黒坂岳央です。
世間では、年収や資産額こそが人生の成功を測る絶対的な尺度として神格化されている。
特にインターネット上では、お金こそが人間としての優劣を決定づけるかのように言われがちだ。確かに若い頃はそうかもしれない。お金の多寡で選択肢、出会い、遊び、学業など、あらゆるものが手に入る事実がある。
だが人生の折り返し地点を迎える40代以降において、この「お金絶対主義」の限界がやってくると思うのだ。

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お金よりも人間関係
筆者は今でもビジネス出張で東京などに出向くと、一人で外食や宿泊をすることがある。
以前は久しぶりに一人になれたことに高揚し、高級な店や5つ星ホテルを選んでみたことがあった。だがつまらない。むしろ周囲がカップルや家族連れの中、自分だけが一人になることが苦痛で疎外感さえあるので積極的に行きたいとは思えなくなってしまった。
ホテルもだだっ広い部屋で一人できれいな景色を見ても逆に虚しくなってしまう。そのため、今では一人出張の時は安いビジネスホテルで十分で、食事も外食チェーンでさっさと済ませて仕事に集中するようにしている。
一方で、仕事が終わって家族や親族、子供といっしょに過ごす時は、躊躇なく思いっきり楽しむ。そして気付いた。一人で5つ星ホテルで豪華な食事をするより、子供たちとフードコートで笑い合う方が圧倒的に楽しいと。
筆者は昔からずっと一匹狼タイプであまり友達もいなかった。30代までは一人行動に強い耐性があった。だが40代からは一気に一人の寂しさが強まったように思える。
結局、場所やサービスがどれだけ豪華であるかではなく、「誰と過ごすか」が幸福を決定的にしてしまうと思うのだ。40代以降からはなおさらそうだろう。
お金に飽きる時
中年期に差し掛かると、誰しも長年働き続けてきた結果もあってお金には少々余裕が出てくる。人生の先立つものはお金、という事実は否定しない。
しかし、ある程度の経済的安定を手に入れた途端、幸福度の上昇が鈍化するという現象に直面する。これが経済学でいう「限界効用逓減の法則」であり、お金も例外ではない。
40代以降はお金があっても、食事は健康や体重が気になって好き放題に食べられない。週末のエンターテイメントや贅沢な旅行だけでは、既視感のある経験の繰り返しとなって飽きがくる。もはや、お金では新鮮な感動や心からの喜びを買うことができなくなるのである。
40代になるとあらゆる受け身の娯楽に飽きてしまうと実感する人は多いだろうが、それはすなわち「お金による消費の人生に飽きる」ということだ。
孤独の状態であれば、仮に100億円の資産を手にしていようとも、それはただの数字に過ぎず、幸福とはかけ離れたものとなる。お金にはパワーがあるが、本質的には価値交換券のようなもの。引き換えたい価値が見つけられなければあってもたくさんあるだけでは意味がなくなってしまうのだ。
人間関係に飽きることはない
一方で、中高年になってからその価値をますます高めるのが、お金では決して買えない「人間関係」である。
愛する家族、長年の友、仕事で切磋琢磨した仲間たちとの交流は、人生経験が豊かになればなるほど、深い意味を持つようになる。特に中年以降の人間は、これまでの人生で培った知恵や経験を、自分の子どもや若い世代に「育児」や「指導」という形で価値提供できる立場にある。
筆者もまた、子どもと他愛もなく遊ぶ時間や、兄弟、親戚と腹を割って話す時間が、高級体験から引き出せる満足感よりも遥かに大きいと実感している。また、仕事を通じて、取引先や顧客と困難を乗り越え、信頼関係を築くプロセスもまた、お金では買えない喜びがある。
人間関係の価値は、歳を重ねるごとに「複利」のように増幅していくという漠然とした感覚がある。特に家族は一緒に歴史を積み上げてきた特別な仲だ。そう「歴史の共有」こそが価値の本質である。
東京でセミナーをすると、自分が独立して駆け出しの頃から皆勤賞で参加してくださるお客さんがいる。「最初は小さな会議室で参加者2-3人で始まったセミナーも、今では一等地の大きなTKP会議室で大人数でやるようになったのですね」と言ってくれ、歴史の共有に心から湧き上がる嬉しさがある。これもお金では絶対に買えない価値の一つだ。
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40代は、ひたすら資産を増やすフェーズから、「資産を取り崩して体験や思い出に交換する」というフェーズに変わると思っている。よく「取り崩しは60代の定年退職後に」という意見があるが、個人的にそれでは遅すぎると思っている。
子供がいる人なら、もう成人してなかなか一緒に遊んでもらいづらいし、海外旅行へ行くにも体力が必要になる。仲の良い人も病気などで付き合いづらくなっていく。だから中年でバリバリ働いている時期から少し早めに人間関係を楽しみ、思い出作りに励むのが良いと思うのだ。
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