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人柄が良いとビジネスで上手くいきやすい。それ自体は間違いではありませんが、実はビジネスの場においては、人柄よりも「人あたり」で判断されることの方が多いのだと、元JAL国際線の客室乗務員で現在は人材教育コンサルタントの香山万由理氏は言います。
今回は、接客やビジネスの場に大きな影響を与える「人あたり」を良くする方法について、『仕事ができる人は、「人」のどこを見ているか(香山万由理・光文社)』から再構成してお届けします。
人柄よりも「人あたり」
あなたは「人柄が良い人」と「人柄が良くない人」、どちらと一緒に仕事がしたいですか。言うまでもなく「人柄が良い人」に決まっているでしょう。
ところが、ビジネスの場においては、人は相手の人柄ではなく「人あたり」で判断していることのほうが多いのです。同じ職場で働いていたり、長年にわたって取引をしたりしている間柄でしたら、人柄が大きな位置を占めることもあるでしょう。仲間やお客さま、取引先からの信頼を得るには、人柄が良くないと関係は長続きしません。
しかし、仕事で接する人の一人ひとりと膝を突き合わせて自らの人生観や価値観を語り、自分のことを理解してもらうというのは不可能です。
特に接客やビジネスの場において、人柄を知ってもらう時間はないのです。人柄を知ってもらう前にまずは「人あたり」。そもそも、人あたりが良くない時点で、本題に入る前に「この人は、ナシだな」と切られてしまっていても文句はいえないでしょう。
そして、「人あたり」を構成する「あたしひみこ」の中で、最も重要なのが「あいさつ」です。
CAは飛行機にお乗りになるお客さまを、搭乗口でごあいさつとともにお迎えします。CAのあいさつに対し、「こんにちは」と丁寧に返されるとうれしく感じます。
中には「お忙しいところ恐れ入りますが、手が空いたときでかまいませんので日経新聞をお願いできますか」とおっしゃるお客さまもいらっしゃいます。CAも人間です。このように敬いの気持ちを持って接してくださるお客さまに対しては、手が空いていなくてもすぐにでもお持ちしたいと思うものです。
その一方で、乗りこむなり「日経!」と言ったままスタスタと座席に向かってしまうお客さまもいらっしゃいます。CAはお客さまを見失わないように追いかけていって、座席番号を確認。落ち着かれたタイミングで新聞をお持ちするのですが、そっぽを向いたまま片手でフンと受け取るだけ……。
他人からされて悲しい気持ちになることの代表が、無視をされることです。このお客さまは新聞を受け取ってはいらっしゃるので、全くの無視というわけではありませんが、それでもちょっと残念な気分になります。
あいさつの役割とは、「あなたの存在を認識していますよ」ということを伝えるための言葉です。そして、自分の心を開いていますよ、というシグナルです。動物でも、自分以外の存在を認識したときは、まず互いにニオイを嗅ぎ合うなどして、あいさつをします。
それを考えると、人間関係がギクシャクする原因は、あいさつのあるなしにあるといってもいいかもしれません。職場でも「あいさつがなかった」「来たらひと言声をかけてくれればいいのに」ということを、日常生活でよく耳にします。
上級者のあいさつ
あいさつも、ただすればいいというわけではありません。気持ちのいいあいさつ、これが第一印象を決定づけ、良好な人間関係を育む入り口になります。
では、気持ちのいいあいさつとはどんなものか、JALで教育されたことをベースに3つのポイントをお伝えします。
POINT①:相手に伝わるあいさつ
朝のあいさつなら、明るく、相手に届く声で「おはようございます」と、伝わるあいさつを。「……おはようございます……」と小声でモゴモゴ言っても相手には届きません。自分の言葉が相手に届いたと認識できるあいさつをしましょう。
POINT②:状況に合ったあいさつ
時間帯によって、「こんにちは」や「こんばんは」を使い分けるのはもちろんですが、状況によって声のトーンや言葉を使い分けることも必要です。元気で大きな声を出せばいいと思って、場をわきまえず、大声であいさつする人がいますが、それは違います。
周りが静かな雰囲気でしたら、少し小さめのトーンで、「こんにちは。本日はありがとうございます」。小さめの声でも相手にきちんと届くことが肝心です。周りが騒々しく、声が届きにくいようなら、ハリのある大きめの声で、「こんばんは。お疲れ様でございます」。「こんにちは」や「こんばんは」のあとに、ひと言相手を気づかう言葉を添えるのがポイント。こういうちょっとした気づかいひとつで、相手に与える印象がガラリと変わってきます。
POINT③:相手の気持ちに寄り添ったあいさつ + 言葉がけ
相手が不安そうな表情を浮かべていたら、「こんにちは。ご不安なことがあれば、いつでもお知らせください」。相手が迷っているようだったら、「こんにちは。何かご案内いたしましょうか」。相手の表情を見ながら、さらに、相手の気持ちに寄り添った言葉を添えられると、「人あたり」の上級者です。観察力と想像力をもって対応できるかが重要です。
「あいさつファースト」に例外なし
仕事ができる人は、「仕事ができる人」と一緒に仕事をしたいと思っています。そのため逆に仕事ができない人の特徴もよく見ています。そのひとつが、あいさつもそこそこに、自分の言いたいことを話し始めることです。
ランチタイムの飲食店などでときどき、お店に入るやいなや「いらっしゃいませ」のひと言もなく、「こちらに記入してお待ちください」と伝える店員さんがいますね。混んでいて忙しいのはわかるのですが、状況を考え、相手の気持ちに寄り添っていたら、いきなり本題に入ることはないはず。
「あいさつファースト」に例外はありません。まずは、「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます」とあいさつをしてから、お名前のご記入をお願いすることです。
あいさつは、コミュニケーションの入り口であるとともに、仕事を始めるにあたり自分の気持ちを引き締める効果もあります。
JALの機内清掃スタッフは、清掃に入る前に機内の空間に向かって一礼をします。到着した機内は、トイレが汚れていることもありますし、ジュースが床にこぼれていたり、ゴミが散乱していることもあります。それらを15分程度の短い時間できれいにしているのです。
スタッフの一礼には、次にお乗りになるお客さまが快適に過ごしていただくために徹底的にきれいにするぞ、という決意と、空間に対しての敬意の心が込められているのです。
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香山 万由理 一般社団法人ファーストクラスアカデミー代表理事/人財教育コンサルタント
接遇・ホスピタリティ教育の専門家、人財教育コンサルタント。立教大学卒業後、JAL日本航空に入社。国際線CAとして10年半乗務。在籍中にCS(顧客満足)表彰を受け、皇室・VIPフライトに乗務。退職後「品性と人間力を備えた人材を育てる学校」として、研修コンサルティング会社「一般社団法人ファーストクラスアカデミー」設立。官公庁、医療機関、企業などで、2万人以上に研修実績。リピート率97.2%。「接遇力」と「業績」を同時に成長させ、会社の格を上げる組織作りを実現。航空機事故の解説として、テレビ朝日「グッドモーニング」「羽鳥慎一のモーニングショー」、フジテレビ「イット」等、メディア出演。JCAA日本キャビンアテンダント協会理事を兼任。航空会社出身者のセカンドキャリア構築支援に従事。また、高野山真言宗僧侶としての顔も持ち、研修では仏教哲学も伝えている。
公式サイト https://first-class.academy/
Instagram : @mayuri.kayama
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2025年6月26日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。