高市首相は「インフレ確信犯」

高市首相の新しい経済政策は財政支出により経済を刺激し需要創出から経済成長を実現する目論見と思われます。一方で、インフレに対しても目配りを行い、国民生活を守る対応を行うとしています。

しかし、現実に行われてきたこれまでの政策や発言を見る限り、本気でインフレを沈静化させようと思っているようには見えません。

むしろ、マイルドなインフレを許容して税収を増やしていくことで、財政赤字問題を解消しようとしているように見えます。

2020年度から2025年度までに税収が約60兆円から20兆円も増えて財政赤字が減っています。このまま税収を増やしていければ財政赤字を実質的に小さくできることになります。

インフレが進んだとしても、それ以上に賃金上昇が実現すれば働いている若年層にとっては実質的な収入増加につながります。

そして、インフレで預貯金を保有しているシニア層の資産を実質的に減らすことにより世代間の資産移転を進めることが可能となります。

高市首相は増税をするよりもインフレ税によって財政赤字問題を解決しようとしている。とすれば高市首相は「インフレ確信犯」ではないでしょうか?

インフレによって経済の諸問題を解決しようとする手法に私は賛成ですが、これには2つのリスクがあると思います。

1つはインフレが収まらないことによって内閣支持率が低下し、政権の求心力が弱まることです。

賃金がインフレ率以上に上昇すれば不満はありませんが、主な収入源を年金に頼っているシニア層はインフレによるマイナスの影響を強く受け、生活水準は下がっていきます。

シニア層からの支持が得られなくなるリスクを取ってまで、敢えて経済問題の抜本的解決に踏み込もうとしているのかはわかりません。

もう1つの問題はインフレや円安が想定以上に加速し、経済が混乱するリスクです。

現状のインフレ率は年3%程度です。年率5%程度までの物価上昇であれば許容されるのかもしれませんが、更にインフレが加速し2桁にでもなれば経済が混乱し政権批判も強まります。

為替に関しても同様です。1ドル=200円を超えるような円安になれば、為替介入や通貨防衛のための利上げに追い込まれる可能性があります。このような状態は政府にとって好ましくありません。

私の「インフレ確信犯」仮説が正しいとすると、今後は預金者・年金生活者にはとても厳しい未来が待っていることになります。

「インフレに強い資産を持ち、外貨資産を増やし、お金を借りておく」

10年前から繰り返し言ってきた一見「非常識」な資産運用の方法がいよいよ世の中の「常識」に変わる時が来る予感がしています。

令和7年11月18日 首相官邸で日本銀行の植田和男総裁と会談を行う高市首相
首相官邸HPより


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年11月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。