バチカンで「ロミオとジュリエット」と称されるラブストーリーが波紋を呼んだことがある。バチカン銀行(IOR)で働く若いカップルが結婚し,それを知ったバチカン銀行が「内部規則」を理由に2人を解雇したのが物語の発端だ。メディアでは「バチカン版ロミオとジュリエット」と呼ばれ、世界的なセンセーショナルを巻き起こした。幸い、イタリアの日刊紙「イル・メッサジェロ」が今月8日報じたところによると、関係者の間で和解が成立したという。

バチカン版「ロミオとジュリエット」と報じるドイツの「カトリック通信」2024年9月5日
バチカン版「ロミオとジュリエット」と報じるドイツの「カトリック通信」2024年9月5日
バチカン銀行(「宗教事業協会」、「神の銀行」)に勤務していた若い2人は昨年9月結婚した。バチカン銀行は、表向きは「銀行活動の透明性と公平性」を確保するため、職員同士の結婚を禁じる規則を制定している。また、配偶者、親族、義理の親族の雇用が一般的に禁止されている。
新婚夫婦は、どちらかが辞職するか、2人とも銀行から解雇されるかの選択を迫られた。2人は「婚約を昨年2月に発表した」と主張し、銀行側の要求を拒否した。職員間の結婚を禁じる規則は同年5月に制定されたばかりだった。バチカン銀行は2024年10月1日付で2人の雇用を解除した。
2人の新婚カップルに助っ人がきた。バチカン一般職員協会(ADLV)は昨年9月5日、「バチカンにおける規則が秘跡よりも優先されないように願う」と指摘、結婚した故に解雇されたIORの2人の職員に連帯表明している。
バチカン銀行の内部規則では、職員同士の結婚は禁じられている。この規則は、利益相反や縁故主義を防ぐためのものだ。ADLVによれば、この件に関して最近バチカン銀行および教皇庁と協議が行われたが、不成功に終わったという。
法的紛争は、両者側の和解で終結した。和解内容は、バチカン銀行のコンプライアンス規則を理由で解雇された2人の職員は今後も再びバチカンで働くことができる。ただし、裁判所で成立した合意では、夫婦のどちらかがバチカン銀行以外の機関に雇用されることが規定されているというのだ。ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」(初演1595年前後)では、主人公の2人は最後は亡くなるが、バチカン版の「ロメオとジュリエット」は一応、ハッピーエンドで幕を閉じた。
ところで、神の愛を世界に向かって訴えているバチカンだが、ここにきて勤務する職員の中には待遇に不満を表明するケースが増えてきている。イタリアの日刊紙「コリエーレ・デラ・セラ」によると、バチカン美術館の従業員49人が昨年5月、バチカン市国政府に対して労働条件と賃金をめぐって集団訴訟を起こした。バチカン美術館は約700人の職員を雇用しており、その多くは美術館の警備員だ。ほぼ全員がイタリア国籍。美術館は年間約1億ユーロの収入を生み出しており、バチカン市国にとって最も重要な収入源となっている。
ちなみに、レオ14世は5月、教皇庁職員全員に500ユーロのボーナス、退職者には300ユーロを支給することを承認した。前教皇が緊縮政策をアピールするために廃止した伝統的な”コンクラーベ・ボーナス”を復活させたわけだ。前教皇フランシスコが昨年11月、教皇庁の年金基金の改革計画を発表。それに対し、ADLVには不満が高まっていた。コンクラーベ・ボーナスの復活は緊縮予算下で苦しむバチカン職員への配慮と受け取られた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年11月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






