イラン、干ばつで深刻な水不足

イランと言えば、多くの日本人は核問題を考えるが、イスラム聖職者支配国家イランの現在の最大の問題は水不足だ。イランの首都テヘランに水を供給する5つの主要貯水池の1つであるアミール・カビール・ダムの水位が歴史的な最低水準まで下がり、イラン北西部の同国最大の湖ウルミエ湖は干ばつにより大部分が干上がり広大な塩の砂漠と化しており、周辺地域の農業にも深刻な影響を与えている。ペシェシュキアン大統領は、年末までに雨が降らなければ首都テヘランから避難を命じると宣言するほどだ。

「攻撃を受ける国際法:侵略と防衛」と題する会議がテヘランの政治国際問題研究所(IPIS)で開催され、アラグチ外相は「未申告の核濃縮施設は存在しない」と表明、IRNA通信から,2025年11月16日

地元当局によると、首都テヘランは過去100年間で最も少ない降水量を記録した。ペルシャ湾に面した広大な国土を持つイランは、世界で最も乾燥した国の一つ。国土の80%以上がステップ気候または砂漠気候で、夏には気温が50度を超えることも珍しくない。それゆえに、いつの時代でも水はイランにとってたいへん貴重だった。

ところで、今年の水不足は深刻だ。国営気象局によると、今年の降水量は長期平均の89%を下回っている。イランの州の半数では、数か月間雨が一滴も降っていない。首都をはじめ50以上の都市で、断水が繰り返され、停電も発生。イランは水とエネルギーの危機に直面、多くの工場や企業が一時的または恒久的な閉鎖を余儀なくされている。

もちろん、イラン当局は歴史的な水不足の前に無策ではない。16日のAFP通信の報道によると、クラウド・シーディングを用いて、人工的に雨を降らせようと試みている。クラウド・シーディングとは、ヨウ化銀やドライアイスなどの粒子を航空機などから雲に散布し、人工的に雨や雪を降らせる技術で,「雲の種まき」とも訳され、干ばつ対策、水不足解消、山火事の消火などを目的としている。この手法は、米国、中国、インドなど数十カ国で既に利用されている。昨年、イランは独自の「クラウド・シーディング」手法を開発したと発表したが、雨が降り出したといった成果は聞いていない。

それだけではない。イスラム教国家のイランでは祈りによる雨乞いが行われている。宗教指導者たちは国家大惨事を前に信者らに雨乞いの祈りを呼びかけている。ファルス通信によると、イランの信者たちは、伝統的な金曜礼拝後、水危機への神の助けを祈っているというのだ。

ただ、「雨乞いの祈り」については、ソーシャルメディア上で批判や冷笑を巻き起こしている。「政府は科学的知見に頼るのではなく、雨乞いの祈りによって水危機を克服しようとしている。政府は自身の無力さを露呈した」といった批判だ。国営メディアは「今や国家的大惨事」と表現している。環境専門家はさらに踏み込み、「終末」という言葉を用いている、といった具合だ(ドイツ通信DPA)。

イランは過去、パレスチナ自治区のイスラム過激派テロ組織「ハマス」、レバノンの民間武装組織ヒズボラ、イエメンの反体制派武装組織フーシ派に軍事支援してきた。同時に、シリアのアサド政権に対してもロシアと共に軍事支援してきた。その一方、イスラエル軍の空爆で大ダメージを受けた核関連施設など、核兵器開発のために巨額の資金投入を繰り返してきた。その結果、欧米諸国から経済制裁を受け、イランの国民経済は困窮下にある。すなわち、イスラム政権は国民の基本的なニーズを無視し、国庫収入を地域紛争に流用してきた。

イランは目下、歴史的な干ばつに直面、水危機、飲料水不足が深刻化してきた。西側のイラン問題専門家は「イラン聖職者支配組織は今、核開発を継続するか、給水システムなど国民生活に密着した産業インフラへ投資するか、選択を迫られている」と指摘している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。