マクドナルド化するスターバックス:リスクマネーは本当にリスクか?

私は小規模事業者として生き残り戦争の中で戦っています。世の中は残酷なぐらい早いスピードで変わるので3年前に手ごたえがあったビジネスを同じ形で再現しても成功しない時代になっています。

10数年前、このブログでマクドナルドとスターバックスの話を書いたことがあります。マクドナルドに行くことは妥協でありながらも一番安心できる選択肢という認識でした。カナダの東部には保守的な人が多く、夕食を外食するといえばマクドナルドに行くのは珍しくありません。それは、味は期待を裏切らず安定しており、価格もわかっているからでしょう。そこには何のサプライズもないのです。故に計算通りの満足が得られるとも言えます。保守的な人は自分のわかる範囲から飛び出すことを嫌がるとも言えます。

10数年前、スターバックスはまだ伸び盛りでした。新しいスタイルの店を出店し、新たな飲み物の開発に努め、心地よい空間づくりを提供してきたと思います。一方で極めて積極的な出店攻勢でスーパーマーケットの中にもスタバは普通に存在しています。ホテルのコーヒーでもスタバを提供していました。浸透したブランドネームの強さとも言えました。

lightkey/iStock

当時、私はスターバックスがマクドナルドのようになる日が来るだろう、と述べています。その日はゆっくりとながらも着実にやってきました。スタバの出店を支援する不動産屋は「にぎやかな通りの角地以外は出店しない」「スタバが出店したからには大家にもメリットがあるのだから応分の負担をしてもらう」と強気一辺倒でした。私も自社の商業スペースを巡り、スタバの出店担当者とやり取りをしたことがありますが、それは交渉という話ではなく、上から目線で「スタバがあなたのところに入居すると言っているだから無条件で提示条件を受け入れよ」と言わんばかりでした。

ではスーパーマーケットの野菜売り場でキャベツやニンジンを手に取る客を見ながらスーパーの中にあるスタバでカプチーノを飲むことにおしゃれを感じるでしょうか?スタバのポリシーである心地よい空間が提供できているでしょうか?スタバは図体がデカいのでトレンド変化や大きくなった企業が時代の変化にうまく適応できなくなっています。そう、恐竜時代が長く続かなかったように、です。

植物由来の肉が一時大流行したのを覚えていますか?今から6-7年前だったと思います。その先駆者であったビヨンド ザ ミートという会社はその世界の先駆者としてハンバーガーショップからレストラン、そしてスーパーマーケットにまで商品を卸し、社会はヘルシームードで盛り上がりました。「あなたはまだ牛の肉を食べているの?イケてないわね。健康にも地球環境にも植物由来の食品を摂取するのがトレンドよ!」と。2019年の同社の株価は200㌦を超えていました。10月13日、会社は大規模な債務再編を発表し、株価は1日にして前日比で半分となり、今日の株価は1㌦34セントです。

「リスクマネーは本当にリスクか」、上記のストーリーではリスクであると言わんばかりのトーンであります。しかし、これらは悪い例であり、革命的に変化した分野もあります。テクノロジーの分野はその典型であります。誰かがリスクマネーを投じるからこそ、夢が生まれ、様々な芽が育つのです。

私はシニアケアの分野でもう少し投資をしても面白いと考えています。理由はケア施設が不足しているし、既存のサービスでは多くの人が満足していない事実を知っているからです。私どもが作ったビジネスモデルである小規模な施設を効率よく運営することはカナダに今までになく、テクニックを要します。どうしたら安く建物を作れるか、どうしたらうまく運営できるか、どうしたら人材を過不足なく供給できるか、どうしたら入居者を満足させられるか、どうしたら投資が成功したという結果を出せるか、この難解な問いに私は答えられる自信があるからです。

前回作ったグループホームには6億円ほど投下しました。誰もやったことがないビジネスモデルなので銀行はお金を貸しません。だから自社で全部資金を投じています。リスクマネーです。ですが、今のところ想定を上回るペースで資金回収ができています。もし2つ目をやるなら4.5億円ぐらい投下すればできる自信もあります。もっと使いやすい施設ともっと効率的な運営もできます。誰もできないビジネスモデルを構築し、それを推進することでブルーオーシャン化させることもできます。これがビジネスの最大の醍醐味とも言えます。

そういうならお前は東京のシェアハウス事業をなぜもっと増やさないのか、と思われるでしょう。結論から言うとシェアハウスは安い居住スペースの提供というニュアンスが強くなってしまい、建物や設備の価値に対する期待リターンが下がってしまったのです。故に私は外国人向けサービスアパートメントにシフトしたのです。

外国人とのビジネスはポイントを掴むと非常に簡単なのです。それは論理的説明ができて、サービスを提供した時のメリットを確実に感じさせ、コミュニケーションラインを築き上げること、それだけです。彼らはそれができれば相応の金額を喜んで払います。ところが日本人のお客さんはいまだに価格第一主義で付加価値に対する支払いをなかなかしてもらえないのです。だから日本での投資はある程度はしてきましたが、今はカナダの方がはるかにやりやすいし、成長率が何倍も違うのです。

投資をする立場にある私としては何処にリスクがあるのか、逆に言えばどこにメリットがあるのかを考え、そこにお金を投じても果実(=利益)が論理的に推測できる範囲で得られ、失敗した時のボトムラインがどこにあるか、それを突き詰めるのです。そうするとリスクマネーはリスクではなくなります。

多くの企業は規模の追求をします。しかし、世の中の色はそれこそ、数か月で変わっていくのです。その変化対応にどれだけフレキシビリティを持たせられるか、この工夫こそが真の意味のリスクヘッジであるとも言えないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月11日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。