ニューヨーク市(NYC)で行われた市長選で、ムスリム系の若手社会主義者である議会議員、ゾーラン・マムダニ氏が歴史的な当選を果たした。ウォール街をはじめ富裕層・金融界が集中するこの国際金融都市において、法人税の引き上げや家賃凍結など大胆な経済政策を掲げるマムダニ氏の出現は、既得権益にとって衝撃となっている。
さらに注目すべきは、彼がこれまでの市長候補とは一線を画し、イスラエルの軍事行動に批判的姿勢を鮮明にし、場合によっては、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の逮捕示唆に至る発言をして「イスラエル・ロビー」を慌てさせていることだ。
ゾーラン・マンダニ氏X より
経済政策──法人税増税・家賃凍結で「富裕層にも貢献の輪を」
マムダニ氏は、NYCで深刻化する住居費高騰・賃貸料金の急上昇に対処するため、「家賃凍結(rent freeze)」を掲げ、市内の賃貸ユニット特に家賃規制対象(rent-stabilized)住宅の賃料引き上げを停止する方針を打ち出してきた。(RNS)
一方で、これらを財源として賄うために、法人税の引き上げや超富裕層への増税を通じて「ばらまき型(経済政策」を加速させようとしており、ウォール街や不動産オーナー、金融界の間では「NYCが国際金融都市という地位を犠牲にするのではないか」という危機感が高まっている。
このような政策転換は、従来の「大都市の成長は金融・不動産・富裕層歓迎」で成り立ってきたモデルに挑戦する動きであり、金融・不動産セクターのプレーヤーには警戒すべき転換点と見なされている。
外交/中東政策の異端──イスラエル批判とロビーへの警戒
マムダニ氏は、中東・パレスチナをめぐる問題において、従来の市長候補には見られなかった明確な立場を示してきた。報道によれば、彼は「イスラエルの軍事行動」を批判し、必要とあればネタニヤフ首相の逮捕も議論され得るという発言をしている。(The Washington Post)
この姿勢は、米国内の親イスラエル派議員や強力なロビー団体AIPAC(米国イスラエル公共問題委員会)から警戒を招いている。とりわけ、上院院内総務のチャック・シューマー氏をはじめ、民主党内の親ユダヤ系議員たちは、同じ民主党所属でありながらもマムダニ氏の推薦を見送った。
ウォール街・金融界の反応──「成長都市モデル」との衝突
ニューヨーク市が誇る国際金融都市としての地位。金融・不動産業者にとって重要なのは、資本の流入、グローバルな富裕層の集積、成長基盤としての信頼性であった。ところが、マムダニ氏の掲げる「高所得層・法人への増税」「家賃凍結による賃貸収入圧迫」「公共サービス拡張のための再分配型支出拡大」は、これまでのモデルに検討すべきインパクトを与えている。
結果、金融界では「税・規制コストが上がるなら他都市へ流出が起き得る」「不動産価格が抑え込まれれば、資産価値の上昇が見込みにくくなる」といった懸念が強まっており、ウォールストリートには“警戒ムード”が漂っている。
今後の展開とリスク
マムダニ氏の当選は、NYCというメガシティの政治的分岐点になり得る。もし就任後に掲げた政策を本格的に実施すれば、以下のような展開とリスクが想定される:
- 富裕層・法人の移転や投資抑制 → 市税収や不動産税収の低下。
- 家賃凍結による賃貸市場の供給縮小・品質低下 → 中長期的な都市の住宅インフラへの影響。
- 親イスラエル勢力との摩擦 → 市政府レベルでの外交・ロビー対抗関係の深化、政治資金流れ・連邦レベルでの民主党との支援関係の変調。
- 市の成長戦略見直し → 従来の「ニューヨーク=グローバル金融の中心地」というブランド維持に向けた取り組みの再構築。
一方で、マムダニ氏が掲げる「格差・生活コストとの戦い」は、多くの市民から広く支持を受けており、選挙のこの勝利が単なる象徴に終わるか、実務として成功を収めるかが注目される。