黒坂岳央です。
日経に「会計士の仕事がAIに奪われる不安が広がる」という記事が掲載されている。

公認会計士専門の転職支援事業ピー・シー・ピー(PCP)よる2025年の調査で、「AIに仕事を奪われる可能性がある」と回答した会計士の比率が43%に達し、特に若手層に強い危機感が広がっているというニュースだ。
かねてより生成AIの台頭で「士業が危ない」という意見もあったが、かなり早い段階で不安が広がっている格好だ。本当に公認会計士の職は消えるのか?
筆者は留学先で米国会計を専攻し、外資系企業複数社で連結決算、日米会計基準コンバージョン、IFRS対応、米国本社へのレポーティングを担当してきた。自分は公認会計士ではないが、公認会計士との会計監査対応もずっとやっていたのでその立場からこの問題を考察したい。

Atlas Studio/iStock
奪われるのは「職ではなく作業」
この危機感を考える上では、「公認会計士の仕事」をひとつの塊として捉えるのではなく、AI代替可能性に応じて業務を分解し、ロジカルに検証する必要がある。会計士の業務は、AI代替可能性に応じて大きく三つのカテゴリに分類できるだろう。
1つ目は作業領域だ。たとえば、データの突合、証憑(しょうひょう)のサンプリング、残高確認書の作成と回収管理、基本的な財務比率の計算、異常値の予備的検出などである。これらはAIによる代替可能性は比較的高いと言える。会計士に先駆けて税務署ではAIを活用した税務調査や分析が行われており、人間の手を介さずにデータ上のミスや乖離を検出できるようになるだろう。
2つ目は検証プロセスだ。具体的には標準的な監査調書のドラフト作成、リスク評価の枠組み設定、内部統制テストの実行と文書化などである。
これらは一部において、AIによるサポートが入ると思っている。生成AIが調書のドラフトを作成し、異常値をフラグ立てするまでを代替するが、その解釈や、クライアントとのコミュニケーションを通じた検証・品質確認は人間の公認会計士が担うというイメージだろう。
民間企業においても、資料のドラフト段階までならすでに生成AIを入れているところは少なくない。似たようなことが会計士の現場でも起きるのではないだろうか。
そして最後が「判断」を求められる領域だ。プロフェッショナル・ジャッジメント(専門的懐疑心)、Going Concernの判断、粉飾の意図や企業の倫理観を伴う戦略的判断、複雑な新規取引の会計処理決定、経営層との深いヒアリングと対話である。
この領域こそ、公認会計士という「仕事」の本質的な価値が残るだろう。特に、企業の財務諸表に対する「監査意見への署名」は、法制度上、人間の公認会計士にのみ許された行為であり、AIが出した結果に最終的な法的責任を負うことはできない。この「法的責任」と「職業倫理的責任」が、会計士という職の最大の参入障壁と考える。
「生成AIが仕事を奪う!」と叫ばれるようになってからも、経営判断や意思決定は人間のフロンティアという意見は根強く残っていた。
今後のAIの進展がどこまで進むかはわからないが、作業はAIに代替させ、判断は人間がする、という棲み分けは少なくとも当面は続くと考えられる。
経理財務の仕事も「ゼロ」にはならない
「専門職である会計士の職もAIが入っているのだから、経理財務などの会計職はあっという間にAIに代替されるのでは?」と考える人もいるかもしれない。だが、複数の現場を担当してきた立場で考えるとこちらもただちに「ゼロ」にはならないと考える。
筆者が担当していた米国会計基準(US GAAP)やIFRS対応の実務では、基準が明確に定めていない複雑な取引や、日米本社間のレポーティングにおける基準の「解釈」や「調整」が頻繁に発生する。
また、経理財務の仕事はそれだけではない、米国本社から送り込まれた担当者が「なぜこんなにも営業車が多いのか?削減して利益を増やせないか?」と言われた時や、「なぜ5月だけこんなに売上が落ち込んだのか?」といった質問が頻繁に入った。その際、日本の祝日や天候、その他、営業慣行など様々な要素を丁寧に説明したものである。これらをすべてAIが回答する場面は今すぐは想像できない。
これは、単なるルール適用ではなく、文脈理解、リスク判断、そして監査法人との人間的な交渉力が求められる領域である。AIは既存の基準を適用できても、曖昧な状況における「解釈」の正当性や、クライアントとの合意形成のプロセスを主導することはできない。
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もちろん、先のことは誰にもわからないし、一部の業務は間違いなく代替されると思っている。いや、すでにクラウド会計やフィンテックで単純作業は現在進行系で置き換えれていると言える。だが、職業そのものが蒸発することはすぐには考えづらい。それは他の業界でも似たようなことが言えるのではないだろうか。
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