
首相官邸HPより
高市早苗氏が日本初の女性首相に就任してから、わずか数日で支持率は71%を記録しました。読売新聞の緊急世論調査でこれは歴代5位の高さです。石破前内閣の34%との落差を見れば、新首相への期待の大きさは明らかでしょう。
しかし、その高支持率の中に隠された戦略を読み解くことは、日本政治の現在地を理解する上で不可欠です。
議員定数削減という「試金石」
高市政権は、日本維新の会と連立を組むことで合意しました。その条件が「議員定数削減」です。衆院議員465人の1割削減を目指し、第219回臨時国会(12月17日までの58日間)での法案提出と成立を掲げています。
一見すれば、これは連立政権の一つの政策課題に過ぎません。ですが、その構造を冷徹に観察すれば、別の現実が浮かび上がります。
この議員定数削減こそが、高市首相にとって「勝利の方程式」を組み立てるための決定的な道具なのです。
議員定数削減法案の行く末は、基本的に2つのシナリオに二分されます。
シナリオ1:法案が成立する場合
「改革を実現した」という政治的実績を携えて、高市首相は解散総選挙に打って出ることができます。71%の支持率は、その圧勝を確実にするでしょう。自民党は議席を大きく増やし、首相の権力基盤は強固になります。
シナリオ2:法案が潰される場合
自民党内の既得権益勢力が改革を妨害したという構図が、明確に浮かび上がります。高市首相は「抵抗勢力との戦い」という大義を掲げて解散に踏み切ることができるのです。「古い自民党を改革する」というテーマで選挙戦を展開すれば、有権者の支持を失うことはあるまいでしょう。
つまり、どちらに転ぼうとも、首相は解散への道を開くことができます。これほど都合の良い設計があるでしょうか。
なぜ今は解散しないのか?
高市首相は、いま解散することはできません。支持率71%は確かに極めて高い数字ですが、それは「選挙前の資産」に過ぎないからです。
選挙戦が始まれば、野党からの厳しい追及が集中し、様々な政策課題が顕在化し、支持率は低下するものです。新人首相であればなおさらでしょう。「黄金期」を無駄に消費することは、政治的には愚策です。
だからこそ、首相が行うのは「準備」です。議員定数削減の議論という表舞台の背後で、自民党内の権力構造を把握し、抵抗勢力を特定し、来るべき解散に向けた地ならしを進めるのです。
58日間の臨時国会という限定された期間の中で、この議論は必然的に一定の結論に至らざるを得ません。その結論が何であれ、首相にとっては「解散の大義」へと変換されます。
政党助成金という隠れた層
さらに指摘すべき点があります。日本の政党助成金は、1月時点の議員数に基づいて年間の分配額が決定される仕組みになっているのです。
高市首相が年内に解散を打ち、1月に総選挙を実施するシナリオを想定してみましょう。高支持率を背景に自民党が議席を増やした場合、1月1日時点の新しい(より多い)議員数で、その年の政党助成金がより多く配分されることになります。この計算が首相の戦略に組み込まれていないはずはありません。
臨時国会の会期が10月21日から12月17日までの58日間という短期間に設定されたことも、偶然ではないでしょう。この期間内に、議員定数削減法案の提出、委員会審議、本会議での採決といった一連のプロセスが完結します。その結果が明確に現出するのが11月末から12月中旬です。
年内の解散は、十分な現実性を帯びています。
冷徹な権力戦略の現在地
その高支持率の中で進行しているのが、極めて冷徹な権力戦略です。成立しても潰されても解散に至り、年内の選挙で議席を増やし、政党助成金を増やす。その論理は完璧に一貫しています。
選挙制度は国会の構成を決める民主主義の土台。その基本的なルールが、特定の首相の権力戦略の駒として使われている構図を、われわれは直視しなければなりません。それが民主主義としてあるべき姿なのか。その問いは、年末までの政治劇の中で、否応なく答えを迫られることになるでしょう。
政治は結果で判断されます。高市首相の綿密な戦略計算の通りに展開するのか、それとも予想外の抵抗によって阻れるのか。その行方が、日本政治の今後を大きく左右することになるのです。
尾藤 克之(コラムニスト、著述家)
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