ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は、会期を1日延長する異例の展開となった。22日に示された最終成果文書「ムチラン決定」は、最大の争点だった化石燃料からの脱却ロードマップを盛り込まず、気候政策の潮目の変化を象徴する内容となった。世界は理想論よりも現実的な適応策やエネルギー安全保障に議論の軸を移しつつある。
- 22日、COP30事務局が最終案「ムチラン決定」を公表し、化石燃料からの脱却ロードマップは最終的に盛り込まれなかった。
- EUを中心とする気候活動家は大きな後退を余儀なくされ、脱炭素をめぐる国際的な潮流は理想追求から現実路線へ軸足を移しつつある。
- 背景には、脱炭素を急いでも数年〜数十年スパンで気候変動の変化は限定的とする研究が増えていることや、経済的負担の増大よりも「適応」を優先する方が合理的とする意見が広がっていることがあげられる。
- 同じ時期に、クリス・ライト米エネルギー長官は、再エネに4〜8兆ドルを投じても電源比は2.6%にとどまり、成果は乏しいとして「化石燃料の安定供給に軸を戻すべきだ」と述べた。ダグ・バーガム内務長官も「エネルギー移行などない。増えているのは需要だけだ」とし、高効率の化石燃料技術が不可欠だと強調した。
- 世界で高効率石炭火力を含む化石燃料利用技術を持つ日本は、エネルギー安全保障の観点からも輸出拡大の余地が大きいと評価されている。
- COP30の注目度自体が低下し、主要国の首脳参加は限定的。COP29でも英国とイタリアのみが参加するなど、国際交渉の重みが変化している点が指摘されている。
- 一方、COP会場ではWNA(世界原子力協会)が、原発容量を3倍にする国際宣言への賛同国が31カ国に達したと報告。ルワンダとセネガルも新たに加わり、支持は拡大している。
- 世界では現在440基・397GWの原発が31カ国で稼働し、建設中の原発は70基。2024年の原子力発電量は過去最高の2667TWhに達しており、原子力への回帰が鮮明になっている。
- 産業界・金融界の原発支持も広がり、COPの新たな論点として「現実的なエネルギー供給確保」が前面に出てきた形となっている。
COP30は、化石燃料廃止をめぐる激しい対立の中で、脱炭素ロードマップの明記を断念する結果となった。背景には、再エネ中心の政策の限界と、エネルギー安全保障・経済負担・技術現実性を重視する方向への世界的な潮流の変化がある。
原子力支持の拡大はその象徴であり、国際社会は理想論よりも現実的な政策選択へと舵を切りつつある。
COP30 HPより