…ブタ…”豚の嘶き” ??

上記の記事のとおり、かつてXで威容を誇示したオープンレターズの多くは、旗色が悪くなるや、マイナーSNSのBlueskyに逃亡している。実はこれもまた、米国と共通する現象である。
今年6月には、トランスジェンダリズムに否定的なヴァンス副大統領がBlueskyにアカウントを作るや、一瞬でなんと15万人からブロックされてニュースになった。もはや山岳ベースのようだ。

さて、そのBlueskyで私の陰口を言っているオープンレターズのひとりに、呼びかけ人の隠岐さや香氏がいる。この人はいまや、学界の歩く炎上製造機なのだが、先月もまた1つ記録を伸ばした。
9/29に前橋地裁で、「草津町長から性被害を受けた」と虚偽の告訴をした元町議に有罪判決が下った。で、2019年の問題発生時に(嘘の)告発を鵜呑みにし、名誉毀損を繰り広げながら謝罪を拒む者への批判が高まり、その代表が隠岐氏なのだ。

なお、同じ人は日本学術会議をめぐる “出ると負け軍師” としても、いま有名だ。Xで喋るごとにボロが出て会議の印象が悪くなり、せめて黙ってればいいのにと思うのだが、できないらしい。
昔の同業者が忖度するに、本人の主観では「私こそ君を幸せにできる」という気持ちでつきまとい、相手を不幸に突き落すストーカーめいた心理を感じるが、学者が “学問” に対してそれをやる姿はいっそう怖い。エマ・ワトソンの主演で、サイコスリラーにすれば映えるかもしれない。

誤解のないよう繰り返してきたとおり、トランスジェンダリズムが学問への信頼を毀損し、政治的に進歩派を衰弱させる現象は、日本だけでなく先進国に共通だ。そして、そこからの反転も。
9月には “AnywheresとSomewheres” で知られる、D. グッドハートの分析も広く読まれた。公平に言って、まだトランスジェンダーについて認知度の低い日本は、相対的に「傷が浅い」方だろう。

いまでは左派政党が道を見失っています。これは左派がレインボーフラッグを掲げる連合勢力のスポークスマンに変わってしまったからです。
マイノリティの利益をマジョリティのそれの上に置き、移民の大量受け入れを推進し、日常の関心から乖離した課題に関して進歩的な見方を擁護していたため、庶民階級が左派を見限ったのです。いま庶民階級の大半は、ポピュリズムの政党を支持するようになっています。
2025.9.3
初出紙はフランスのLe Figaro
が、その分、コソコソした学者たちの蠢動がより矮小で、いっそう無様な姿を晒した感も否めない。だとすると物理的には浅くても、症状が長引き「治りにくい傷」となって、諸外国より回復が遅れることはあり得よう。
次回の更新では、その一端をご紹介する。ひとまずは以下の画像などを眺めて、ぜひ楽しみにお待ちください。

2025.9.29
参考記事:


(ヘッダーは、「セイラム魔女裁判」の教訓を学ぶ米国のYouTubeの歴史教材。GIGAZINEより)
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2025年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。






