どうする高市外交:中国問題はこのまま足を引っ張り続けかねない厄介者に

連日報道されている台湾をめぐる日中間の問題について高市氏はどう思っているのでしょうか?言論の世界を見ると当初は「当然」「よく言った」という声があったもののこのところ、一部の識者、元外交官らから厳しい声が出ているのも事実です。当の高市氏は沈黙状態になっているのですが、スルーなのか、時が経つのを待つのか、何か作戦があるのか、ここは読めません。南アフリカで開催される11月22日-23日のG20では李強首相とすれ違いになるのでしょうか?

11月7日 経済安全保障推進会議に出席した高市首相 首相官邸HPより

産経にしては珍しい記事が出ています。18日付のオンライン記事で「高市首相の『存立危機事態』発言 台湾侵攻抑止へ『正論』も、準備不足は否めず」というものです。記事には「政府内で準備を重ねて答弁したというよりは、国会論戦の売り言葉に買い言葉で本音を漏らしてしまったという実態だ」とあります。質問した岡田氏を責める声もあるようですが、それはお門違いで、それをかわさず、「首相はほとんど手元の原稿を見ず、『自分の言葉』で述べているように見えた」」(産経)と指摘するように、本音を吐いたということではないでしょうか?

本件については11月13日付の当ブログで意見を述べさせていただいているのでこの事象についてはこれ以上申し上げません。ただ、その後の中国政府の動きを見ると高市氏が今後、中国の外交案件について発言をしにくくし、機先を制するつもりなのでしょう。高市氏の発言による経済的影響はそれなりに大きくなりつつあるわけで既に一部のインバウンド業者やホテル、一部の輸出関連業者からは悲鳴が上がっていることは無視できないでしょう。

高市発言 vs. 中国総領事発言
高市総理の台湾に関する「存立危機事態」発言を受けて大阪の中国総領事が「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない」とSNSで述べたことで日中双方でいまだにその興奮が冷めない状態にあります。 高市氏...

日本政府は中国人に「訪日を止めろ」という中国政府の発言は常軌を逸していると指摘していますが、中国は国民をうまく操ることで圧倒的な間接的圧力を与えるのが得意であり常套手段です。2012年の尖閣問題と似た手法です。燃え盛れば盛るほど中国は「だから言っただろう、火遊びは止めろ」というわけです。「火遊び」という言葉自体が小バカにした表現なのですが、華夷思想という歴史的背景のもと、超大国となった今、中国からすれば新米の首相に舐められるわけにはいかなかったのでしょう。

高市外交は就任直後の外遊などで世界のトップ、要人との挨拶を重ねました。その中で明白にしたのが米国追随外交でトランプ氏を持ち上げたわけです。これは従来の日本政府の立場である日米関係重視という点では何ら問題はないのですが、私が当時のブログで「はしゃぎすぎ」と苦言を呈したのは第三国が見る日米関係と高市氏のパーソナリティがストレートに出過ぎたことを気にしたのです。最も重要なことは日米関係とトランプ氏は一体ではないのです。トランプ氏は今のアメリカを代表していますが、数年後にはどうなっているか全くわからないのです。とすれば日本政府が目指すのは安全で安定的な日米関係を築くためにブレずにしたたかにお付き合いすることではないでしょうか?仮に先々、トランプ氏が失脚するようなことになれば「高市さんはトランプ派だったよね」という色が邪魔しかねないのです。

外交に鮮明な色をつけるかどうかは時々の状況から判断するしかありません。個人的にはトランプ氏は今後、予想通りというより予定通りに守りの政策に入ります。トランプ氏が大統領任就任する際、私は氏が大暴れできるのは初年度だけ。2年目は中間選挙を控え、守りになり、3年目は歴史的にねじれ議会となり、4年目はレームダックと申し上げました。トランプ氏を取り巻く現在の状況は正直、守りになりつつあり、攻めるネタが少ない状況です。

そんな中、日経の「高市外交、ヒントは欧州流に」の一節が気になります。「米中日関係に詳しい欧州大学院のジュリオ・プリエセ博士は台湾問題で接点を探るため、米中がひそかに折衝している可能性を指摘する。そして『中国はホワイトハウスが姿勢を軟化しているとみて、対日圧力を強めても構わないと自信を深めている』と語る」とあります。この記事の信憑性は考える必要がありますが、個人的にはトランプ氏が台湾問題にさほど積極的ではない気がします。習近平氏との会談で「台湾に手を出せば北京を攻撃する」という趣旨の発言をしたじゃないか、という反論もあるかもしれませんが、これを述べたとされるのは大統領の選挙戦の時。それと今ではまるで状況が違います。

高市外交はアメリカに追随し、アメリカという傘の中で国際問題や外交問題を日本に有利なように進めるという従来姿勢の踏襲に見えます。個人的にはこれにやや違和感を覚えています。日本の外交は日本固有の地政学的、歴史的、社会的、経済的立場を十分に加味し、戦後80年経った今、独自の道をもう少し強化すべきであり、アメリカや中国とは連携するときには連携し、言うべき時は言うという独立独歩の姿勢を貫いてほしいのです。もちろん、二国間提携、経済や安全保障の多国間連携はケースバイケースで進めるべきですが、アメリカ偏重ではなく、欧州がとったアメリカ外交のように要領よく、上手にやることも必要でしょう。

高市氏はマラソンでいう初めの2-3キロを飛ばし過ぎてかなりしんどいところに見えますが、ここは踏ん張りどころです。他の案件が山積している中で中国問題は火消しをうまく図らないと足を引っ張り続ける厄介者になりかねません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月20日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。