米中首脳会談は世界経済安定と和平の節目:進むデカップリング・リスク

トランプ氏は2、3か月ほど前から習近平氏と会談するとほのめかしていました。それは一連の関税問題、ロシア絡みの問題、そしてTikTokを含む中国との問題などの総括をする機会だと捉えていたのでしょう。1週間ほど前には中国側が発表したレアアース輸出規制に激怒し、「習氏と会うつもりはない」とも言っていましたが、もちろんそれはブラフで実務レベルでは首脳会談に向け、様々な調整が進んでいます。

トランプ大統領と習近平国家主席 Wikipediaより

日程的にはトランプ氏が日本に10月28日に来てたぶん1泊。(場合によっては27日に来日、同日1泊して28日に韓国へ移動もあり得ます。)そして29日にAPEC開催国の韓国に移動し、29日か30日に習近平氏と韓国で会談するというのが流れになっています。現時点でその会談開催が危ぶまれるという情報はありません。

まず二国間関税問題ですが、現状、24%の関税付保を11月10日まで留保しています。同日までの関税交渉期限延期は当然、APECでの首脳会議日程が前提になっていたとみてよいでしょう。この頂上決戦が単に米中の経済や二国間関係のみならず、世界経済や国際問題を大きく左右する2025年最大級の経済外交イベントの1つになるとみています。

なぜおまえはそこまでこの会談を重視するのか、といえば双方にとってインパクトがある案件が非常に多くその結果次第では株価すらゴムまりのようにすっ飛ぶ可能性があるのです。

個人的な最大の注目は二国間関税ではなく、対ロシア政策であります。アメリカの方針としてはロシア経済を完全に締め上げることに踏み込んでいる点です。

インドのモディ首相とトランプ氏は電話会合でインドがロシア産原油を買わないと約束したとアメリカが発表しています。インド側は若干ニュアンスが違うようで、その開始時期も未定で多分時間がかかるとみています。時間稼ぎでしょう。またウクライナとの戦争が終わればまたロシア産原油を買うだろうともみられています。開始時期が未定なのは代替の供給源を確保する必要もあるからです。インドはイラク、サウジ、イランといった国々から原油を調達してきましたが、イランは経済制裁もあるし、採掘能力が十分ではないという問題もあります。抜け道としてロシア産原油をイラン経由でインドに回す「う回輸出」の可能性はないとは言えません。トランプ氏はモディ首相の言質を取ったことで習近平氏との交渉を優位に進めるという思惑はあります。

トランプ氏は中国に「ロシア産原油購入を止めよ」と相当な勢いで迫るはずです。トランプ氏はそれをしてくれるならアメをあげよう、というでしょう。それが関税条件です。仮に中国もロシア産原油を買わないと確約すればロシア経済は相当のダメージになり、経済破綻が見え、プーチン体制の崩壊も起こりえます。ただ、BRICSの最大の盟友同士の絆を考えると習氏が「はい、わかりました」とは簡単に言わない気がいたします。

次にトランプ氏は習氏に「なぜ、中国はアメリカの大豆を買わないのだ!差別だろう」と食って掛かるはずです。大豆問題は実は第1期トランプ政権の時に発端があり、当時の貿易戦争で中国が激怒し、アメリカからの大豆購入を激減させ、ブラジル産にシフトし、今年5月以降、アメリカ産大豆の中国向け出荷はゼロとなっています。これで困るのがトランプ氏で支持層の南部の農家が「Mr. President、どうなってんのよ」と食って掛かっているわけです。

3点目が中国が打ち出したレアアース輸出規制。輸出物品に中国産レアアースが価値の0.1%以上入っていれば報告義務があるというものです。中国の常識で考えると0.1%以上含めば実質輸出禁止ということなのでしょう。その動きは以前からあり、そのテンションがさらに一歩上がったわけです。トランプ氏はそれに対抗して西側友好国の資源やレアアースを囲い込み、場合によってはアメリカ政府の資本を民間企業に入れ、民間企業の事業に一定の制約を加えようとしています。

これはとりもなおさず、地球規模のブロック経済化を進めることになります。いみじくもベッセント財務長官が世界はデカップリング リスクにあると述べています。デカップリング化が進んでいることは事実でアメリカが引き金を引き、それを受け中国が攪乱させているともいえ、私から見ればどっちもどっちという気がします。

こう見ると米中首脳会談は数ある政治的イシューを討議しながら関税がその緩衝的交渉材料であり、税率交渉は付随的で補完的になるのではないでしょうか?中国では「脱アメリカ化」が進んでおり、最大の交渉カードの半導体を含むハイテク製品とAI開発が中国国内でどれだけ進んできたかにかかっていると思います。

デカップリングは経済学的には最悪の選択肢で1930年代のブロック経済化による世界大不況と同じ結果を引き起こすことになります。ただ、アメリカはここに来て同盟国の囲い込みにも熱心でベッセント氏が加藤財務大臣に「ロシア産ガスを買わないでくれ」と依頼したとされる件も「日本はアメリカと同盟国なんだろう。ならサハリンの権益なんてギブアップしろ。その代わりアラスカの開発をやらせてやるぞ」ぐらい言っているのだろうと思います。

では中国はどう受けて立つでしょうか?私はそれなりに強気ではないかとみています。通常、首脳会談をする場合、事務方が事前にお膳立てをして首脳会談は形式的なものという場合がほとんどでした。ところがトランプ氏は直接の交渉者を演じるわけでケンカも辞さないわけです。これは習近平氏にとってはやりにくいわけで言葉尻を捉えられる可能性もあります。よって中国は明言を避けながらも衝突を回避する作戦に出るとみています。

ところでトランプ氏が日本に来る話題はまだほとんど上がっておらず、私も「Youは何しに日本へ」と聞きたいぐらいで、せいぜい、韓国での決戦に向け高市さんにエールでも送りに来るのでしょうか?よう知らんけど。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月17日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。