トランプ政権は24日、最新鋭の原子力空母ジェラルド・フォード(USS Gerald R. Ford)を中心とする空母打撃群のカリブ海派遣を決定した。南米ベネズエラに対する圧力をさらに強化する措置であり、同国への軍事的・政治的抑止を意識した戦略的展開とみられる。
トランプ政権は9月以降、ベネズエラなどをめぐり「米国が麻薬テロリストの攻撃にさらされている」との立場を明確にし、「麻薬運搬船」とされる船舶への攻撃を続けてきた。また、同政権はベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を「麻薬テロ組織の首謀者」と位置づけており、外交シンクタンクのクインシー研究所は、こうした政権の認識を次のように整理している。
“The administration has made its interest in removing Maduro quite clear: it views him as the head of a narcoterrorist organization that is responsible for exporting crime, drugs, and illegal immigrants to the United States. Secretary of State Marco Rubio has declared that Maduro is not the legitimate president of the country, due to his government’s obvious falsification of results in the 2024 election, and the Justice Department doubled the bounty for his capture to $50 million.”
(トランプ政権はマドゥロ排除への関心を明確にしており、同氏を米国へ犯罪・麻薬・不法移民を輸出する麻薬テロ組織の首魁と見なしている。マルコ・ルビオ国務長官は、2024年選挙での明白な結果の捏造を理由に、マドゥロは正当な大統領ではないと宣言し、司法省は同氏の身柄確保に対する懸賞金を5,000万ドルに倍増させた。)
トランプ大統領自身も、地上での行動について強い示唆を行った。ラウンドテーブル形式の会合後の会見で大統領は次のように述べた。英紙ガーディアンで以下のように報じられている。
“The land is going to be next,” Trump said during a press conference after a roundtable with members of his administration. “And we may go to the Senate; we may go to the Congress and tell them about it, but I can’t imagine they’d have any problem with it.”
(「次は地上だ。上院や議会に報告するかもしれないが、彼らが問題を持つとは考えにくい」──との発言で、地上作戦実施の可能性を示唆した形だ。)
こうした発言と行動は、現地情勢と国際法上の複雑な問題を浮き彫りにする。政権が「麻薬テロリスト」と断定する根拠や、実際に武力行使を行う際の「必要性」と「比例性」を巡り、国内外で強い議論が予想される。国連憲章や主権尊重の原則、地域諸国や同盟国の支持の有無が、行動の正当化に大きく影響する。
一方で、軍事的プレゼンスの実態を示すデータもある。米海軍の動向を追うフリートトラッカーによれば、月曜日時点で世界に展開している米海軍艦艇のうち約8%がカリブ海に配備されていたという。空母打撃群の展開は、この地域における米軍の可視的プレゼンスをさらに高めるものだ。
仮に地上作戦が実施されれば、即時的には都市部での衝突、避難民の急増、地域的な安全保障の不安定化が懸念される。長期的には、米露・米中関係のさらなる悪化や、南米諸国との関係再編といった地政学的帰結が生じる可能性がある。対照的に、政権側はマドゥロ政権の機能低下や麻薬流通ネットワークの撲滅を通じた短期的な成果を主張するかもしれない。
現時点で明らかなのは、米政権が対ベネズエラ政策における圧力手段を強化し、対応の選択肢を着実に拡大しているという点だ。仮に「地上作戦」が即座にマドゥロ政権の崩壊につながらなかったとしても、局地的な攻撃は新たな難民の流出を招き、ベネズエラを麻薬組織の温床へと押し戻す恐れがある。その結果、西半球全体の安定が揺らぐ懸念は拭えない。さらに、米海軍の主力がベネズエラをにらむ形でカリブ海に集中していることで、インド太平洋を含む他の戦略地域における拡大抑止体制が一時的に手薄になっている。もし戦闘が長期化・拡大すれば、米軍の機動力や同盟国への即応支援能力にも制約が及ぶ可能性がある。
ベネズエラ情勢は、もはや中南米だけの問題ではない。国際秩序全体の均衡を左右しかねない、地政学的な波紋を生みつつある。
トランプ大統領とその閣僚たち ホワイトハウスHPより