「穏やかな老後」が証明した、残酷な真実

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今回紹介する本の著者は福祉を30年以上やってきた人だ。で、こう断言してる。「穏やかな老後を夢見る人ほど、介護が早く来る」。最初は、「言い過ぎだろ」と思った。

介護されない未来を自分の手で作る」(上野利惠子 著)青志社

穏やかな老後は簡単に来ない

つい先週、80代の男性が来た。

「先生、最近足が痛くて外に出られないんです」

カルテを見る。半年前の記録に「最近あまり外に出てない」とある。つまり、足が痛いのは「結果」だ。「原因」は外に出なくなったこと。順番が逆なんだよ。

でもこれ指摘すると、「足が痛いから出られないって言ってるでしょう!」って怒られる。ああ、はい、すみません。(わかってないな、この人…)。こういう患者さん、多い。いや、多すぎる。

話を変える(いや、変えてないんだけど)。著者が子どもの頃——近所のおばあちゃんたちは、みんな元気だった。縁側でお茶飲んで、孫の面倒見て、近所の人とおしゃべりして。

理想の老後? 違う。

あれは「のんびり」じゃない。家族がいて、やることがあって、会話があった。孫を叱り、嫁と喧嘩し(すみません)、息子に小言を言い——つまり毎日「関わってた」。それが刺激だったんだ。

三世代同居の時代。おばあちゃんは座ってただけ?  冗談じゃない。むしろ忙しかった。

令和は、ただの孤独である

時代は変わった。核家族化。独居高齢者の増加。

「老後は穏やかに暮らしたい」「ストレスから解放されたい」——現場でこういう声を何度も聞く。

気持ちはわかる。でも危ない。だって今の「穏やか」って、誰とも話さない、やることもない、予定もない——それ、孤独だから。

本人は気づかない。「自由でいい」「誰にも気を使わなくていい」って。最初のうちはね。

動かない→考えない→会わない

そして、この三つが揃うと、人は驚くほど早く衰える。筋肉は萎縮する。脳機能は低下する。社会性も失われる。医学的に証明されてる。

でも教科書に書いてないことがある。「いつから」衰えるのか。

答えは「今日から」だ。今日動かなければ、今日から衰える。

明日から? 来週から? そういう人は絶対やらない。経験上、断言できる。

小さな刺激があればいい

70代の女性。月に一度の食事会に行ってる人。昔の職場の仲間と。

「若い頃より今が楽しい」って言うんだよ。でも本気だった。若い頃は子育てや仕事で必死だったから、今の方が自分の時間があって楽しい、という意味らしい。

で、この人、めちゃくちゃ元気。何が違うのか?

食事会に「行く」ってこと。着替えて、化粧して、電車に乗って、人に会う。このプロセス全部が刺激なんだ。要するに、朝の散歩でもいい。友人への電話でもいい。YouTubeでもいい。

「今日と明日が同じじゃない」状態を作れ。それだけ。

のんびりすることが悪いわけじゃない。でも、のんびり「しすぎる」と、気づいたときには戻れない。これ脅しじゃなくて、現場で何度も見てきた事実。

老後は「人生の第二章」らしいけど、第二章を楽しむには、動くしかない。窓を開けて深呼吸する。近所を10分歩く。友人に電話する。新しいことを一つ調べる。

たったそれだけで、10年後が変わる。間違いない!

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)