英国国教会は今月3日、最高指導者のカンタベリー大主教にサラ・マラーリー氏(63)を選出した。マラーリー氏は英国国教会の歴史で初の女性のカンタベリー大主教だ。元看護師。既婚者で、2人の子供がいる。国王チャールズ3世が承認し、来年3月に第106代として就任する。前任のジャステイン・ウェルビー大主教は昨年11月、国教会関係者の男性が多数の少年らに虐待を繰り返した疑惑を巡り対応を怠ったとして批判され、辞任に追い込まれた。
次期カンタベリー大主教に指名されたサラ・マラーリー氏、ウィキぺディアから
ところで、保守派「聖公会」グループ「GAFCON」の広報担当者であるルワンダ人首座主教ローラン・ムバンダ氏は16日、「私たちこそが真の英国国教会だ」という趣旨の声明を発表した。リベラル派と受け取られているマラーリー氏がカンタベリー大主教に任命されたことを受けて発表された内容だ。「GAFCON」は、女性の聖職叙任と同性愛関係への寛容さを批判してきた。
マラーリー氏が任命されたことで、伝統的な信仰を重視する保守派と、より現代的な価値観を取り入れようとするリベラル派との間で長年続いてきた教会内の亀裂がさらに広げられ、組織の求心力が低下する可能性があると受け取られている。ただし、英国国教会は、歴史的に多様な解釈や立場の信徒が存在する組織であり、特定の人物の選出だけで「リベラル化」と断定することはできない、という慎重な声も聞かれる。以下、余り知られていない英国国教会についてまとめた。
英国国教会は聖公会(アングリカン・コミュニオン)の母体であり、英国の「国教会」としての歴史と位置づけを持つ一方、聖公会は英国国教会から世界中に広がった、各国の独立した姉妹教会の総称だ。
母体教会は1534年、イングランド国王ヘンリー8世がローマ教皇の承認を得ずに離婚を望んだことが直接的な原因となり、ローマ教会から離脱した。そして「国王聖下法」が制定され、イングランド国王がイングランド国教会の首長(最高指導者)となった。これにより、ローマ教皇の権威から独立した独自の教会が設立されたわけだ。
その後、英国国教会は、聖書のみを信仰の根拠とするプロテスタント的な考え方(長老制)と、カトリック的な伝統を重んじる考え方(聖公会)が併存し、神学的、儀式的な意見の相違が生じた。英国国教会内部には、様々な教会派が存在している。
カンタベリー大主教は英国国教会全体を代表する象徴的な存在であり、聖公会世界連盟(Anglican Communion)の議長を務める。世界中で約8500万人を抱える聖公会の儀式上のトップだ。聖公会は保守的なキリスト教徒、特に同性愛が非合法とされている国もあるアフリカのキリスト教徒と、一般的にリベラルな欧米のキリスト教徒とに分かれている。カトリック教会のような中央集権的な組織ではなく、各地域の教会が自治権を持つ連合体であり、分散型の構造を持っている。
英国国教会は、信徒が約2600万人だ。近年、閉鎖される教会も多く、絶滅の危機にある。過去15年間で約1000の教会が取り壊された。組織としては、チャールズ3世が最高指導者であり、イングランド全土にカンタベリー管区とヨーク管区の2つの管区が置かれ、それぞれがさらに教区に分かれている。
一方、英国教会連合(GAFCON)は、保守的な聖公会(アングリカン)の信徒や指導者たちの連合体で、保守的な聖書解釈を支持し、性的指向やジェンダーの問題に関する「アングリカン・コミュニオン」の伝統的な教えからの逸脱を批判してきた。「GAFCON」はマラーリー氏のカンタベリー大主教任命に憤慨し、「この任命は世界中の信者に対し背を向けるものだ」と述べている。
「GAFCON」は声明の中で、聖公会を聖書のみに基づいて再編成すると発表した。これは、聖公会改革公式文書とGAFCONの2008年の原則声明である「エルサレム宣言」に定められた信仰に基づく、自治権を持つ各教区からなる共同体を意味する。同声明ではまた、「我々は、聖公会の共同体機関、カンタベリー大主教、ランベス会議、聖公会諮問評議会(ACC)、そして首座主教会議を拒否する」と述べている。
ちなみに、2018年からロンドン主教を務めてきたマラーリー氏は、シビルパートナーシップや結婚における同性カップルの祝福を認めるなど、教会内でリベラルな措置を支持してきたことで知られている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。