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人とのコミュニケーションにおいて、視線は重要な意味を持ちます。ときには視線ひとつで信用を失ったり、人生が変わってしまうこともあるほど。元JALの客室乗務員で現在は人財教育コンサルタントの香山万由理氏がいつも意識しているという、好感を持たれる視線配りとは。
今回は視線が与える印象の力について、『仕事ができる人は、「人」のどこを見ているか(香山万由理・光文社)』から再構成してお届けします。
「目切り」が速いと冷たく見える
自分では気をつけているつもりでも、態度やしぐさに、そのときの気分や感情が表れます。無意識に相手に失礼な印象や冷淡な印象を与えかねません。こういうときは「自分をコントロールできていない」状態です。
自分をコントロールできていないと、コミュニケーションコストが高い(意思疎通に時間や労力がかかる)と判断されます。早い話が「人あたりの良くない人」「面倒くさい人」と認定されてしまうのです。
一方、自分をコントロールできている状態でいると、相手にストレスを与えたり余計な気づかいをさせたりすることがありません。そういう人はコミュニケーションコストが低いので、一緒に仕事をしてもストレスを感じません。接客業においても、お客さまとトラブルになることもなく、安心して重要な仕事を任せることができます。
そして、気分や感情以上にコントロールしにくいものが、何気ない「しぐさ」。これについて、私はCA時代、先輩から注意を受けたことがありました。それは「目切りの速さ」です。
機内でお飲み物のサービスをするときは、短い時間で多くのお客さまにお届けしなければなりません。特にフライトタイムが短い路線で満席に近い状況ですと、急がなきゃ!という焦りが出てしまいがちです。
私「お客さま、お飲み物はいかがでしょうか」
お客さま「ホットコーヒーをください」
私「はい、かしこまりました」
と、コーヒーをカップに注ぎ、「熱いのでお気をつけください」とお声がけして、お客さまにコーヒーをお渡しするのですが、このとき、すでに次のお客さまに視線が移っていたのです。
対象から対象へと視線を移すときの動作を「目切り」と呼んでいます。目切りのスピードが速いと、スパスパと相手を切っているような印象を与え、事務的で冷淡に見られます。私はその後、目切りの速さに気をつけ、ゆっくりと視線を動かすように心がけています。
目切りは「人生を変える」
ある結婚相談所のエピソードをご紹介しましょう。
会員の中に、人あたりも良く、人柄も申し分ない女性がいました。紹介を受けた男性からデートの申込みをされることも多く、すぐに結婚が決まるだろうと思われていたのですが、1、2回デートをすると、男性側からお断りの連絡が入ります。これが何人も続けてのことだったので、一体どうしてなのかと、結婚相談所の所長さんは不思議に思っていたそうです。
そこで、所長さんがその女性と1対1で面談をしたところ、まもなく原因がわかりました。それは、「目切りのタイミング」です。
その女性は会話のとき、しっかり相手の男性の目を見て話しているのですが、別の対象に視線を移動する際のスピードがとても速かったのです。それが理由で、相手に冷たい人という印象を与えてしまっていたようです。
そこで所長さんは、目切りのタイミングを意識して、視線をゆっくり動かすよう女性に伝えました。これを守ってお見合いに臨んだところ、すぐにお付き合いが始まり、成婚に至ったとのこと。「目切り」は、人生を左右するくらい重要なことなのです。
視線ひとつで信用を失う
目切りの速さと同様に、話している最中に目的なく視線を外す人も、相手に居心地の悪さを与えてしまいます。
以前、ある方と向かい合ってお茶をしたときのことです。お互いに目を合わせて話しているのですが、途中で、その方はしばしば私の背中の方向に視線を向けます。店員さんを呼ぼうとするわけでもなく、私の背後に何か気になるものがあるんだろうかと何度も思ってしまったほどです。
これでは、私の話を聞いてもらっているように思えませんし、私のほうも相手の視線がチラチラ動くため話に集中できません。何とも落ち着かない時間を過ごすことになりました。
