40代までにしないとヤバい人生経験

黒坂岳央です。

若い頃は多少出来なくても問題ないが、一定の年齢に達して出来ないと非常にまずい。それが「人生経験」である。

昨今はお金を増やすことばかりが神格化され、人生経験の重要性が過小評価されているように感じる。現代人の大衆思考は「コスパ・タイパ」であり、そのトレードオフとして年齢相応の経験をスキップされる場面が少なくない。

だがそのカットされた人生経験のダメージが隠しきれなくなるのが40代以降の中年からである。持論を展開したい。

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挨拶

挨拶は古今東西、疑いもなく行われてきた。「挨拶なんてコスパ悪くない?しなくていい自由もあっていいはずでは?」という意見も一部あるかもしれないが、それで議論が起きるのは若者限定である。誰しも社会人経験を積み、ある程度の年齢を重ねると「挨拶をする、しないは選択肢ではなく社会人としてのルール」ということを理解する。

ところが人生経験が浅いと「挨拶はされたら返すもの」「面倒なのでしない」といった感覚のまま中年になるケースがある。正直、こうなると「自分は地雷」という自己紹介をすることになり、周囲の印象はかなり厳しくなる。

自分自身が中年男性なので肌感覚からもわかるが、この年代の男性は「何もしなくても薄っすら警戒される存在」である。彼らは特段、悪いことなんてしない。だが、公園でじっとたたずんでいれば周囲は自然に警戒するし、自分も子供を遊ばせていてそうした男性がいたら悪意はないが目を離せなくなるというのが本音だ。

自分自身、若い頃はよく道を聞かれるタイプだったが、今はもう一人で行動して誰かに声をかけられることはまずない。ところが、子連れで買い物をすると「子供かわいいねえ」とお年寄りに声をかけられることがある。正直、一人行動のときと、子連れとではまったく違った印象を持たれている肌感覚がある。

そのため、中年以降で挨拶せず、ムスッと黙ったままでは「何をするかわからない危険人物」という認識をされてしまう。これは本人の内面を知らないのにレッテル貼りをする周囲が神経過敏と言われるかもしれない。だが、社会人としての不文律を理解していない人生経験のなさが、警戒すべき人物という直感を与えてしまうのだ。周囲の印象は自分がコントロール出来ないので、自分が変わるしかない。

少しでも警戒心を解くためには笑顔で元気いっぱいに挨拶する、そうしなければ周囲からの印象が悪くなっても仕方がない。中年になる前に挨拶は当然、自然にできるように経験値を積んでおくのが良いだろう。

ビジネスコミュニケーション

長い間色んな人と色んな仕事をしていると、ビジネスコミュニケーションの感覚がどんどん鋭敏になっていく。そうすると省エネかつ丁寧なやり取りをお互いすることで、合理的なビジネスコミュニケーションを目指すようになっていく。

ところが人生経験が浅いと、このビジネスコミュニケーションで「浅さ」が露呈してしまう。長々と書いているが結論がわからないとか、相手の時間や背景を考えずに事実と感想が混ざっているといったものだ。

本来、仕事の能力は成果物で判断されるべきであるが、ほとんどのケースにおいては成果物を入念に精査し、分析し、水平比較を行い、そして評価するといった気長なプロセスを経ることはない。

大抵の場合、コミュ力で仕事の能力を判断されてしまう。伝え方が下手だと、相手にコミュニケーションで心労をかけてしまい、本来の内面評価に至らないのだ。

コミュニケーションが下手なまま中年を迎えると、誰も改善のための指摘をしなくなる。そうなると自分のコミュニケーションに問題があって仕事で評価されない、ということすら気づけない。これは大きな問題だ。

それゆえにどんな仕事、相手にも問題ないビジネスコミュニケーション力は絶対的に磨いておくべきなのだ。

リスクテイク

人生、生きていると何が起きるかは誰にもわからない。思わぬ「まさか」が訪れた時、上手に立ち回るにはリスクテイクの経験値を高めておくことが重要である。

リスクテイクを言い換えると「挑戦」だ。人によってはキャリア(転職、独立)や金銭的な投資を意味するが、それ以上に重要なのは、安定を捨てて精神的な負担や軋轢を生むことを厭わない姿勢を意味する。

40代の中年までリスクテイク経験がなければ、いざという時にうまく立ち回れないだけではない。長年積み上げ続けたコンフォートゾーンに固執して、ゆでガエルになってしまうのだ。これは何でもそうで、人生を大きく変える転機が訪れた時、若い内にリスクテイク経験がなければ保守的に、過去にしがみつく選択肢を選びがちだ。

たとえば、新卒から入社した会社に入ってひたすら右肩下がりの業界に20年いると、次の20年もそのまましがみつくことを選んでしまうだろう。そうなると、会社の運命と一蓮托生となり、人生を会社の業績に任せることになる。これはとても脆弱な立場である。

そうならないために、若い内にそこから飛び出て右肩上がりの業界で働いたり独立を目指すのだ。特に会社員は必要に応じて転職することで、労働市場というセーフティーネットがあることがメリットだろう。

また、キャリアだけでなく、「自分の意見を述べて嫌われるリスク」や、「新しい価値観に触れて自分の常識が破壊されるリスク」を取る経験も重要だ。転職は40代でいきなりするのは勇気がいるので、ゆでガエルリスクが大きい。キャリア戦略を考える上でも若いうちから必要なスキルを得られる業界を渡り歩くバイタリティとフットワークがある方が強いのだ。

正直、お金なんて働けば何歳でも作れる。ほしければ働けばいいのだ。だが、年相応の人生経験はお金では買えないし、「出来て当然だが、出来なければ大きなマイナス」という極めて重要度の高いパラメータである。

そして40代ともなれば、「この人も人生色々あって経験を積むチャンスがなかったかもしれない」という温情理解を受けることは基本的にない。ただただマイナス評価を食らうだけなのだ。だから40代になってしまう前が勝負なのだ。

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。