フリーランスを目指す前に知っておくべき「厳しい現実」

黒坂岳央です。

ここ数年、フリーランスは「自由と成功の象徴」のように言われてきた。

SNS上では「利益総取りで収入増!」「上司や同僚など煩わしい人間関係がなくて自由!」といった、耳障りの良い言葉ばかりが踊っている。

しかし、その甘い幻想だけを見て飛び込んだ人々を待ち受けているのは、厳しい現実だ。

年収の不安定さは誰もが知るところとなったので、それ以外の要素で「フリーランスが直面する構造的な問題」を取り上げたい。

※ 本稿はフリーランスにダメ出しする意図はない。筆者自身、法人の役員だが実質的にはフリーランスのような働き方に近い。本稿は自己体験を持って冷静な現実をシェアしたい意思を持って書かれた。

luza studios/iStock

究極の「孤独」

会社員時代、多くの人は同僚や上司との関係を煩わしいと感じ、「無駄な時間」と切り捨てがちではないだろうか。最近は特に「迷惑だから就業時間外に関わってこないで」というのが大衆思考となりつつある。

だが、人間関係が希薄なフリーランスになった後は「一見、無駄に思えた時間」にこそ、精神的価値があったことに気づかされる人も少なくない。筆者もその一人だ。

会社でのちょっとした雑談、会議後の談笑、飲み会の場での愚痴は、仕事のストレスを分散させ、意識を仕事から切り離す気晴らしとなっていた。独立準備で忙しくしていたものの、同僚と飲み会にいき、怖い上司のモノマネをして笑わせたのは今ではかけがえのない思い出に感じられる。

フリーランスになると、すべてが自分の時間となる。だが、仕事がうまくいかない時のストレスは、正面からすべて自分一人で受け止めることになる。

仕事が順調な時は程よく忙しく、孤独を感じる暇はない。しかし、一度逆回転が始まり、クライアントからの失注が続き、何もしない時間が続くと、究極の孤独に襲われる。誰にも相談できず、全てが自己責任だ。

売れない、つながりがない、未来への希望がない、これは世にあるあらゆる精神的な苦痛で最上級に近いといっていい。

筆者自身、記事や動画で世間の反応を得ることでつながり欲を消化していると客観視しているが、仮にそれらが一気にすべてなくなったとすると、どうなるかは想像できない。だからFIREはせず、社会とつながりたいので仕事はずっと続けたいのだ。

社会的な信用の「壁」

どれだけ資産を増やし、年収が高くとも、フリーランスは社会的な信用という点で会社員に劣るのが現実だ。「フリーランスをばかにするな!」とお叱りを受けそうだが、これは個人の感想ではなく現実として壁となって立ちはだかる。最も顕著なのが、住宅ローンの審査や結婚活動ではないだろうか。

特に日本の住宅ローン審査では、一般に過去3年分の確定申告における所得の安定性が重視される。このため、収入変動の大きいフリーランスは、会社員に比べて不利な条件を提示される、あるいは融資自体を断られるケースが多い。

昨今の低金利下では、フルローンで良い物件を購入できれば「住めば儲かる家」となり、事実上の不動産投資となるケースもある。しかし、フリーランスは収入が不安定と見なされ、この投資機会を得るための信用力が圧倒的に低いのが現実だ。

筆者はフルローンが通ったが、それは個人事業主としてではなく、「法人の役員」という属性で審査に臨んだからで、個人事業主としての信用力ではおそらく結果は変わっていただろうと思う。

また、フリーランスという肩書きは婚活や親族への紹介の場で、「不安定な人」という世間的な先入観を与えかねない。たとえば、「職業はユーチューバー」「ティックトッカー」と聞いて、初対面で非常に好印象を持つ人はそれほど多くはないだろう。

特に結婚相手となると相当著名出ない限り難しいだろう。資本主義社会において、一定水準を超えるとPL(損益計算書)よりもBS(バランスシート)の方が重要となるが、一般的な信用力という点では、特に男性はPL(年収)しか見てもらえないのが現実だ。会社員という「安定」の肩書きと並ぶには平均値の数倍くらい稼いで「ようやくイーブン」となる可能性もある。

時間が早く過ぎる

会社員は、出世、転勤、部署異動、出張など、何かと「強制イベント」が発生する事が多い。半ば強制的に環境を変えさせられる。

これらは煩わしい反面、人生の区切りや成長の機会となり、記憶に残るフックとなりえる。筆者自身、勤務先で大変革が起きて、ゾロゾロと外国人がオフィスに乗り込んで社内公用語が英語であるように変化した時は毎日、大変でそれゆえに大変革の空気感は今でも覚えている。

だが、フリーランスはその気になれば、ずっと同じ仕事、同じ場所、同じライフスタイルを続けることができる。強く意識してコンフォートゾーンを抜け出す環境を自ら作らなければ、記憶に残るような大きな変化がなく、オートモードで日々の仕事をこなすようになりがちだ。特に家族がいなければ、在宅のクライアントワーカーは変わり映えしない日常、となり得る。

その結果、スキルアップが停滞するだけでなく、「気がついたらあっという間に中高年に突入しており、お金は溜まったが何の記憶にも残らない」という、人生そのものが消費される恐ろしい状況に陥りかねない。

この点で言えば、「変わり映えしない仕事をしている会社員」でも似たような状況かもしれないが、会社員はフリーランスより外圧が強いし、転職すれば変化に次ぐ変化を味わせる会社に移ることも出来る。だが、フリーランスはスキルが大幅に向上しない限り、新天地に行くことは難しいのが現実だ。

フリーランスは、常に能動的に仕事を取り、専門性を磨き続け、クライアントと対等に交渉し、かつ自己管理ができる、ごく一握りの人間だけが享受できる「自由と裁量の楽園」である。

自由は素晴らしいが、それは自らリスクを引き受け、孤独と全責任を背負う「覚悟」のある者だけが享受できる贅沢なのだ。

 

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。