賞与がなくなる?:なぜ賞与の給与化が取りざたされているのか

12月といえばボーナス、と思う方もいらっしゃるでしょう。主に6月と12月に支給されるボーナスはお勤めの方にとってインセンティブであり、「幾らくれるんだろう」という楽しみの部分でもあります。これをお読みの皆様もボーナスにまつわる様々な思い出はあろうかと思います。

最近一部の企業で行っているボーナス支給額を減らしてその分、給与への組み入れるという話題を考えてみたいと思います。その先陣を切ったのがソニー、大和ハウス、バンダイあたりのようです。なぜ賞与の給与化が取りざたされているのか、少し覗いてみましょう。

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まず日本独特とも言える賞与の歴史ですが、江戸時代の「お仕着せ」が起源とされます。お仕着せとは商人が奉公人(=従業員)に盆と暮れの休み前に着物や金品を持たせたとされます。これが会社として制度化されたのが明治初期に三菱商会(岩崎弥太郎が興した海運会社で現在の三菱グループの源流)が行なったこととされます。

そもそも江戸時代のお仕着せにもある通り、賞与は盆と暮れがキーワードで昭和の時代にはお世話になった人や親戚、時として会社の上司などにお中元、お歳暮という形で贈り物をすることでどの家庭も「入用であった」ことも影響しているかもしれません。また、お盆と正月は実家に行くという習慣は今でも変わらずで、その旅費や土産などで出費がかさむということもあります。

住宅ローンを組んでいる方は「ボーナス払い」を選択している人もいらっしゃると思います。私も若かりし頃、日本でマンションを購入した際には「ボーナス時上乗せ払い」をしており、当時、賞与はほとんどローン返済に消えるという状態でした。そういう意味では賞与をもらった実感はほとんどなかったと記憶しています。

では最近、一部の企業が賞与の給与化を進めている理由を箇条書きに書き出してみましょう。

① 表面的な給与支給額が大きく見える。特に新入社員の月額報酬の大きさは採用に影響あり。
② 外資系企業との差。(ボーナスの観念がない外資系と月額報酬額に差がでる。)
③ 外国人従業員も増える中、ボーナス制度が国際感覚の中で異質感となりつつある
④ 盆暮のつけ届けの習慣はほとんどなくなり、「お仕着せ」を踏襲する実質的理由なし
⑤ 月収一定額以上の人ならば社会保険料が節税できる

こんなところかと思います。特に気になるのが⑤の社会保険料の節税です。これは月額報酬が63.5万円を超える人は厚生年金の標準月額報酬額65万円のMAXにヒットします。つまりそれ以上はかかりません。また健康保険料と介護保険料は月額報酬が135.5万円になると標準月額報酬135万円のMAXにヒットします。後者の場合はかなり年収が多い人になりますが、前者の場合、ボーナスを含めた年収が8-900万円ぐらいの人はメリットが生じます。

賞与にはMAXがより高い賞与に適用される保険料や厚生年金の控除があり、ある意味、余計に払わねばならないことになるのです。この社会保険料の節約効果は年収により数万円から10万円を超えることもあります。変な話、給与は最低月に一度払わなくてはいけないのですが、社会保険の仕組みは報酬をもらう毎にしっかり控除される制度設計になっているので、ボーナスを含めた年14回の支払いは社会保険料の徴収側には都合よくできているとも言えるのです。よって究極の社会保険料節約は報酬の年12回払いが理想的ではあります。

ではこの制度、もろ手を挙げて賛成できるか、といえばそうとも断言できません。それは賞与は支給側にとって「業績連動」であり、会社がしんどい時には従業員にも「すまぬ、ここは耐え忍んでくれ」という都合がよいものがあるのです。もちろん、業績が良い時には賞与も増えますが、支給する側は相当抑え気味にするのが実態でしょう。理由は従業員の立場からすれば業績がどうであろうと常に自分の中の「昨年比」という比較をするため、ある年に賞与を上げすぎて、翌年に2割も下げれば従業員のモチベーションは下がってしまうのです。そういう意味では賞与制度は雇用側に都合がよいとも言えなくはありません。

海外では賞与という考え方は幹部などが年収設定において業績連動になっている場合に貰うケースがありますが、それはごく一部の層だけ。むしろストックオプションの付保がより一般的だと思います。ただし、それらは上場企業にお勤めの方でないと換金性がないとも言えます。

当地で人を採用する際は大まかに時給、月給、年収の3通りあり、フルタイムの雇用の場合、月給で比較することが一番多いと思います。当然そこには賞与という思想はないし、期待もされません。ただ、実態としてクリスマスの頃に寸志程度の額を出すのは割と多いかと思います。私のところも5000円から1-2万円程度は餅代として配ります。

どんな場合でも定常の収入とは別にお金をもらうのは嬉しいものですが、一方で毎月平均的な金額をもらう方が生活設計しやすいという声があるのも事実。とすれば企業の組合が「賞与、満額回答!!」という時代は昭和の習慣ということになるかもしれません。個人的にはインセンティブ目的と生活の安定感を考えると賞与はせいぜい1か月分も頂ければ十分な気がしますし、支給も年1度、つまり6月の賞与は廃止して12月だけで十分ではないかと思います。ただし、日本の企業は多くが3月決算で6月の賞与は業績連動しやすいとこじつけをするのかもしれませんが。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月26日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。