無意識に視線が関係ない方向に流れる人は意外と多いようです。相手の顔を正面から見るのは気恥ずかしいこともあるでしょう。相手の目をじっと凝視しつづける人には圧を感じるので、ときどき視線を外すことも必要です。
ただ、それも程度の問題で、頻繁に視線が逸れるようだと、相手に「話を真剣に聴かない人」という印象を与えてしまいます。
視線ひとつで信用を失ってしまうのはもったいないこと。逆にいうと、視線に気をつけるだけで、相手に良い印象を持ってもらうことができるのです。
ラストアイコンタクトを忘れずに
視線について、いつも私が気をつけていること、それは、「ホッとここア」です。
好感を持たれる視線配りの公式「ホッとここア」
(1)ホッとさせる(2)こころのこもった(3)アイコンタクト
(1)ホッとさせる
相手の目をグッと見据える、いわゆる目ヂカラが強い人。相手を打ち負かそうとするようなシーンでしたら効果的ですが、通常モードの場合だと相手はつい身構えてしまいます。少し顔を傾けながら相手の目元をやさしく見ると、相手の気持ちをホッとさせる視線を送ることができます。
(2)こころのこもった
相手が具合悪そうにしていたら心配する気持ちが、腹の底で怒っていたら怒りの気持ちが、言葉にせずとも目に表れます。心の動きを映すのが「目」。
自分の心の状態を整えて、「何かお困りごとはありませんか?」「お役に立てることはありませんか?」という心で相手を見ると、相手に安心感や信頼感を抱いてもらうことができます。
(3)アイコンタクト
アイはeye(目)ですが、他にもⅠ「私」や「愛」につながる意味も含みます。(1)と(2)をアイコンタクトに込めると、相手との間に信頼関係を築きやすくなります。相手と目を合わせるのが苦手な人の場合は、おでこや首元を見るようにしましょう。眼球を見つめなくても、目を合わせていることは伝わります。
視線を外すタイミングとしては、飲み物を飲むときや、何かメモをとるときなど、動作に合わせて視線を外すと自然です。また、人に物を渡すときなど、その物だけに視線が行きがちですが、それでは、「物が第一で、相手はその次」という印象を与えてしまいかねません。
CAはお客さまにお飲み物を渡すときなどは、まずお客さまの目を見て、次に物へと視線を移し、最後にもう一度お客さまの目を見るようにします。この「ラストアイコンタクト」を欠かさないことで、「お客さまが第一、物はその次」という気持ちを伝えることができるのです。
アイコンタクトには気をつけている人でも、ラストアイコンタクトは忘れがちなので、これもぜひ意識するようにしてみてください。
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香山 万由理 一般社団法人ファーストクラスアカデミー代表理事/人財教育コンサルタント
接遇・ホスピタリティ教育の専門家、人財教育コンサルタント。立教大学卒業後、JAL日本航空に入社。国際線CAとして10年半乗務。在籍中にCS(顧客満足)表彰を受け、皇室・VIPフライトに乗務。退職後「品性と人間力を備えた人材を育てる学校」として、研修コンサルティング会社「一般社団法人ファーストクラスアカデミー」設立。官公庁、医療機関、企業などで、2万人以上に研修実績。リピート率97.2%。「接遇力」と「業績」を同時に成長させ、会社の格を上げる組織作りを実現。航空機事故の解説として、テレビ朝日「グッドモーニング」「羽鳥慎一のモーニングショー」、フジテレビ「イット」等、メディア出演。JCAA日本キャビンアテンダント協会理事を兼任。航空会社出身者のセカンドキャリア構築支援に従事。また、高野山真言宗僧侶としての顔も持ち、研修では仏教哲学も伝えている。
公式サイト https://first-class.academy/
Instagram : @mayuri.kayama
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2025年7月1日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。