アメリカで中間選挙の前哨戦ともいわれた選挙が行われ、バージニア州とニュージャージー州の知事選で民主党が支援する候補者が勝利、またニューヨーク市長選挙では急進社会主義派とされるゾーラン マムダニ氏が当選したことが大きな話題になっています。マムダニ氏は過去100年以上で最年少で当選した市長であるほか、初のイスラム系の市長でもあり、驚きの連続でありました。
ゾーラン・マムダニ氏X より
もともと大都市は移民層が多いため民主党支持者が多いので民主党系候補者が勝利すること驚きはないのですが、急進社会主義派が圧勝したことは世の中の声がいかに割れているかを物語っていると思います。
昨日、アメリカの世論は民主党から共和党支持にシフトする長期トレンドの中にあると申し上げました。2025年もたぶんその傾向は続くと考えています。一方、民主党の牙城、カリフォルニア州は来年の選挙における区割り変更の住民投票が行われ、民主党に有利な結果になる見込みです。よって国の二分化は更に激化していくものと思われます。
今回の選挙を通じて露呈した問題の1つは民主党が穏健派と急進派に分かれてしまったことで一枚岩になれないリスクでしょう。たとえば民主党の重鎮でニューヨーク州選出のシューマー上院院内総務はマムダニ氏を最後まで支持しなかったとされます。
では急進社会主義とは何なのでしょうか?耳慣れないと思います。急進という政治用語は18世紀の終わりに英国で使われ始めたとされ、英語ではラディカリズム(radicalism)で、急進という意味と共に根本的という意味があり、「原理主義」と同義ともされます。ただ、原理主義が帰着点であるのに対して急進はそこに向かって強く進むという意味合いの方が強いかと思います。穏健派の対義用語なので例えばの話ですが、高市氏が思想的に急進派といっても語用的には使えるように感じますが、急進派は一般的に左派勢力がより革新させる場合に使われることが多く、保守派がより急進的に保守になるとは言わないので高市氏のような保守派には使わないようです。
ところで私の住むカナダのブリティッシュ コロンビア州は民主色が強く、弱者に対する保護、擁護、支援が充実しています。かつて保守派から民主派に政権が移った途端、有料道路が無料開放されました。それまであった大した額ではない健康保険料も無料になりました。無料になるので文句を言う人はいません。一方で巨額の資金を投じるような橋やトンネルを伴う大きなプロジェクトは消えました。
数日前あるカナダ人と話をしていて身内の離婚闘争の話を聞かされたのですが、裁判で親権やら養育費やらを勝ち取ったというのです。私が疑問に思ったのは仕事もほとんどしていない女性側がどうやって裁判費用をねん出したのかと思い、聞けば「この州は低所得者には弁護士がタダでつくのだよ」と。ただ「ただし…」があって「弁護士の程度は低いけどね」と。
高齢者の介護や施設も同様。「安いところ=政府系=サービスのレベルは推して知るべし」の図式が成り立ちます。「しょうがないよね」で諦めるか、私どものような民間施設に入るか、です。少なくとも私どもの施設に入った方でお金で文句を言う人はいません。政府系より高いですが、サービスはまるで違います。
ではお前はそんな左派的な場所で仕事をし、住み続けるのは居心地が良いのか、と聞かれれば正直、一長一短です。短所を述べればカナダは税金の塊で鬼のような国だと思います。法人税も個人所得税も消費税もぜーんぶ高いです。私どもは駐車場の運営もしていますが、駐車料金に内包される税金(内税)は30.45%です。知らない人が多いと思いますが、私どもが提示している駐車料金は神様のように優しいレートでも税金が上乗せされると客からは「高い!」と文句を言われるのです。
急進社会主義となればどうなるか、このブリティッシュコロンビア州のような状況を想像していただくとなんとなくお分かりいただけると思います。アメリカ人のように巨万の富を作りたいと思う人から見ればこの国のようにあらゆるところからお金を吸い上げ、再分配という名のバラマキをすることを受け入れるのはたまらなく嫌でしょう。
アメリカの富裕層は稼いだ金を莫大な寄付という形で社会貢献することを時として美談扱いします。しかし、結局それは富裕者同士のコミュニティにおけるプライドとパワーゲームなのだと思っています。つまり自分の資力、財力を試す「プロレスごっこ」のようなものです。
ところがニューヨークのようにとてつもない金持ちと明日の飯にも困る人がその何百倍もいるところで選挙をすれば双方とも同じ1票なので、1票の格差が当然出てしまうのです。金持ちだから選挙権が10倍ある訳じゃないのです。ここは民主的とも言えます。一方、トランプ氏を支持する人たちは比較的教育レベルの低い層が圧倒的な支持をしているとされます。いわゆる高卒以下でまじめに普通の暮らしをしている人たちでしょう。何が違うのでしょうか?私は民族=エスニック的差異意識ではないかと思います。その点ではマムダニ氏もトランプ氏も支持母集団の収入層では同じような基盤だけど民族的意識が大いに違うという気がいたします。
注目点は本日からいよいよ公判がスタートしたトランプ関税裁判の行方と共に来年の中間選挙に向けて民主党がどれだけ一体感を示せるかどうかにかかってくるのでしょうね。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月6日の記事より転載させていただきました。