AIとテクノロジーが加速度的に浸透する今、私が大学生ならどういう就活を考えるか?

私は1984年に大学を卒業したのですが、ある意味、良い時に卒業したと思っています。バブル経済の前夜であり、日本経済が最高潮に達するところを社会人として経験できたのですから。90年代以降に入社した後輩たちは「ボーナスは入社した年が最高でした」とか、「給与は上がらないものだと思っていました」というのですから寂しいものです。

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ところで雇用と産業革命という話があり、過去の産業革命の際には雇用の大幅な入れ替えがあったものの新しい産業が生み出され、結果として雇用がだぶつくことはなかったとされます。よってAIが浸透しても新しい産業が創出され、雇用は大丈夫だろうという記事を読んだことがあります。違和感があるのは産業革命は主にエネルギー革命であり、石炭から石油へ、石油から原子力へといった変化に伴う産業界の大変革を指すのが一般的です。ではAIとテクノロジーの加速度的浸透を過去の産業革命と同等に扱うのは正しいのかという疑問が残るのです。

数週間前、世界経営者会議があり、DeNAの南場智子会長が登壇した記事「AIは全てのスタートアップにチャンス」(日経)がありました。よくわからないなぁ、と思い、3度読んだのですが、頭が悪いのか、やっぱりわかりませんでした。

日本はイノベーションが得意ではない⇒AIはイノベーションに大きな波となる⇒すべてのスタートアップ企業にチャンスがある⇒大企業偏重の日本においてスタートアップを目指そう、というもの。この南場さんのロジック、お分かりになる方がいれば教えて頂きたいと思います。

南場さんは起業に非常に熱心で彼女の書籍も読ませていただいています。ただスタートアップとAIを結び付けた時点で南場さんも錆びたかなと感じています。私が感じるAIの凄さは効率化だと思います。一方、スタートアップの神髄は誰もやったことがないブルーオーシャンビジネスをどう立ち上げるかのはずです。その答えはAIには書いていないのです。それこそ様々なアルバイト経験や社会奉仕、大学のクラブ活動やゼミなどを通じて驚異的な刺激を受けながらイマジネーションの噴水を高く噴き上げることがスタートアップの源泉なのです。スタートアップのネタはNon-AIからであり、起業したらAIをうまく活用したらよいのではないでしょうか?

さて、アメリカは政府機関の閉鎖が続いていてようやく出た雇用統計も信憑性はイマイチ。政府機関が閉鎖中に注目されたのが民間企業による調査なのですが、Challenger,Grey &Christmas社がアメリカ企業の10月の人員削減発表が15.3万人で2003年以来だと報じていました。10月だけの話なので間引いて考える必要がありますが、グラフを眺めていてコロナの時よりもリーマンショックの時よりも人員削減数が多いのか、と思ったときちょっと固まってしまったのです。リーマンショックは2008年9月15日だったので2008年10月と今年の10月の比較はあまり妥当ではないと思いますが、それにしてもそんなに悪いのか、と。

今回の人員削減の原因はコロナ後に採用しすぎた企業の雇用調整、関税の影響、そしてAIとあります。先般の報道ではアメリカの大学生に大学を卒業したら配管工とか建設業などブルーカラーを目指す人が増えた理由はAIに職を直ちに浸食されないからだ、という意味が分かる気がします。

もう1つブルームバーグの記事をご紹介しましょう。NY連銀が発表した学生ローンの延滞率が過去最高の14.4%に達したとあります。高金利、若年層の雇用難がその背景にあるようです。日本でも学生の就学ローンは増えてきていますが、アメリカはとてつもない金額の就学ローンを抱えても将来、高い給与の職に就くことで10年以上かけて返済するのが人生のシナリオでありました。ですが、今や魅力的な就職口がない上に就職しても「こんな仕事は嫌だ」とあっという間に退職してしまうのです。雇用の入れ替え戦も非常に激しくなり、若年労働者の雇用の選り好みも酷くなっています。

これらの記事や社会の状況を並べられた上で、もしも私が大学生ならどういう就活を選ぶか、という質問をされたらどう答えるでしょうか?「そんな不安定な予兆があるなら公務員になる」というのでしょうか?大学生ならばこれから始まる約45年ほどの社会人生活のスタートに立つわけです。45年後とは2070年頃までです。全く予想がつかない時代まで現役として活躍しなくてはいけないのです。

その時、この荒波から避けるように小さな安定に逃げ込むのが良いのか、荒海の中、波を乗り越えていくのが良いのでしょうか?若いうちはあえて困苦を選ぶのはアリだと思います。やり直しがきくからです。それ以上にスキルを身につけること、そしてあらゆることを人に頼らず、自分でやる癖をつけることでマルチタスクを担えることが大事ではないでしょうか?

ところで私が大学生ならすぐには起業はしません。かつての起業家は我が道を行くというスタイルが格好良いものだったのですが、どんなビジネスを立ち上げるにせよコンプラやら取引先のガバナンスという枠組みにがんじがらめにされる時代になったのです。言い換えるとスタートアップしたビジネスが数少ない取引先と阿吽の関係を構築するだけならよいかもしれませんが、発展性がありません。だったら企業に入って3年から10年ほど人間関係や組織、ルール、ビジネスのツボを学ぶ方が良いでしょう。それと若い時の起業は粗削りなことが多いのです。それが功を奏するときもあるし、全く太刀打ちできなくなることもあるのです。

私はあえてGrit という言葉を前面に掲げたいと思います。意味は「やり抜くチカラ」「粘り強さ」です。AIがテクノロジーであるなら人間ができることはめげずに前を向き、着実に歩を進めるという気骨だと思います。どんな仕事に就こうが、前を向き、将来を見据え、今与えらた仕事を120%こなして更に周りを見渡す余裕を持ち、勉強し続けることではないかと思います。するとハッと良いアイディアが浮かんだりするものです。そしてアイディアは空から降りてくるのではない、アイディアは自分で取りに行くのだ、ということを肝に銘じてもらいたいですね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月23日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。