「チェコ」と「スロバキア」で同日抗議デモ

チェコで10月実施された下院選挙の結果を受け、アンドレイ・バビシュ前首相率いる右派ポピュリスト政党「ANO」、実業家トミオ・オカムラ氏が率いる右派ポピュリスト政党「自由と直接民主主義」(SPD)、そして、新党の右派「モトリスト」による3党連立政権が年内に発足する予定だが、首都プラハで17日、バビシュ氏を首相とした新政権の誕生に反対し、「チェコ共和国は売り物ではない」というスローガンを掲げ、数千人がデモを行った。参加者たちは欧州連合(EU)懐疑派政権の発足に対し、「法の支配が失われ、権力の乱用が生じる」と懸念している。

チェコのパヴェル大統領、天皇陛下と会見、2025年7月25日、チェコ大統領府公式サイトから

チェコのペトル・パヴェル大統領は17日、EUに批判的な億万長者であるバビシュ氏を首相に任命する義務を負わないと警告した。首相の任命権を有する大統領は、71歳のバビシュ氏が実業家であり補助金の受給者である一方、政治家でもあることから利益相反が生じていると指摘し、「もしバビシュ氏が利益相反を解決できないのであれば、私はバビシュ氏を首相に任命することを拒否する」と説明し、「バビシュ氏は首相に別の候補者を指名する方が賢明だ」と述べている。

バビシュ氏は自身の企業を売却するつもりはない。2007年から施行されている利益相反防止法に基づき、バビシュ氏は2017年から2021年までの首相在任中、自身の企業を信託基金に委託したが、その後解散している。パヴェル大統領とバビシュ氏の話し合いが難航も予想される。

報道によると、アンドレイ・バビシュ前首相率いる新政権は、16人の閣僚で構成される。ANOは首相とその他8つのポストに就く見込みだ。モトリス党は4つの閣僚ポスト、SPDは3つの閣僚ポストに就く予定だ。下院は5日、日系SPD党首のトミオ・オカムラ氏を国会議長に選出している。なお、ANOは10月初旬の議会選挙で圧倒的な差で勝利した。モトリス党とSPDを合わせると、議会200議席のうち108議席を占める。

一方、1989年11月に共産主義政権に対する「ビロード革命」が起こってから36年目を迎えた17日、スロバキアでは数万人が左派民族主義者ロベルト・フィツォ首相率いる政府に抗議するデモを行った。

当方とのインタビューに応じるスロバキア初代首相ウラジミール・メチアル氏(1993年3月13日、ブラチスラバの首相官邸で撮影)

主催者によると、雨天にもかかわらず、首都ブラチスラバの政府庁舎向かいの自由広場で最大5万人が参加した。人々は共産主義独裁政権の崩壊を記念する一方、フィツォ首相率いる三党連立政権の終焉を要求し、「もうフィツォにはうんざりだ」と声を揃えて叫んだ。

スロバキアでは、学生たちによる抗議活動がメディアの注目を集めている。フィツォ氏がスロバキア北部の町ポプラドにある高校を訪問する予定だった際、ある生徒が入り口前の地面にチョークで厳しい批判を書き込んだ。それが発端となり、インターネット上はチョークで書かれた反政府スローガンの画像で溢れかえっている。

フィツォ政権は隣国ハンガリーのオルバン首相に倣い、対ウクライナ政策では武器支援拒否、親ロシア政策を推進する一方、公共放送RTVSの解散など司法・メディアの改革に乗り出してきた。EUのブリュッセルからは「スロバキアが第2のハンガリーとなる」といった懸念の声すら聞かれる。

ちなみに、フィツォ首相は昨年5月15日、同国中部ハンドロバで政治集会を終えて退出し、会場前に集まった市民と交流しようとした時、男性から5発の銃弾を受け、一発は腹部に命中し、重体となって近くの病院にヘリコプターで搬送され、緊急手術を受けるという暗殺未遂事件に遭遇した。スロバキアの政情はここにきて不安定さを増している。

いずれにしても、チェコとスロバキアで同日、偶然にも抗議デモが行われたわけだ。チェコの場合、EU懐疑派政権の誕生を恐れ、スロバキアの場合、フィツオ政権の反EU路線、ロシア接近などの外交路線に、それぞれ抗議したわけだ。

チェコとスロバキアは共産党政権時代、「チェコスロバキア連邦」を構成していた同胞だった。それが民主改革(1989年)後、分裂し、1993年1月から独立国家となった。両国ともEUと北大西洋条約機構(NATO)に加盟している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年11月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。