丹田とか言われても、俺には関係ないと思っていた

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「丹田」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

へその下、約5センチほどの位置にあるとされるこの場所は、東洋医学や武道の世界では古くから「氣の中心」として重要視されてきた。この部位を意識することで心身のバランスが整うという経験則は、数千年にわたって受け継がれている。

脳と心が休まる 3分間おでこ瞑想:「考えすぎ」から、「今、ここ」に集中!』(藤井英雄 著)三笠書房

丹田瞑想は効く。マジで効く。いや待て、引かないでくれ。怪しい壺を売りつけようとか、そういうんじゃない。ただの体験談だ。

3年前の俺は、丹田なんて言葉を聞くたびに「はいはいスピリチュアルね」と心の中でスルーしていた。へその下5センチ? そこに何があるんだよ。内臓だろ。腸とかそのへん。「氣が集まる」? 見えないものは信じない主義だった。理系じゃないけど。

仕事がやばかった。いや、やばいってレベルじゃない。毎晩3時まで原稿。朝9時に起きてまた原稿。土日? なにそれおいしいの?状態。締め切りは守った。社会人として当然だ。でも、体が悲鳴を上げた。

動悸がする。夜中に目が覚める。朝起きても、HPが全回復していない。

これ、ゲームで言うところの「毒状態」ってやつだ。ターン終了ごとにHP削られるやつ。回復魔法が追いつかない。

病院に行った。医者は言った。「自律神経失調症ですね」

……知ってた。いや、知ってたわけじゃないけど、そんな気はしてた。薬をもらった。飲んだ。効かない。おい。医療とは。現代科学とは。

そんなとき、知人が言ったのだ。

「丹田瞑想、やってみたら?」

は? いやいやいや。俺は今、自律神経失調症で苦しんでるんですけど? 医学的なアレで? それを「へその下に手を当てて息を吸え」で解決しようとしてる? 正気か?

でも、他に選択肢がなかった。薬は効かない。医者は「ストレスを減らしましょう」としか言わない(それができたら苦労しねーよ)。

仕方ない。試すだけ試してみるか。ダメ元だ。失うものは何もない。プライド? そんなもん、不眠で3日目の夜に捨ててきた。

へその下に手を当てた。鼻から息を吸った。1、2、3、4。口から吐いた。5、6、7、8。

「息が丹田まで届くイメージで」と言われたので、イメージした。肺を越えて、横隔膜を越えて、へその下まで空気が入っていく。物理的には無理だ。わかってる。でもイメージしろと言われたのでイメージした。

すると、手のひらが、温かい。いや、違う。おなかが温かくなっていて、手がそれを感じ取っているのだ。なんだこれ。偶然か? プラシーボか? たまたま暖房が効いてきただけか?わからない。でも、その夜。ぐっすり眠れた。

久しぶりに、朝まで一度も目が覚めなかった。HPが全回復していた。いや、全回復は言い過ぎか。でも8割は回復していた。昨日まで5割だったのに。

翌日もやった。その翌日もやった。毎日やった。朝5分、夜5分。通勤電車の中でもこっそりやった(さすがにおなかに手は当てないけど、呼吸だけ)。1週間で動悸が減った。2週間で夜中に目が覚めなくなった。1ヶ月後、薬をやめた。

何が起きたのか、正直わからない。面白い話がある。

「意識を向けたところにエネルギーが集まる」らしい。手を当てると、脳がその部位を認識する。血流が増える。温かくなる。「何かある」と感じる。

結局さ、現代医学だって「なぜ効くかわからないけど効く薬」っていっぱいあるわけよ。麻酔の仕組みだって完全には解明されてない。「理屈がわからないから信じない」って、科学的なようで実は思考停止なんだよな。

腹を据えて立つ。座ってもいい、寝てもいい。丹田(へその下5センチくらい)に手を当てる。鼻から吸う。4カウント。口から吐く(集中したいなら鼻から)。4カウント。息が丹田まで届くイメージを持つ。2〜3分続ける。

道具いらない。金かからない。副作用ない。最悪、効かなくても失うものは数分の時間だけ。ただ、やってみてくれ。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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